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選ばれた時代

 酔闘の魔女の実力を痛感したリリアとヒーは逃げる事を捨てたのか、立ち向かう姿勢を見せた。その姿はとても弱弱しく構えとは呼べないものだったが、戦いを好む酔闘の魔女は応えるように静かに腰を据えた。


 酔闘の魔女が見せた構えは、先ほどフィリアを仕留めた古武術のようなどっしりとした構えだった。それは本気を意味し、武術を心得る者からすればもはやその間合いは聖域と呼んで良いほどの絶対領域。しかし残念な事にあまりにも差があり過ぎて、リリア達はもちろん俺ですらその感覚が全く分からなかった。

 だが逆にそれが功を奏した。力の違いが分からないからこそ、リリア達は恐れる事無く酔闘の魔女へアタックを仕掛けられた。


 時間稼ぎを止めた二人は、一直線に酔闘の魔女目掛け光速で突っ込む。だがやはり力だけでは敵わないようで、ほぼ同着と言って良いほどの速度で突撃した二人をいとも簡単に退けた。

 それはあまりに見事で、速すぎて見えない俺からはまるで二人が酔闘の魔女の体をすり抜けたようにすら見えた。だがほんの一瞬だけだが二人を制した時に速度がほんの僅か落ちた瞬間だろうか、フラッシュのように焼き付いて見えた姿は完全に二人の腕を合気道のようにいなしていた。


 恐らく酔闘の魔女であっても、あの二人の馬鹿力を受ければ只では済まないのだろう。そう思うと二人の攻撃への転換はもしかしたらという可能性を感じさせた。


 攻撃をいなされた二人は態勢を崩されたのか、大きな土煙を上げながら地面を削る。しかしすぐに体勢を立て直すと再び突っ込んだ。だが酔闘の魔女に同じ手は通用しないのか先ほどと同じように捌かれる。それでも二人は愚直に繰り返す。


「おい! それはもう通用しねぇ! やり方を変えろ!」


 フィリアがこの有り様である以上、もう二人が酔闘の魔女に勝つしか道はなかった。そこでここからは少しでも二人が有利に戦えるようアドバイスを送る事にした。

 しかし二人には俺の声は届いてはいないのか、突っ込んではいなされてを繰り返す。


「おい!」


 あまりにも経験不足だった。リリアとヒーは類まれな肉体を持ち運動神経も悪くない。なのに戦うという経験が圧倒的に足りなかった。それは戦術も知らないという事であり致命的だった。

 もし二人がフィリアのように格闘技にでも興味を持っていれば、例え天使力が扱えなくとも立派なラフになれた。そう思うと何とも言えない残念さが沸いて来た。


 そんな中だった、同じ行動を繰り返していたはずの二人だったが、何故か突然酔闘の魔女が逃げるように大きく飛び上がった。よく見ると酔闘の魔女の左膝から下が無くなっており、リリアとヒーが一発喰らわしたのだと分かった。


 おお! あいつら馬鹿じゃなかった! ちゃんと考えて攻撃していた!


 あのスピードとパワーを持つ二人なら大して驚く事では無かった。しかし武において熾天使を上回る酔闘の魔女という相手を前にした時、それは正に天賦の才と呼んで良いほどの偉業だった。


「おーし! よくやった! そのまま畳みかけろ!」


 これには力が入った。まるで我が子が殻を破ったような喜びがあった。なのに二人は足を掻っ攫っても深追いせず動きを止めた。


「どうした! 今がチャンスだぞ!」


 動きが止まった事で声が届いたのか二人はこちらを見た。だが次の瞬間ヒーは駄目だと首を横に振った。

 それは最初どういう意味なのかは分からなかったのだが、足を千切られた酔闘の魔女が着地すると、千切れた足を地面から土を吸い上げるように再生させたのを見て、元素変換による防御だと分かった。


 しまった! 酔闘の魔女にはこれがあった!


 今まで魔力を使った攻撃を仕掛けてこなかった酔闘の魔女に、最上位の力がある事を忘れていた。これでは例えリリア達の攻撃がヒットしても致命傷は与えられない。


「おいもう逃げるぞ! フィリアは大丈夫だ! お前らのどっちかが担げば逃げられる! 戻って来い!」


 もう勝ち目は無かった。例え打たれ強さで勝ってもいずれ負ける。逃げ切れる保証はないが、相手を選ぶ酔闘の魔女なら逃げる素振りを見せればもしかしたら見逃してくれるかもしれない。その思いに賭けた。

 しかし何故か聞こえているはずなのにリリア達はこちらを見ようともしなかった。


「おい!」

「アズガルド」

「え?」


 ここでやっとやる気になったのかフィリアが俺を呼んだ。


「貴方ちょっとうるさいですよ。今は私が結界を張っているから二人には聞こえませんよ」

「え?」


 え? え? 


「今折角良い所なんですから、貴方は黙って見てれば良いんですよ」


 ええ!? なんで俺が説教されてんの!? これ完全にピンチじゃん!


「い、いやでもよ。もうアイツらじゃ勝てないよ。このままじゃアイツら殺されちまうぞ」

「何言ってんですか。酔闘の魔女は私が作った私の練習用の魔女ですよ?」


 えええ!? 私の練習用の相手って何!? ど、どういう事!?


「じゃ、じゃあ何か。これは初めからフィリアが全部作った相手って事か……?」

「えぇ。正確にはこのために作ったわけじゃなく、私の練習用のリンボです」

「練習用って……?」

「武術の稽古の相手ですよ」


 ええ!? 何してんだこいつ!?


「じゃ、じゃあ、あの酔闘の魔女はお前が操ってんのか!?」

「はい」


 はいじゃねぇし! じゃあさっきのやられたフリかよ!?


「最初は彼女に任せるつもりだったんですけど、あの二人のスピードを見たらさすがに無理だと思って私が相手をしているんですよ。だからさっきからアズガルドがああだこうだ五月蠅いから危うくやられるところでしたよ」


 まさかの嫌味!? こいつは一体何がしたいの!? 


「とにかくそういう事ですから、ここからは邪魔をしないで下さい」

「邪魔って……なら最初から言えよ!」

「言えるわけないでしょう? こうでもしないとあの二人は彼女には危害を加えませんよ?」

「い、いや……確かにそうだけど……」


 堅牢、独善と戦ってきたが、あの二人は魔女が相手でも傷付ける事を恐れる。たまたま堅牢の魔女との戦いが結界の破壊という目的になったため結果的にああなったが、もしフィリアが倒れなければ二人は酔闘の魔女にこんな戦い方はしない。


「あの二人に必要なのは、例え相手を殺す事になっても勝ち取るという自信と覚悟です。二人はあの肉体のせいで本当に欲しい物でさえ、相手を傷付けるくらいなら簡単に譲ってしまう弱さが染み着いています。それは人どころか生命としては致命的な欠陥です」


 それは俺も感じていた。リリアとヒーなら物理的に殺されるという感覚は分からないだろう。それが相手に対して、悪い言い方をすれば見下しの憐れみとして映り、恵みとして譲ってしまうのだろう。


「しかし今私達を守るという想いから二人は牙を見せています。もしここで二人が酔闘の魔女の命を奪い私達を守ったという経験をすれば、今後二人は力の使い方を覚えるでしょう」


 フィリアは本当に良く二人を理解している。あの二人は有り余る力のせいで、使うべき力の扱い方も知らない。賢い二人なら頭では他の生命を栄養として生きている事は理解していても、手を汚したことは無いだろう。それは現代の世界が豊かになった証拠でもあるが、本当の強者を育てられない時代という事でもある。

 もし二人がもう少し早く生まれていれば、使わなければならない力を学び、歴史に名を残していただろう。神様は本当に上手くこの時代をお選びになった。


「ですからアズガルド。もう一度言いますけどここから先はじっとしていて下さい。正直邪魔なんですよ」


 くそが! こいつクソだな!


「……はい」


 結局地位には逆らえず俺はひれ伏した。


 こうしてフィリア操る酔闘の魔女VS最強魔法少女五十嵐姉妹のガチの戦いが開幕する。


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