大☆都会☆☆
「ここは一体……あっ! ヒー見て下さい! モノレールがあります!」
「おぉ! こんな場所にあるとは、ここはきっと東京ではないのですか!」
「東京!? まっ、まさか私達は遂に東京に足を踏み入れたのですか!?」
独善の魔女と戦うため入ったリンボは、高いマンションというより、沢山の団地が立ち並ぶエリアだった。そこはまるでどこかのキャンパスのようで、これだけの建物が並ぶエリアなのに狭い車道が一本しかなく、代わりにモノレールが第一の交通手段のように橋を掛けていた。
そんな景色に、田舎育ちのリリア達は都会に行ったことは無いのか、勝手に東京だと決めつけ驚愕していた。
「お前ら、一応ここは魔女が支配するリンボなんだぞ? もっと……」
二人にとってはこんな景色でも大都会と変わらないのか、もう遊園地にでも来たかのようにうわぁ~い! という感じで勝手にちょろつき始めた。
……しばらくほっとこう!
リリア達が新米だからと言っても、あの有り余るパワーと耐久力を見せつけられれば何の心配も無かった。いや、どちらかと言えば一度怖い思いをさせようくらいの気持ちがあった。
そこで、リリア達を見失わないように気を付け、もしやの奇襲、というか、リリア達の暴挙により被災しないよう結界を張り、ルンと己の身を守った。
そんな心配をよそに、リリア達は意外と良い教育を受けて来たのか、勝手に動き回るが俺の目の届く範囲からは出ない。ただ、都会という雰囲気に呑まれたのか、もう自販機やらただのベンチにまで目移りし、最後には樹木にまで目を輝かせていた。この二人のこういう所が良く分からん!
そんな日曜午前の子供のようにはしゃぐ穏やかさのせいか、しばらくリリア達がちょろちょろしていても独善の魔女が現れる気配は無かった。だがリリアが団地を眺め何かを指さした瞬間、突然どこかで炸裂音が響き、それとほぼ同時にリリアの額にカンッ! という音を立て何かがぶつかった。
その木霊する炸裂音と、リリアの額に当った何かがプオンという風切り音を立て弾かれたのを聞いて、咄嗟に魔女に狙撃されたのだと分かった。
魔女の中には銃火器や兵器を創造して攻撃手段とする者もいる。それは人間時代、ラフが抱く強さが形となって現れたものだ。
しかしそんな攻撃を受けても、頑丈さなら鉄をも上回るリリアにとっては鼻くそみたいなものだったらしく、狙撃を受けた額を指先でちょっと触り、うん? という感じで首をひねった。そして何事も無かったようにヒーまでもが一緒になって観光の続きを始めた。
ええっ!? お前らはターミ〇ーターか! 少しは動揺すれや!
「おい! 今のは独善の魔女の攻撃だ! さっさと探して倒してこい!」
やっぱり今のは攻撃だと気付いていた二人は、俺が叫ぶと動きを止め、何も言わずこちらを見るだけだった。
何今じゃなきゃ駄目感出してんだよ! あいつら本当に魔女を救う気あんの!?
独善の魔女はまだ戦闘をした記録が無い。その為どのような戦法を得意とするのかは分からない。それでも今の攻撃と、闇落ち魔女の魔力から考えれば今の二人には全くの脅威とはならない。
それは二人も体感的に分かるのか、ゆ~っくり俺から逃げようと前へ進みだした。
逃げられるわけねぇんだよ! 見え見えじゃねぇか! ガキかアイツら!
ラフとしても人としても人生を舐め腐っている二人にイラっと来たが、それは独善の魔女も同じだったようで、俺と睨み合うリリアに向け、二発目の狙撃を行った。しかしここでリリアが驚異の能力を発揮する。それは前方から飛んできた弾丸に対し、一切見ていないはずなのに平然と指でつまみ止めた。
あいつ横にも目付いてんの!?
リリアとヒーは高速で動けるだけあって、それについて行けるだけの動体視力を持っている。それは生物としては当然の適応能力なのかもしれないが、見てない弾丸つまむってどういう事!?
「…………」
「…………」
リリアの驚きの能力に驚愕して声の出ない俺。それに対してまだ遊びたくてどうしようかと考えているであろうリリアとヒー。そんな想いのぶつかり合いが狙撃を受けているのにも関わらず俺達の時間を止めた。そこへ三度目の独善の魔女の狙撃が飛ぶ。が、今度は狙われたヒーがこめかみで弾く。
「…………」
「…………」
そして二人は黙る。
「早く行けや! お前らが戦わないならもう帰るぞ!」
「ええっ!? ちょっと待って下さいよ! い、今データを取っているんですよ!」
「嘘つけ!」
嫌な事が迫った時の反応は異常に速いリリアは、バレバレの嘘を付く。
「ほ、本当ですよ! 今の攻撃から魔女の位置を大体計算していたんですよ!」
「…………」
「ほ、ほらっ! い、今の二回の攻撃で大体の位置が分かりましたよ。あ、あっちです!」
一回目の攻撃はスルー! こいつマジでヤバイわ!
懸命にまだ残りたいを主張するリリアだったが、弾丸が飛んできた方向を指差した瞬間、今度は完全な虚を突かれたのか、後頭部を打たれ頭がガクッと下を向いた。
「全然違うじゃねぇか! 何が計算だ!」
「…………」
そんなリリアの失態を庇うかのように、ヒーがそれらしい事を言って援護を始める。
「い、いえ。今ので独善の魔女のおおよその攻撃パターンが分かりました。恐らく独善の魔女は、この建物を利用してライフルのような物で私達を狙撃してきます。そして、今の短時間で狙撃ポイントを変えた事から、高速での移動、もしくは複数人に分裂が出来る可能性があります」
「んな事は俺でも分かるわ! もう計算は良いから早く行け!」
これは小学生が書いたバトル漫画じゃねぇんだよ! 何頭脳戦みたいな事言ってんのこの子? これで頭脳戦なら戦略なんて言葉は存在しねぇよ!
「い、行きましょうヒー」
「……はい」
頼みの綱であるヒーが相手にされなかった事により遂にリリアは諦めたのか、もっの凄く小さな声でヒーを呼ぶと、二人仲良くしょんぼりして独善の魔女を探しに行った。




