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闇の後

 仁美は、母が四十一歳の時に産んだ待望の子だった。その為仁美が小学校を卒業する頃には両親は五十歳を越えていた。それでも両親はやっと来てくれた仁美を溺愛し慈しんだため、仁美は何一つ不自由の無い幸せな生活を送っていた。


 両親に恵まれ逞しく育った仁美は、高齢の両親のお陰で周りの子よりも賢く、教員からも信頼されるほど優しい子に育ち、小三の時には学級委員長を任されるほど慕われる子だった。

 

 そんな折、友人たちの間でソーシャルゲームが流行り、両親も高齢であるが故仁美が友達に遅れぬようスマートフォンを預けたのがきっかけで、仁美はゲームと出会う。


 賢い仁美は最初こそ友達に合わせるようにゲームに参加していたが、ある日、たまたまゲーム内で滅多に出ない神レアというアイテムを続けて当ててしまい、イベントで一桁台の好成績を残してしまう。

 それが仁美を依存に導いた。


 小学校を卒業する頃には、仁美は完全にスマホ、ゲーム依存症に陥り、学業も疎かになっていた。それは歳を重ねる後に悪化の一途を辿り、中学二年には学校へも行かなくなり、最後には引き篭もりになった。

 それでも強い魂を持っていた仁美は、自分の依存症を自覚してなんとか高校へ進学する事が出来た。

 

 高校へ進学してからも仁美はゲームを辞められずにいたが、次第に回復へと向かって行った。そんな仁美にモルテリウスは声を掛けた。仁美は少しでもゲームから離れるため快諾する。


 しかし丁度そのタイミングで仁美を悲劇が襲う。


 それは春休み中に起こった。

 部活をしていなかった仁美は、休みを利用してゲームのイベントに熱中し、一位をキープしていた。それは終日を迎えても変わることなく、終了一時間前には二位との差は圧倒的で、仁美自身も勝利を確信していた。だが、終了わずか五分前になり異変が起きる。


 勝利を確信した仁美が手を止め余韻に浸っていると、突然ランキングが変動し、気付いた時には仁美は八位にまで転落していた。


 プログラミングにまで手を出し、ゲーム運営会社の情報まで網羅するほどの知識があり、生まれ持った賢さがあった仁美は、これが不正によるものだとすぐに分かった。

 これには一時は乱心した仁美だったが、そこまで精通している仁美にはすぐに然るべき措置が取られると安堵した。だが、待てど暮らせど正されることは無く、仁美が運営に抗議しても不正は認められなかった。


 これが原因で、仁美は報復として不正を働く。そして……


 流れ込んできた独善の魔女の記憶は、現代人の誰にでも起こりえるような記憶だった。

 仁美はラフにスカウトされるほど逞しい魂を持っていた。それでも人類が英知を絞り出し、人を依存させるために作り上げたシステムには敵わなかった。


 正直真実を見せられても仁美が闇落ちした理由は下らなさ過ぎる。だがそれ以上に、私益の為に人を陥れる“人”が醜かった。


 この記憶を見せられたことにより、先ほどまでは醜くもがく姿に自業自得な愚か者だと思っていたが、裁きにより悪臭を放ち煙を上げる独善の魔女は、あまりにも哀れだった。 


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 独善の魔女の討伐が終了すると、エリシア様は三人のラフを紹介した。そしてつかの間だが三人とリリア達に交流時間を与えた。

 名前、年齢、住んでいる所など、先輩である彼女達は少しでもリリア達と仲良くなるため積極的に話し掛けた。しかしリリア達は彼女達に委縮してしまったのか、あり得ないくらい無口で暗いイメージを与えていた。

 それはエリシア様達が帰る時にも変わらず、終始リリア達から話し掛ける事は無かった。


「おい。一体どうした?」


 エリシア様達の姿が完全に見えなくなっても二人は俯いたままで、あれだけ遊びたがっていたはずなのに全く動こうとはしない二人に心配になり、声を掛けた。

 

「…………」


 声を掛けても二人は暗いままで、一切反応を見せない。


「もう安全だから好きに遊んで良いんだぞ? それとももう疲れたのか?」


 何となくだが、二人に元気が無い理由は分かっていた。俺でさえ残酷だと思う処刑に、平凡な人生を送っていたリリア達にとっては衝撃的だったのだろう。それでもこの先ラフを続けるのなら、あれくらいで落ち込んでもらっては困る。


「…………」


 それでもまだ新人。少しずつでもいいから慣れていってもらうしかない。

 そこで二人の気持ちが落ち着くまで、しばらく時間を与えようと思った。


 俺達以外の生命が存在しないリンボは、多くの人が生活している団地でも鳥の鳴き声一つなく静寂だった。そんな時の止まったかのような空間で佇むリリア達は切なさを感じさせた。

 そんな中、やっとヒーが口を開いた。


「リーパー……」

「なんだ?」


 その声は小さく、全く覇気が無かった。


「……仁美ちゃんは……これで両親の元へ戻ったんですか……」

「……いや」

 

 闇落ちした仁美を想いどれほど考えたのかは分からないが、ヒーの言葉を聞いて、この短時間でこの質問に辿り着くヒーの頭の回転の良さに感心した。


「存在っていうのは全てにおいて一しか存在できない。だから例えリンボに居ようが天界に居ようが、その存在は同時には存在できない」


 これは真理であって、例え神様でも二柱以上はどの空間においても存在できない。


「じゃあ、仁美ちゃんの両親はこの後どうなるんですか」

「残念ながら仁美は神隠しで終る。恐らく両親は死ぬまで仁美の帰りを待つだろう」

「そんな……」


 賢いヒーはこの意味が分かったようで、遠くを見るような力の抜けた表情を見せた。


「厳しいようだけどこれが現実だ。ラフが魔女に殺されて俺達天使が連れ帰れれば事故死や突然死で何とか出来るけど、それ以外は全部神隠しになる。それに、神様は咎落ちや闇落ちは絶対に許さないから、仁美はもう転生も無いと思う……」


 神様は人とは比べ物にならないくらい悪性遺伝を許さない。だから例え闇落ちから自力で戻る“黄泉返り”をしても消滅させられる。


「じゃ、じゃあ……仁美ちゃんのお母さんやお父さんは……ずっと……ずっと仁美ちゃんを……」


 ここで遂に耐えきれなくなったのか、ヒーは涙を流し始めた。


「あ、あのぬいぐるみだって……誕生日に貰ってずっと大切にしてるくらいなのに……」


 それを聞いてリリアも我慢が出来なくなったのか、涙を流し始めた。


 俺にはもうどうでも良く終わった話だったのだが、二人は仁美の記憶を追い深く探っていた。

 これは新米のラフが良くやる行為で、心を大きく成長させる。


「そうだな。だけど生きる以上はどんなに小さくても必ず責任は伴う。それは本人だけじゃなく、教え込まなかった親の責任でもある。この世界は人だけの世界じゃないんだ」


 少しでも二人の成長の良い栄養となると思い教えたのだが、これを聞いた途端二人は口を開け声を出して泣き出した。

 それを見て、後は二人が自分の答えを出す邪魔をしないよう少し離れ、見守る事にした。


 誰もいない団地には、しばらく二人の泣き声だけが響いていた。そしてこの日から二人は訓練をせがむことは無くなり、リンボにすら入る事を嫌うようになった。


 独善の魔女編はここで終了です。次回誘眠の魔女編は、そのうち投稿予定です。

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