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魔法少女 五十嵐さんちの無双姫  作者: ケシゴム
原石は光り輝く
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☆決めポーズ☆彡

 白く薄い姿はまるで切り紙のように宙に浮き、頭と胴体は人の形をしているがそこから伸びる数本の手足は干しイカのように細く長い。目や口は黒く、のっぺらな顔は幽霊のような不気味さを漂わせる。

 俺達が騒いだ事により姿を現した抗痛の魔女は、とても生物とは思えない軽さがあった。


「あれが抗痛の魔女ですか」


 さすがに三戦目ともなるとそれなりに風格も出て来たのか、一気に空気を変えてリリアが言った。


「あぁ。あれが抗痛の魔女だ」


 リリア達の最後の相手に抗痛の魔女を選んだのには訳があった。それはあの生命とは呼べない姿だ。今回はリリア達の成長という目的ではなく、集大成という締めであるため、他者を傷付ける事を恐れるリリアとヒーが戦いやすいであろう相手を選んだ。

 それが功を奏したのか、リリアとヒーは抗痛の魔女を前にしても体を正面に向けた。

 それでもやはりこの二人。堂々とはしているが“いつもの”が始まった。


「私は五十嵐理利愛と申します。この度は遠路はるばるご苦労様です」


 多分リリアは自己紹介だけでは物足りないとでも思ったのだろう。何故かご足労を口にした。


 え? どういう事? こいつ思ってたより最後に動揺してるの? それともただの嫌味?


 良く分からないが、それでもリリアなりには敬意を払っているようで小さく会釈をした。


「私は五十嵐妃美華と申します。この良き日に貴女に出会えたことを感謝致します」


 ヒーもいつもとは少し違うようで、違和感のある挨拶をした。そんなヒーの自己紹介が終わると、空かさずフィリアが挨拶する。


「私はフィリ……佐藤友子と申します。世の理に従い、貴女のお命を頂戴致します」


 え!? こいつらもしかして……


 そう思った瞬間だった。突然フィリアがタイミングを取るように「せ~の」と言った。


 まさか!? 


「我ら世界の平和を愛する魔法少女!」


 こいつら最後の最後で何をしようとしてんだよ!


 三人の違和感のある自己紹介は、ここに来てまさかの決め台詞だった、のだが……


「“ラブいがァーズ!”」


 何故か最後の最後だけは詰め切っていなかったようで、重要な部分でそれぞれが好き勝手ポーズを決めて言ってしまったせいで、見るに堪えないグダグダだった。


 酷いっ!


「ちょ! ラブリーファイターズじゃなかったんですか!? 二人ともなんて言ったんですか!?」

「フィリアこそラブリーファイターズは駄目だって決まってたのに何で言ったんですか!?」

「そんな事はありませんよ! リリアだって悪く無いって言ってたじゃないですか!」

「え! あれはそういう意味ではありませんよフィリア!」

「とにかく二人とも落ち着きましょう。きちんと煮詰めなかった私達が悪いんです。それでも何故ポーズだけは決まったはずなのに、二人とも勝手な事をしたんですか?」

「あ~! それはズルいですよヒー! 手の形だけは合わせれば何とかなると言ったのはヒーじゃないですか!」

「そんな事は言ってませんよ。腕と頭の位置と向きと言ったんですよ」

「ヒーちゃん、それは言いようじゃないですか? 各自で考えて合わせると言って調整しなかったじゃないですか?」

「それを言ったら全員に責任がありますよフィリア。こんな完成されていない状態でやろうなんて無理があったんです」

「それでも時間が無いって言ったのはヒーじゃないですか!」

「それを強行しようとしたのはリリアですよ?」


 何してんだよこいつら!? 最後の最後でまさかの喧嘩かよ!?


 常に互いを尊重し合い姉妹のような関係を築いてきた三人だが、余程重要な事だったらしく抗痛の魔女を前にしても平然と喧嘩を始め出した。


「おいやめろ! おまえら一体何なんだよ! なんで最後の最後で喧嘩なんかしてんだよ!」

「いやだって。聞いて下さいよリーパー」

「だってじゃない! お前らこれが最後だって分かってんのか? この戦いはお前らがラフになった集大成じゃないんだぞ? これはお前らが生きて来た人生の集大成なんだぞ? なのになんでここに来て喧嘩なんてしてんだよ? 折角お前たちの為にやって来てくれた抗痛の魔女にも悪いと思わねぇのか?」

「い、いや……その……すみません……」

「謝る相手間違ってるだろ! 俺に謝ってどうすんだよ!」

「あ……はい……」


 余りに身勝手な態度を取った三人に教育として叱りつけた。すると根は素直な三人は、真摯に自分たちの行為を反省したのか肩を落とした。しかし……


「私達のせいで嫌な思いをさせてしまい、どうもすみませんでした!」 

 

 俺は互いを罵った事を謝れと言ったつもりだったのだが、五十嵐病末期の三人は抗痛の魔女に謝った。


 ほんと何してんだよ! つーかフィリア、お前はそっちに行ったら駄目だろ!


 これに対し抗痛の魔女は当然無反応。ヒラヒラと長い手足を靡かせ静かに佇む。そんな態度が純粋なリリアとヒーには攻撃となったのか、困ったように目を泳がせ始めた。


「ど、どうしますかヒー? 完全に怒らせてしまったんじゃないですか?」

「恐らくそうだと思います。やはり完成されてはいないにも関わらずお粗末な決め台詞は侮辱以外の何物でもありませんから」

「そ、それはそうですけど……」

「下手をしたら挑発と取られても仕方がありません」

「くっ! ヒー! フィリア! もう一度謝りましょう!」

「はい」


 もう意味が分からなかった。こいつらは一体何を目的としてこの場に臨んだのか説明が欲しいくらいだった。

 しかしこの辺りでさすがのフィリアも気付いたのか、やっと本線を思い出したかのように二人を諭す。


「落ち着いて下さい二人とも。これから私達は抗痛の魔女と戦うんですよ? 確かに先ほどの私達の態度は頂けませんが、それでもきちんと謝罪をしたので、ここからは敵として向き合わなければそれこそ失礼になりますよ?」


 いや~フィリアがいてくれてホント助かる。二人は礼儀は出来ていても少し常識が足りないから、こういう時にきちんと教えられる大人がいるとホント助かる。じゃなくて! なんでフィリアは今そんな説教の仕方を選んだの!? お前なら戦いの礼儀知ってるはずだろ!


 このフィリアの説教に対し、リリアとヒーは反省の色を見せた。しかし二人にも曲げられない信念があるのだろうか、まだグダグダを続けようとする。


「それはそうですけど……でもいくら相手が敵だとしても、互いが納得するような謝罪でなければ意味が無いと私は思います」

「まぁ確かにそうですけど……」


 負けんなフィリア! もうさっさと始めろよ!


「私もリリアの言う事には賛成です。敵だから礼儀は要らない、敵だからどうでも良いとは思いません。それではどちらが勝っても恨み辛みが残り、いつまで経っても平和は訪れません。戦争の遺恨により今なお苦しむ人たちがいる事を知る私達は、それを学ばなければいけないはずです」

「まぁ……そうですね……」


 純粋百パーセントのヒーの言葉に対し、邪心七十五パーセントのフィリアでは到底太刀打ちできない模様。しかし邪心故に浸食を得意とするフィリアは、力で突破を図りにかかる。


「ではこうしましょう。もう一度だけ心を込めて謝りましょう。ですけど後一回だけです。次があるからと思えば必ず心に緩みが出てしまいます。次の謝罪は一生で一度しか許されないくらいの気持ちを、魂を込めてしましょう」

「はい!」


 あれ? 俺達って抗痛の魔女の討伐に来たんだよね? これって熱血ものの学園ドラマとかじゃないよね?


 もう何が何だか分からなくなってきたが話はまとまったようで、三人は横一列に綺麗に並び、「申し訳ありませんでした!」とまるで企業の謝罪会見のお偉いさんのように息の揃ったお辞儀を見せた。

 それはとても美しく、頭を下げ静止した数秒間の沈黙がエンターテイメントと呼んでも良いほど素晴らしいものだった。

 

 あ、これがこいつらの決めポーズだったんだ……


 こうして世の中のどこを探しても見当たらないと断言できる特殊な決めポーズを披露した三人は、抗痛の魔女との決戦に入る。


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