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覚悟という名の絆

 衝撃波が去り次第に爆煙が晴れると、辺り一帯にはもう工業地区の名残は無かった。

 舞い上がった土煙は空を黄土色に染め、空全体を駈ける轟音は未だ広がり続ける衝撃波を伝えていた。結界を解いても大地に残った熱は未だ生物の侵入を許さぬほど熱く、焦げ臭さを超えた臭気は天使の俺でさえ惨いと思ってしまうほどだった。

 それでもこの環境でさえも二人には生活圏だったようで、やっと見つけた二人はあり得ないくらい大きく深く抉れたクレーターの真ん中に普通にいた。


「お~い!」


 デビュー戦で神クラスの戦いを見せた二人は、俺の予想を遥かに超えていた。そしてこれだけの災害に見舞われても無事だった事に安堵して、褒めてやろうという気持ちで近づいた。しかし二人は既に魔女の正体を知ってしまったようで、声を掛けても返事もせず、とても暗い表情をしていた。


「大丈夫かお前ら? 怪我はしてないか?」


 二人の気持ちを察していても、こちらからそのことに触れる事はしない。あくまで真実を知り、現実を受け止められるかも試練だからだ。俺達天使はただ聞かれた事に答え、導き出す答えを彼女達に任せる。


 佇む二人は敢えて明るく話し掛ける俺の声になど反応を見せず、思いつめたように俯いたままだった。


「どうした? お前ら堅牢の魔女を倒したんだぞ? もっと喜べよ」


 今の二人の状態は非常に芳しい物では無い。自責の念は徐々に心を蝕むからだ。時間を置けば置くほど自問自答により罪の意識に苛まれ、下手をすれば咎落ちする。それでも天使はラフの口から辞めると出るまで何もできない。


 しばらく重たい空気の中沈黙が続くと、ヒーが静かに口を開いた。


「……リーパー」

「なんだ?」

「魔女というのは、元は私達と同じラフだった人間だったんですか……」


 それは質問というにはあまりにか細く、まるで自分に問うようだった。


「あぁ」


 それを聞くと二人の表情はさらに暗くなった。


「……そうですか」


 この二人は今まで出会って来た子とは違うとは思っていたが、それを受け入れたようにそうだとだけ返事をする姿に、底知れない可能性を感じさせた。


 大抵の子はこれを知ると何故最初に教えなかったと激怒するか、もう辞めると言う。それは生物として当然の反応で、人として当たり前の反応だ。だが天使にまで育ったラフのほとんどは、すんなり事実を受け入れそれ以上は何も問わない。

 この二人がこの後どういう心境の変化を見せるのかは分からないが、直ぐに咎落ちする様子も無いため、少し様子を見ようと思った。


 真実を知った二人はその後も俯いたまま立ち尽くしていた。それは時間にして一時間は続いた。

 これにはさすがにもう二人はラフとしてはやっていけないと思うと、突然リリアが両膝を付き地面に手を置いた。そこはクレーターの一番窪んだ場所から、恐らく堅牢の魔女が消滅した地点だった。


 リリアなりの償いなのか、祈りを捧げるようなその姿に哀愁を感じたのだが、突然地面に置いた手を振り上げると、腕がめり込むほど強く拳を叩きつけた。


「リーパー。私はラフを続けます。この罪この痛みは全て私が引き受けます」


 リリアが出した答えは戦うだった。それは遂に叶えた魔法少女という夢を守りたいという小さなものでは無く、もっと深く、もっと暗い想いから来ているような重たい言葉だった。


 それを聞いたヒーも自分なりの答えを見つけたのか、リリアと同じように地面に触れた。


「私も続けます」


 覚悟として地面に拳を叩きつけたリリアと違い、優しく地面を摩るように撫でその土を握りしめたヒーからは、負の感情を払い飛ばす覚悟ではなく、全てを受け入れ抱擁するような覚悟を感じた。


「本当に良いのか?」


 二人の覚悟は決まっているが、ほんの僅かでも俺の辞めて良いぞという言葉を待っている気持ちがあるのなら、それを尊重したいと思い、確かめるように訊いた。


「はい」


 しかし二人は一切迷いの無い返事をする。


「私達は既に、私達の誰か、いえ、私達と同じ病を持つ誰かが世の中を壊すような事をすれば、例えその命を奪おうとも止める覚悟は出来ていました。それが例えリリアだとしてもです。だから魔女が元人間だったとしても、その誓いは何も変わりません」


 拳一つで世界を破壊できるほどの力を持つ二人だからこその考えだが、普通なら自分の病を憂い、悲劇のヒロインとして世界を恨むはずなのに、それを受け入れ人類の平和の為に役立てようとさえ考える二人は、正にラフとして相応しい魂を持っていた。


「それは私も同じです。私ももしヒーがおかしくなったらいつでも殺す覚悟は出来ていました。それに、私達は既にそうなった場合殺してくれという約束をしています。だからリーパー。何も私達の事を気にする必要はありませんよ」


 この二人は凄い。今は自分の事で精一杯のはずなのに、俺の事を心配出来るだけの強さがある。


「帰りましょう。早紀ちゃんの為にも私達は次に進まなければなりません」


 静かに言うヒーだったが、その表情には寂しさがあった。


「あぁ」


 こうしてデビュー戦を勝利で飾った二人だったが、この勝利が切っ掛けで予期せぬ事態を招く。


 堅牢の魔女編はここで終わりです。次回独善の魔女編は完成し次第投稿致します。

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