暴☆走☆族☆彡
「今回の相手は誘眠の魔女って言って、深い霧を使って幻覚を仕掛けてくる上位の魔女だ。リンボ自体も森で、常に森全体に霧が張られていて、気を抜くとすぐに幻覚に落とされるから気を付けろ。別にお前らが戦うわけじゃないけど、覚えてないとお前ら二人で殴り合う事になるから覚えとけ」
「はい」
見学当日、約束の時間より少し早くリンボに入りリリア達に誘眠の魔女の情報を与えた。
いくら見学と言えど、情報も何も得ないで向かうのはあまりにも失礼だ。何より相手が幻覚を使う以上、もし二人が操られれば大惨事になってしまう。
「それと、今回はあくまで見学だからな。お前らは結界の中から一切出るなよ」
「え? でももしピンチになったらどうするんですか?」
「そん時は俺が指示する。っていうか、多分お前らなら結界から出たらすぐに幻術に掛かる。誘眠の魔女は今までと違って上位なんだぞ? このクラスになればお前らがいくら丈夫でも殺せるくらいの力はあるんだかんな」
それを聞くとリリア達の顔に緊張が走った。
上位の魔女にまでになると物理的な法則を無視したような攻撃を仕掛けてくる。そんなのを相手に、天使力を全く扱えない二人では当然対処できない。
誘眠の魔女は内向的なタイプの魔女で攻撃面に関してはそれほどでは無いが、今回の見学ででもない限りリリア達が相対するにはあまりにも早すぎる。
「何か質問はあるか?」
「い、いえ」
誘眠の魔女の事を聞いて少しは気が引き締まったのか、ヒーすらも無いと首を横に振った。
「じゃあ行くか」
「あ、ちょっと待って下さい」
いざ待ち合わせのリンボへ向かおうとすると、リリアが口を開いた。
「なんだ?」
「その格好で行くんですか?」
「え? あぁわりぃ。お前らは一応変身しとけ。直接誘眠の魔女のリンボに行くわけじゃないけど、あっちに行ったら他のラフもいるからな」
ラフを育てる天使はたくさんおり、基本一つのチームで魔女と戦う。しかし天使同士の繋がりにより交流したり、時に協力して戦うなど様々な理由で関係を持つ。そこで利用されるのがセントラルと呼ばれるリンボだ。
セントラルは交流広場のようなもので、世界中のラフたちで溢れかえっている。
そこでは常にラフの格好をしていなければいけないという決まりは無いのだが、二人は初めて行くため下手に私服で行って委縮してしまっては可哀想だと思った。
「え? そうなんですか? で、でも、私が言ったのは私達の格好では無くて、リーパーの格好です」
「え?」
「だってリーパー、ルンじゃないですか? この間の人を見て思ったんですが、やっぱりルンバって変じゃないですか?」
…………
「それはおめぇがルンに入れって言ったからだべや!」
何を今さら言ってんのこの子!
「あ……でも、リーパーならいくらでも他の物に変えれるんじゃないんですか? なんなら私の部屋からそれらしい物を選んで貰ってもいいんですよ?」
「今さら変えられっかよ! 体馴染ませるのにどんだけ苦労すると思ってんだよ!」
「そ、そうなんですか……すみません……」
こいつは根は良い子なのか悪い子なのか良く分からない!
そんなリリアをフォローするように今度はヒーが口を開く。
「ではリーパー。せめてこれを」
ヒーはポケットからピンクのリボンを取り出し、ルンの頭に張り付けた。
「これで少しは安心です」
「何が安心だ!」
根というか幹が腐ってるようなこの姉妹には本当にビックリする。それでも俺では張り付けられたリボンを取ることは出来ず、そのままセントラルへと向かう羽目になった。
――――☆☆☆☆☆――――
青い空、緑の芝生、白い神殿。極鳥は歌い、気温も空気も美味い。広大なリンボは、神様がお造りになっただけあっていつ来てもまるで天国のような清々しさがある。それだけにたくさんの天使がラフを連れて意味も無く集まる。
ありきたりな魔法少女のような恰好をしたラフ、魔女っ子スタイルのラフ、格闘家のようなラフ。様々な環境や天使の影響を受けたラフたちは千差万別だ。だがやはりラフの最終形はバルキュリーのようで、人だかりに囲まれるラフはエリシア様のラフのような姿をしている。
「リ、リーパー……ほ、本当にここが、ま、待ち合わせの場所ですか?」
この素晴らしい景色にさすがのリリアも絶句したようで、顎を振るわせている。
「あぁ。ここはセントラルって言って、ラフたちが良く待ち合わせに使う場所なんだ。だからそこら辺にいるのは全部ラフとその天使達だから安心しろ」
「そ、そうなんですか……私はてっきりリーパーがいよいよ私達を殺そうとして、あの世に送るつもりなのではと思ってしまいました……」
えっ!? リリアって今まで俺の事そういう風に見てたの!? ちょっとショックなんですけど!?
「ちげぇよ! お前俺を何だと思ってんだ!」
「い、いえ……すみません界王神様……」
「てんめぇ~!」
何こいつ? とうとうブウ編に突入したの? マイブームなの?
それでもリリアのお陰でヒーの緊張も取れたのか、二人はしばらくの待ち時間を有意義に過ごしていた。ただ二人は病のせいで人を避けたがる為、温かい芝生の上ではしゃいでいる際中他のラフが声を掛けて来てもなかなか上手く接する事が出来ず、折角のチャンスを逃していた。
ラフ同士の交流というのはとても大切で、様々なラフと出会い学ぶ事で飛躍的な成長を遂げる。それに本来の性格上、リリアはとても人懐っこく、ヒーは触れ合いを求めている。セントラルに来ればもしかしたら二人にとっては大きな影響をもたらすとも考えていたが、魂にまで干渉する病はそれを許してはくれないらしい。少し二人が不憫に想えた。
それでも終始ご機嫌な二人は、まるで子狐のように俺の視界から消える事無くあちこち探索しながらセントラルを満喫していた。
日の沈まないセントラルは温かな日差しが降り注ぎ、小鳥たちが平和な長閑さを演出してくれる。そんな陽気に、各地のラフ達も肩の荷を下ろしてひと時を和んでいる。
天使にとってもここは癒しを与えてくれる空間で、俺でさえこの長閑さに気が緩んだのだが、約束の相手を感じやっと来たかと視線を送ると、暴走族がいた。
全身ピンクの特攻服に黒いマスクに思い思いの武器。それぞれが属性のせいなのか派手な色の髪をしており、後ろには大きなピンクの下地に狼のような黒いロゴが入った旗が掲げられている。そして何故か天使であるイルまでもが特攻服に身を包んでいた。
それはセントラルには似つかわしくない集団で、バルキュリークラスのラフですら恐れて道を開ける。
どどどどいう事!? 挨拶行った時こんな集団じゃなかったよ!?
何かの間違い。いや、恐らく他人の空似と思い逃げて来たリリア達と共にやり過ごそうとしていると、その圧倒的な存在感を放つ暴走族は残念ながらお知合いのようで、俺達の前に来ると立ち止まった。
「アズアズごめ~ん! 遅くなりました~!」
「え……あ、あぁ……だ、大丈夫……」
天使イル率いる暴走族。このド派手な集団こそ、今回リリア達が御世話になる先輩ラフ達だった。