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プロローグ

今、私はお先真っ暗なはずなのに…目の前が明るい。


 何故だ私はついさっき、この世から()()()()()()はずの存在だぞ。

 振り返ろうか、さっき起きたことを……。


 小説好きの私、社会人。

 最近の流行りの小説(ラノベ)は転生物らしい。


 転生出来たら私は、神にお願いしたいことがひとつある。

 自然の中でまったりスローライフを送っていたい。会社という名前から遠のきたい。


 そんなのが私田中 胡桃(たなか くるみ)である。


 そんなことを考えながら、1人スコップを持ってとぼとぼと寒い雪の中を歩いていると、不意に1人の小さな子供が目に入ってきたんだっけな。


 薄暗い路地ではあるが、そこそこ車通りもあって人も並々に歩いている場所。横断歩道が雪に埋もれていて、よく分からない。1番気をつけるべき場所なのに。


 坊やどうしたんだい?と声をかけてあげたいが、そんな勇気が私にある訳もなく。横断歩道の手前で立ち止まって遠目に見ていると、奥の方からトラックが1台。


 このパターンだと、あの男の子が轢かれて死んじゃうやつ。


 あぁ、ここだ。


 私は何故かあの男の子を助けようと、まだ間に合うから、なんて考えながら自分の人生を、命を懸けて男の子を庇いに行った。


 なんということでしょう。まさかの、50メートル走9秒台の人が辿り着けたではありませんか。いや、横断歩道の上がよく滑るからであろう。


 よっぽど彼には何か惹かれるものがあったんだろう。


 助けた私は宙に舞い、真紅の色の物が色々と飛び散る。次第に息がしづらくなってきた。感覚器官が働かなくなってくるのがわかる。痛みすら感じなくなった。


 そんな中ふと目に入った。


 坊やが泣いているではないか!


 笑って終わらせよう、と笑顔を創ったつもり。

 けど、彼はニッコリと、怖いほどにニッコリと笑顔を作っていた。

 私は此処で解釈を間違えたのかもしれない。


 その時の私は、よかった、なんて安心していた。そして、体が地面と水平になった。


 そんなこんなで、死んだ私。


「なんで私、生きてるんだ?」


 病院ですか。でも、あれがないですよ。点滴とか色々とないですよ。しかも地面に寝かしつけられるとは。あたりは一面雪景色のように、白い。


 点滴しか思いつかないけど…。


 何処でしょうかここは、まさかの死の世界、だったりして。

 心の中で笑ってみる私。

 いやいやいや、ぜんっぜん笑えないからね。

 いや、このタイミングで転生神とか出てきたら受け入れちゃうよ?

 ん?向こうに見えるのは三途の川と称されている川ですかね。川のせせらぎ〜とか前の私だったらリラックスしてるだろうけど今は無理。

 三途の川が近づいてきている気がする。嫌ですよ。異世界に行かせてくださいよね。まだ距離がある。大丈夫、まだ間に合うはず!

 走れ私!


「………………」


 足が動かんではないか!

 まぁ、徹夜続きで寝れてないからだろうけれども。ここぞって時に動いてくれないんだよね。

 はぁーー、と長いため息を吐いてから地面に座り込み自分の人生を振り返ってみようと思う。

 小説の思い出しかねぇわ。自分で小説書いてた思い出しかないわ。

 あー、異世界に行きてぇーなー。

 どうせこの世から居なくなっても、今ここから姿を消しても誰も悲しまないだろうし。


「いやいやいや、いなくなったら困りますよ?僕」


 全くもって聞き覚えのない声が聞こえた。

 声のする方へ向くと、少年がふわふわ浮いていた。

 どなたですかー?と心で呟くとまるで聞こえていたかのように返事が来た。


「僕は転生神()()()だ!」


 ゼウスの所を異様に強調する彼。

 下に降りてくる感じが、神らしさを持ち上げているがそれがなかったら普通の少年かもしれない。


「私に見覚えはないか!田中 胡桃!」


 なんで名前を知っているんだろうとか思いながら、マジマジと見ると頭の中からプクリと泡が浮き出てくる感じで思い出した。

 私が庇った少年Aか。


「少年Aでは無い!ゼウスだ!転生神ゼウスだ!覚えろ!」


 あー、テステス。声が出ませんよ~。喋りたいです。

 死んだからなのだろうか、言葉を発することが出来なくなっていた。喋る権利すらなくなるのか。


「大丈夫だ。僕は田中の心が読めるからな」

 

 私は首を縦に2回振って、ふーんと心で思っておいた。

 初対面で呼び捨てとは生意気だなと追追思っていた事は内緒。

 あなたも死んじゃったんですか?ゼウス。


「違う。僕はあなたを異世界に引きずり込むためにあんな所に立っていたのだ。決死の想いで少年を助ける人間なんてそうそういるものでは無いからな!そいつを異世界に引きずり込む予定だった」

 

 あぁ、じゃあ誰でも良くてたまたま私が庇いに行っただけなんですね?なーんだ、選ばれてこっちに来たのかと、期待して損しました。


「そうだな。でも、死ぬのが楽しかったのか?笑っていたけど。サイコパスだね」


 ふと思い出す。あの男の子の笑みを。

 なるほど。と私は思った。

 あの笑顔は、異世界に引きずり込む人が決まったからなんだ。


 あんな解釈しなければよかったー!と悶えたかったが悶えられない。動かない。動けない。


 後悔してますよ、私。あの時、私の笑顔に答えてくれたのかと思ったのに。

 異世界に来る人が見つかったから笑っていただなんて。

 恥ずかしい終わり方をしてしまったでは無いか!


「笑っていたか?覚えてないな、全然」


 認知症か。ゼウスは。初めて聞いたぞ、神が認知症だなんて。


 私はこの恥ずかし目に合わされたことを永遠に忘れませんからね。覚えていろ、ゼウス。


 てゆーか、転生神ゼウスだったら私は異世界に行くんですか?


「うむ。田中は異世界に飛ばすぞ!魔王を倒して欲しいというのもあってな」


 魔王って(まさ)しく異世界にいそうなやつじゃないですか!とっても今、ハッピーです。

 でも、そう簡単に上手くいくだろうか。何百年とかかかってしまいそうですが。


「その点は心配するな。田中の寿命を永遠にするんだよ。そうしたら、魔王も倒せてしまうくらいのレベルにはなっているであろう」


 成程。納得しては行けないのだろうが、この場合は信じる道しかない。

 選択肢は限られているのだから!


「ところで、その手に持っている三角のやつはなんなんだ~?」



 お、感覚がなかったけどスコップ持ってたんだ!

忘れていた。

 その日は雪が降っていて実家暮らしの私は、両親の為にとスコップを買っていたのだった。

 土とか、雪かきとかするやつだぞ。


「ふーん。それも異世界に連れていこう!それに、耐久性とか付属したら武器にもなってモンスターに対抗できるかもな!すげぇ。無料で武器を手に入れる転生者なんて初めて見たよ!僕」


 喜んでくれて光栄です。

 ところで、一つお願いしても宜しいですか?


「構わんぞ~」


 呑気に答えるゼウスに対して、私はきっちりとした姿勢で言う。


 言ってはないけど、心の中で言う。


 転生場所は自然が多くて食料に困らない安全な森の中がいいです。


「街じゃなくていいのか!」


 はい。


「森に入ると、危険なことが多い。僕の情けで、スコップに多様のエンチャントを付けておこう」


 その優しさに、感謝致します。ゼウス。私は、これがあれば生きていけますので。森で大丈夫です。


 私は話すことが出来ないので、会釈をしてしっかりとゼウスと目を合わせる。

 ゼウスは、少し顔を赤らめた。


「分かった。そういうことなら。では、始めるぞ?困ったことがあったら《クレル》と唱えてくれ。そうしたら助けてくれるであろう」


 はい。ありがとうございました。

 最後に感謝の言葉を伝えて、私はゆっくりと目を閉じる。


 その間に、ゼウスは変な呪文を唱えていた。数秒待つと、ゼウスが見送りの言葉を言ってくれた。


「健闘を祈るぞ~!僕はこの水晶玉で手助けできることはしますからね~」


 私は、宙に浮いていることなど気にしずに軽くゼウスに手を振って見せた。後々考えると、今手動いたじゃんと思った。


 ここから始まる異世界。喜びと、不安が入り混じる気持ち。追いついていけないことが多いであろう、私の頭脳。


 頑張ろう、異世界。


 信じよう、ゼウス。


 ゼウスが私を巻き込んだんだこら、困ったらゼウスが助けてよね!

 でも、この数分が楽しかったですよ、ゼウス。


 見ててください!私は夢のスローライフ、送ってみせますから!


 ついでに、魔王もぶっ倒してきますからね!平穏な生活を送るんだから~!



 お先真っ暗なはずだったのに、今では明るく感じてしまう。


 頭狂ったかな~。この数分で、なんて考えていると歯車の音や、異世界の音だろうか騒音が聞こえてくる。


 楽しみだ。

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