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魔法少女 五十嵐さんちの無双姫  作者: ケシゴム
最強のラフ誕生
3/53

五十嵐姉妹

「やりましょう!」


 完全に失敗だと思われた段取りだったが、混沌とした状況が功を奏したのか、二人の選択は予期せぬものだった。


 稀にこういう子はいた。天然というか純粋というか、幼い頃から魔法少女に憧れ、未だにサンタクロースを信じているような子は確かにいた。そういう子は咎落ちしにくく、ほとんどが立派なラフへと育つ。だがしかし、この状況でも冷静で、尚且つ軽トラを持ち上げようとした子は未だかつて出会ったことは無い。それが不安にしかならなかった。

 だが折角掴んだチャンス。駄目でも後で記憶を消して元の生活に戻せばいいやと思い、勢いで押す事にした。


「そ、そうか……なら早速君たちに天、じゃなかった、乙女パワーを授ける。手を出して」


 乙女パワーは俺がそれらしく付けた名前で、正確には天使力である。そしてその授与は頭に手を当て力を送り込めば良いだけなのだが、こういう子は何処で魔法が解けるか分からないため、慎重を期して用意していた百円のガチャガチャで入手したハートのアクセサリーを渡した。


「おぉ! これが魔法少女に変身できるアイテムですか!」

「おぉ!」


 二人は渡されたアクセサリーを天に掲げ、珍しそうに眺めている。その姿は俺を馬鹿にしているようにも見えるが、もしかしたら突如頭がイカれたこの男性を気遣うために付き合っているのかもしれないと思うと心が痛んだ。だが俺は止める気はない!


「で、リーパー。どうやれば変身できるんですか?」


 この子らは図太いのか頭がおかしいのか分からないが、リンボ空間と後ろにデカいのがいるのにも関わらず、平然と話を進める。それはまるで日曜朝に放送されている魔法少女系アニメの主人公のようだったが、数多くの少女をスカウトして真実を知る俺には、狂人にしか見えなかった。それでもこの逸材二人を逃したくない思いから、もう後ろの風船魔女など無かった事にして、順を追って丁寧に説明する事にした。


「あ、ごめん。先ず言っとくけど、俺の名前はアズガルドって言うんだ。この体はただ借りてるだけだから、リーパーって名前じゃないから」


 彼は彼女達をラフにするため急遽こしらえた器の為、用が済めば解放し、もっと姿を隠しやすい小動物にでも器を変えようと思っていた。


「そうなんですか……で、リーパー。どうやったら魔法少女に変身できるんですか?」


 アズガルドスルー! この光の子はおもちゃを与えると周りが見えなくなるタイプのようだ。


「いや変身はちょっと待って。先ずは君たちの名前を教えてくれる? 俺はアズガルドであって彼ではないから、君たちの事知らないんだよ」

「え? あ、それは申し訳ありません。私は五十嵐理利愛いがらし りりあという者です。どうぞよろしくお願いします」


 リリアと名乗った光の力を持つ少女は、余程良い教育を受けて来たのか、お辞儀をして握手を求めて来た。


「あ、あぁ……よろしく……」


 握手を返すと、リリアは丁寧に会釈をした。


 純粋って怖い!


「私は、五十嵐妃美華いがらし ひみかと申します。私達は双子の姉妹で、私はリリアの妹です。私の名は呼びづらいので、ヒーと呼んで頂いて構いません。どうぞよろしくお願い致します」

「よ、よろしく……」


 ベースは同じはずなのに、闇の力を持つヒーはとても落ち着いていて、リリアよりよっぽど年上に見える。だが根幹はやはり同じで、この状況でもビジネスマン並みの丁寧な挨拶をした。

 そんなヒーの自己紹介が終わると、忍耐力が無いのか空かさずリリアが口を開く。


「で、リーパー。どうやったら変身できるんですか?」


 ちょっと待ってれや! なんでこの子そんなに変身に拘るの! っていうか俺はリーパーじゃないって言ってるべや!


 妹のヒーは是非ともラフになって頂きたい。それに比べ姉のリリアの方はご遠慮願いたくなってきた。


「ちょっと待って。変身するのは良いけど、先ずは色々と説明しなければならない事があるんだよ」


 リリアの方はやっぱり違う。なんて言えば、リリアに比べ全く興味のなさそうな妹のヒーは止めると言い出しかねない。それは本当に困るので、優しく諭した。なのに、


「そんな呑気な事を言ってる場合ですか! 見て下さい! 今まさにあの悪魔が斎藤さん家を破壊しようとしているじゃないですか! これを見過ごしているようでは魔法少女失格じゃないですか!」


 斎藤さん家はどうでも良いんだよ! って言うか、リリアはこの事態を把握してるのになんでそんなに平然としてられたんだよ!


「さぁ! 今こそ私達の力が必要なんじゃないですか!」


 さすがにこれにはもう面倒臭くなり、とにかく変身させれば納得するだろうと思い、力を与える事にした。


「わーったよ! じゃあ頭を出せ! 今力を与えるから」

「おぉ!」


 根は純粋なのだろうか、もう礼儀など捨て命令口調で指示を出しても、二人は目を輝かせて歓喜した。そして何も疑うことなく素直に頭を出した。ただ俺の言い方が悪かったのか、二人は深々とお辞儀をして頭を出した。純粋ってマジ面倒臭い!


「良いか、これだけは言っておく。変身したら天使……乙女パワーの影響で身体能力が物凄く上がるから、少しずつ体を動かして感覚を掴め。じゃなきゃ壁に激突するぞ」


 ラフになり変身すると、天使力が肉体を強化する。これはラフの基本的な身体能力で、天使力の扱いを覚えればさらに強化が可能になる。


「でも体の強度も上がってるから、怖がらなくてもいいから」

「お、おぉ……と、とにかく、お願いします……」

「お、お願いします……」


 この子らってなんなの? なんで肉体強化の話を聞いてテンション下がってんの?


 よく分からんが、とにかくこれで何とか彼女達をラフにする事が出来ると思い、深々と下げられる頭に手を置き、力を授与した。


「はい終わり。後は体の底から力を出す感じをイメージすれば変身できるよ」

「え?」


 力の付与はほんの一瞬で終る。その為リリア達にとっては実感が無いのか、キョトンとした表情を見せた。


「じゃ、じゃあ、このハートのコレは?」

「え?」


 しまった! すっかりリリアのペースに呑まれて忘れていた! 


「あ、あぁ、それは……その~……」


 マズイ! このままではリリア達は疑念を抱く! そうなればこの話自体が無かった事になりかねない!


「あれだあれ! そう! そのアクセサリーが変身の媒体になってるから、それに強く願うと変身出来んだよ!」


 これにヒーが喰い付く。


「媒体? では、先ほどの頭に手を当て、力を授与するはなんだったのですか?」

「えっ? そ、それはあれだよあれ! アクセサリーの力を受信するための儀式みたいなものだよ!」

「儀式みたいなもの?」


 なんで双子なのにリリアと違って細かい事気にするの!? ヒーはもう少しお姉ちゃんを見習った方が良いよ!


 それが伝わったのか、ここでリリアが動く。


「ヒー。細かい事は良いじゃないですか? とにかくこれで私達は夢にまで見た魔法少女になれるんですよ! 今はそれを喜びましょう!」


 喜んじゃダメだと思うよ? この先リリア達は自分と同じような想いで魔法少女になって咎落ちした魔女と戦うんだよ? 今はそんな事言ってられるけど、それを知ったとき地獄見るんだよ?


 ラフは肉体的にも精神的にも強く逞しくならなくてはならない。その為魔女が元ラフであり、人間だったという事は教えない。しかしそれが原因で、咎落ちするラフの一番の理由は、魔女の正体を知り、人を殺したという罪の意識になっている。


 そんな事も知らないリリア達は、魔法少女になれた事に喜び、もう勝手に変身しようとアクセサリーを持て余し思案している。それを見ると、少し寂しくなった。


「――では! 私から行きます!」


 もうリンボも俺が作り出した魔女も、それが圧し掛かる斎藤さん家の事も忘れ、しばらく悪戦苦闘していたリリアだったが、いよいよ変身ポーズが決まったのかアクセサリーを握り締めた拳を高々と掲げ、変身すると放った。しかしその姿からは、全く魔法少女らしさは感じられず、まるで人生に一片の悔いも無く散っていた拳剛のようだった。


「お、おう。頑張れ」

「頑張って下さいリリア」

「はい! 任せて下さい!」


 俺達の後押しを受けたリリアは、一歩前へ出てアクセサリーを胸に当てた。すると体全体が光輝き、変化を始めた。


 ラフの装束は、ラフ自身のイメージが形となり、そこに宿す属性の色が加わる。その為順次増えるメンバーは、最初のラフの装束の影響を受け似たような物になる。つまりリリアがこれから見せる装束が今後このチームのユニホームの原型となる。


 眩い光を放つリリアは、ペンダントに祈りを込めるサッカー選手のように微動だにしないが、恐らく頭の中ではアニメの少女のように裸になり、足や腕から変身しているのだろう。それはヒーにとっても同じだったようで、全く動きを見せないリリアが変身を完了させた途端、ほとんど表情を動かさないヒーが、明らかに残念そうに口を開けたのを見て分かった。


「どうですか! これで私もプ〇キュアです!」

「ちょっと待って! その名前はマズイよ! こっちにもそれなりに事情あるんだからその名前は止めてっ!」


 膝まで伸びた白いハイソックス、大きなフリルの付いた白銀のスカート、胸には大きなハートがあり、腕にはグローブをはめている。髪の色も属性の光の影響を受けて透明感のある金髪に変わり、衣装全体にも光をイメージさせる金が邪魔にならないようアクセントとして絶妙に配置されている。

 それはまさにプ〇キュアの影響を受けていた。


「えっ! 何故です!」

「何故ですじゃねぇよ! これはアニメじゃねぇんだよ! 大体その姿には女神さまから頂いたラフって立派な名前があんだよ! おめぇがプ〇キュアって名乗ってんの知ったら俺焼きはいるわ!」

「ええっ!」

「ええっ! じゃねぇっ!」


 ビックリしちゃうわこの子。確かに今までこういうアニメの影響を受けている子は沢山いた。でもどの子もそういうのには敬意を払い、絶対に名を出さなかった。だけどこの子平然と名乗っちゃったよ! どんだけ太ってぇ子なんだよ!


「じゃあ……もう一度変身し直します……どうやれば元に戻れるんですか?」


 こういう素直さは尊敬するわ! 


「いや恰好はそのままで良いよ。ただ名前だけはラフにしてくれ」

「分かりました……では、むぎゅっとパイン! ラフパイン!」

「いやだからそれを止めろ! むぎゅっととか要らねぇから!」

「ええっ! ……じゃ、じゃあ、ラフパインで、良いです……」

「パインも要らねぇ!」

「ええっ!」


 この子本当に分かってんの? これから魔女と死闘を繰り広げる日々が始まるんだよ? この子選んだの失敗だったんじゃね!?


「じゃ、じゃあ……ラフで良いです……」


 声小っちゃ! 何? 名前ってそんなに重要だったの!?


 リリアはどうしてもプ〇キュアを名乗りたかったのだろうか、完全に拒否すると肩を落としてしょんぼりし始めた。しかしそんな姉を見ても変身したくなったのか、無言でやり取りを聞いていたヒーがまるでリリアを説得するように突然おかしなことを言い始めた。


「リリア。やはり私もその名を名乗る事には賛成できません。私達は確かに彼女達から様々な事を学び、憧れました。ですが、彼女達は何かを守る為に懸命に戦い、現在にまで脈々と受け繋いでいます。そんな崇高な魂を私達のようにのほほんと過ごしていた者が安易に名乗ってはいけないと思います」


 え? この子何言ってんの? アニメの話だよね?


「そんな私達は、リーパーの言う通りラフ、粗悪と呼ばれるには相応しいと思います。今はまだ粗削りですけど、磨き続けていればいずれその名を超える名を与えられるでしょう。ですからリリア、今はラフで我慢しましょう」

「ヒー……」


 なんか深い事を言っているようだけども、アニメの話だからね! それにラフって“原石”って意味だから! ヒーは賢いようだけど、色々間違ってるからね! っというか、こいつら名前に拘るくせに俺の名前はなんだと思ってんだよ! アズガルドだって言ってるべや!


 そんなヒーに色々とツッコんで訂正しなければいけなかったのだが、もう勝手に話をまとめたヒーは、そのままの勢いで一歩前へ出て有無を言わさずリリアと同じようにアクセサリーを胸に当て、変身を始めた。


 この子も自由人! 五十嵐さん家の教育方針ってどうなってんの!?

 

 ヒーの変身が始まると、名前の事で落ち込んでいたリリアはそんな事などすっかり忘れたように目を輝かせ始めた。しかしリリア同様、ヒーが光り輝く体で全裸になって可愛らしく変身するような事は当然なく、微動だにしないヒーを包む光が消えあっさり変身が終わると、リリアはいつの間にかウンコを踏んでいた事に気付いたようなはっとした驚きの表情を見せた。リリアという少女は感情表現が豊かのようだ。


「これが、魔法少女……ですか……」


 初めての変身に自分の身なりを確認するヒーは、双子だけあってリリアと全く同じ出で立ちだった。だが不思議な事に、髪やアクセントとなる部分が銀色になっていた。

 闇の属性から、てっきり黒などの暗い色になると思っていたのだが、どうやら違うらしい。だが純白に金と銀という二人のラフは、壮観と言って良いほどの輝きがあった。


「おぉ! 可愛いですねヒー!」

「そ、そうですか? リリアの方こそ良く似合っていますよ」


 仲の良い姉妹なのだろう。お互いの姿を褒め喜びを分かち合っている。双子の姉妹という事もあり、結束も申し分ない。性格と頭はあれだけど、やはり俺は当たりを引いた!


「よし、変身は完ぺきだな。じゃあ早速あの魔女を倒してこい!」


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