廃業
酔闘の魔女が無残に倒れると、リリアとヒーは眼光鋭くしばらく様子を見ていた。その姿には今までの命を恐れる弱弱しさは無く、立派な戦うラフの姿だった。
それでも完全に動かなくなった酔闘の魔女に勝利を確信すると、怯えたような表情でフィリアに駆け寄り、無事が分かると二人で大泣きした。
今まで自身の手で得られたものなどほとんどないとフィリアに言わせた二人には、今手に入れている者はかけがえのない“宝者”なのだろう。だからあれほど必死に戦い、「良かった」と涙を流せる。
しかしこれが当初の目的、自信を付けさせるとは同義ではなかった。
――☆☆☆☆☆――
「えっ!? 辞める!?」
あれから数日が経ち、いよいよゴールデンウィークも僅かとなったある日、突然リリアとヒーから思わぬ言葉が飛び出した。
「……はい」
酔闘の魔女戦の後、フィリアから二人へのお詫びがしたいとの申し出があり、それも兼ねてリリア達は数日だがラフからは離れた生活をしていた。
休日中はフィリアに旭川の動物園へ連れて行ってもらったり、食事や買い物、近くの温泉など、フィリアの施しに二人は全てを忘れたかのように笑顔の絶えない日々を送っていた。
そんな二人が突如としてラフを辞めたいと放った。
「そ、そうか……」
これには正直驚きより無念さが上回った。それでもラフが辞めたいと言うのなら、それを止める権利は俺には無い。
「で、ですが。今すぐというわけではありません。リーパーに折角夢を叶えて貰った感謝もありますし……だからせめて、後一回はリーパーの為に戦います」
この二人を選んで本当に良かった。例え終わりだとしても、最後は俺の為に戦ってくれると言ってくれた。こいつらに出会えて俺は本当に恵まれている。それに引き換え……
「まぁ仕方がありませんよ。例え夢だとしても、日々命懸けの戦いなら誰も責めはしませんよ」
多分というか、絶対酔闘の魔女との戦いが原因なのに、ここでフィリアはいけしゃあしゃあと二人を擁護する。
「申し訳ありませんフィリア。折角フィリアを誘ったのに、こんな事になってしまって……」
「謝らなくても良いんですよ。私もあの戦いでリリアとヒーちゃんにはラフを辞めて欲しいと思っていましたから」
くそっ! こいつは一体何がしたいんだよ! 一体何が望みなんだよ!?
「でも……折角旭川に連れて行ってもらったり、洋服とかまで買ってもらったのに……」
「あれは助けて貰った私からの感謝ですよ。だから何も気にしなくても大丈夫ですよ」
あれは騙した詫びだろ! 何平然と嘘付いてんの!? フィリアって堕天使なんじゃないの?
「それに、何も後一回なんて言わないで、すぐにでも辞めてしまえば良いじゃないですか? もしその一回で命を落としてしまったら元も子も無いんですよ?」
元も子も無いのはお前の頭だよ! 何とんでも無い事言ってんの!?
「それは駄目です! それではリーパーも私達も笑って終われません!」
「そうですよフィリア。リーパーのお陰で私達は夢を見られたんです。このままじゃ終われません!」
こいつら本当に良い子だよ。今まで苦労ばかりさせられたけど本当に良い子だよ。苦労はさせられたけど。
「ふぅ~。二人ならそう言うと思っていました。仕方ありませんね。最後は一緒に頑張りましょう」
「はい!」
クソフィリアめ! どんだけ調子が良いんだよ! ほんとどんだけ~!
「でも辞めるって言ってもあれだぞ。俺とした誓約はラフを辞めても成立するから、俺が……」
くそが! 忘れてた! 俺の寿命後百年も無いよ!
「分かっています。だけど私達は何一つ後悔していません。リーパーのお陰で私達は希望を持てました。それだけでも一つの人生を捧げる価値はあります」
リリアはとても良い事を言った。だけどそれは一方通行! 俺はこいつらが天使になると確信的に思ったから誓約したのにそりゃないっすよ!
「リーパーは気付いていないかもしれませんが、私達はリーパーに出会わなければ変わる事は出来ませんでした。例え世間が短いと言おうとも、私達にはとても濃く深い経験でした。ありがとう御座います」
ヒーも本当に感謝しているのは伝わったが、そりゃないっすよ! 第一俺リーパーじゃねぇし! 全然スッキリしないよ!
「リーパー。私はまだリーパーと出会いほとんど日が経っていないから何とも言えませんが、それでもリーパーが私達に恵んでくれた時間には本当に感謝しています。だから残りの時間は笑って過ごせるよう大切にしましょう」
フィリアー! 俺がお前に恵んだ時間だけは返してくれ! お前のせいでこんなことになってんだぞ!
そんなクソフィリアの言葉に、すっかり終わり感を出し始めた三人は、なんか勝手にハッピーエンド的な感じで笑顔を見せた。
誰か助けてー! 俺まだ死にたくないんですけど!
「ちょ、ちょっと良いかお前ら」
「どうしましたリーパー?」
完全窮地に陥り、分かっていても何としてもエンディングを変えようと命を燃やす事にした。
「ちょっと俺女神様のとこに行ってくる」
「え? あぁ私達が辞める事を報告に行くんですか?」
「え? あ、あぁ……」
「ありがとう御座いますリーパー。私達のせいで色々迷惑を掛けてしまって」
「え? あ、あぁ、だ、大丈夫だ……」
リリアとヒーの中ではもう完結しているのか、今までのやんちゃが嘘のようにしおらしい態度を見せた。
「じゃ、じゃあちょっと行ってくる」
「はい分かりました。ご迷惑をお掛けしてすみません」
「い、いや良いんだ。じゃあ行って来る」
「はい」
リリアとヒーには悪いがもう必死だった。もしかしたら女神様なら誓約を解約する術を知っているかもしれない。その思いに賭け女神様の元へ走った。
――☆☆☆☆☆――
「……それは無理ですねアズガルド」
「ええ!?」
女神様の元へ辿り着くと、早速リリアとヒーがラフを辞めるという事を伝えた。すると女神様は御憂いが一つお消えになったのが嬉しいのか、大層ご満悦な笑みを見せられた。しかし誓約の話を切り出すと、ちょっとは逡巡したがきっぱり無理だと仰った。
「誓約はどちらかが神でなくては解約できません。アズガルドには気の毒ですが、諦めるしかありません」
「そ、それはちょっと……」
「アズガルド、貴方の任を解きます。私からのせめてもの償いです。残りの余命は貴方の自由に使いなさい」
「ええっ!?」
まさかの展開!? 俺今日でクビ!?
「アズガルドは真面目に務め、立派に使命を果たしました。ここにそれを表し力を授けます」
「え!? ちょ、ちょっと待って下さ……」
そう言うとお忙しい女神様はもう俺の言葉など聞かず勲章という名の恩恵を授与なさった。トカゲの尻尾切り~!
天使は功績を上げると神様から恩恵を与えられる。それは功績により変わるが、恐らく俺が頂いたのは人間でいう退職金のような力だろう。それは与えられる功績の中ではかなり希少なものだが、逆に言えばそれを貰えば終わりである。
なのに女神様は有無を言わさずお与えになった!
「アズガルド。貴方には今、邪気を払う力を与えました。この力があればこの先アズガルドに降りかかる厄災を跳ねのける事が可能になります。短い余生ですがその力を使い、穏やかで平穏な時を過ごしなさい」
いやもう払いのけられない邪気が纏わり付いてるんですけど!? ならせめて誓約を解約する力頂戴!
「さぁ行きなさいアズガルド。貴方にご加護があるように」
ご加護は神様がくれるもんじゃないの!? 完全に生ごみ扱いだよ!
「ちょっと待って下さい! 俺は……」
「さぁアズガルド様。どうぞお引き取り願います。女神セレスティア様は御用があります」
「え!? ちょっ……」
完全にお役御免となった俺は、とうとう女神様の取り巻きにまで様を付けられ、強制的に退出させられた。
その後何度も女神様への謁見を試みるも、既に引退扱いになってしまった俺は相手にされず、天界から見放されてしまった。
←To Be Continued
酔闘の魔女編はここで終わりです。次回最終章???編は??に投稿します。




