第十四話 戦いの中
「逃げられたか。」
「あ、あ……」
バタンッ!
「!龍也くん!?」
龍也はその場で倒れてしまった。傷を確認してみるとかなり深い傷もあったりし、無理していたのは明白だった。
「え、ええと、とにかくどこか見つからない場所……」
葵が見まわすと、ちょうど龍也が言っていた倉庫が見えた。
「あそこに運びましょう!」
珍しく葵が先導する形で龍也を倉庫へと運んだ。
「よっこいしょ。」
悟はそっと龍也を寝かした。龍也は相変わらず苦しそうに呼吸を繰り返していた。
葵が手を前に出すと龍也を囲むように光が包んだ。ゆっくりとだが確実に傷がふさがっていった。
「なあなあ、こんなときだけど質問。」
悟が手を挙げて言った。
「もしかして特別な力みたいなのがないのは俺だけだったりする?」
「たぶん、そうだよ。」
佐奈の言葉を聞くとすくっと悟は立ち上がった。
「はれっ?どうしたの?」
「このまま待ってるのも気分悪いから見周りでもしてくる。」
「あっ、佐奈も!」
2人は一緒に倉庫を出て行った。
「はぁ。」
「5回目だね。」
「?何が?」
「ため息。」
佐奈に言われてはじめて気づいたようで、悟は口を手で覆ってしまった。それでも、いつもの明るさはなく何となく力なく笑った。
「どうかしたの?」
「いや、ただ無力だなって思っただけさ。」
それだけ言うと、また力なく笑った。
「大滝龍也はどこだ……」
どこからか変な声がした。二人とも空耳かと思いそれほど気にしなかった。
「大滝龍也はどこだ。」
今度は二人ともはっきりと二人とも聞こえた。悟たちが昇ってきた逆側の階段から誰かが昇ってきた。
それは男のようであった。なぜこんな表現かというと、わかりにくかったからである。服はぼろぼろ、顔も汚れのせいでうまく見えない。髪の長さと体格だけから男だろうと思えるだけなのである。
「こんなところにどうしたんですか?」
佐奈が近づいて言うと、男は感情のない瞳で見た。
「大滝龍也はどこだ。」
まったく抑揚のない声で言った。まるで感情の無いようだ。
二人は出来るだけ表情を変化させないようにしてその男の顔を見た。
「たぶんここにはいないと思いますよ。今ここにいるのは私たちだけのはずですから。」
佐奈は自分の声が少し震えていたのに気付いたが、何とか言いきった。
「どけ。」
男はそうとだけ言った。
「だから……」
「どけ!!」
急に男の声から感情が感じ取れた。
ドンッ!
悟は嫌な予感がしたので佐奈を突き飛ばした。いたところには土の槍が大量に刺さっていた。
「ありがとう。」
「どうい……おっと!」
今度は完ぺきに悟に狙いを変えたようで、悟には大量の槍が襲いかかってきていた。高い身体能力でうまくよけてはいるが、それでもかなりきつそうに見える。
「やめなさい!」
佐奈の矢が男を狙ったが、またあっさりと壁に阻まれてしまった。男はぎょろっと佐奈のほうを見ると今度は狙いを佐奈に変えようとしているようだった。
「きゃっ!」
予想通り大量の槍が佐奈を襲いだした。佐奈もよけていったが悟ほど身体能力が高くないので、少しずつ追いつかれていった。
「やめろ、相手なら俺がやってやる!」
「きゃっ!」
ついに追いつかれ、足を切られた。その拍子に佐奈はこけてしまった。
「……」
無言で佐奈の前に男は立っていた。
「逃げろ!」
「……」
佐奈はおびえ切ってしまい動けなくなっている。悟は走って近づいて行った。
「どけ!」
佐奈を思いっきり突き飛ばした。
そこにタイミングよく槍が飛んできた。それが悟にはスローモーションに見えていた。
(俺は死ぬのか?)
悟は心の中で自分に問いかけた。
(死にたくはない。でもそれを決める権利など今のおれにあるはずないよな。)
悟は目を閉じた。できれば自分の死ぬ瞬間を見つめたくない、そんな風に。
ボウッ!!
不思議な音がした。悟はこれが死ぬ時の音なのかと思ったが違った。すべての土の槍が溶けていた、悟の周りを取り囲む火によって。
「なんだ、これ?」
自分の置かれている状況に目を疑いながら、悟は生きていることを確認した。その時、悟の周りの火が集まっていった。そこに現れたのは、ヒト型の火だった。
「お前が俺の相手候補か。」
火がいきなりしゃべりだしたと思うところまでしか悟の意識は持たなかった。
どうも、試験で死にそう、作者のヒッキーです。
戦いは佳境ですね。次はだれが活躍するかな?まあ、予想はつくと思います。
では、また因果の交差路で。




