霧のように消えた師、そして親友
「良いか?戦線から離脱して輸送を完了したらコレを撃つんだ」
師、いや、父のようなものだ。彼からの言葉。それはいつも的を得ていて、我々を勝利へと導く。
そして彼自身は最も危険な任務を引き受け、笑いながら帰ってくる。ああそうだ。
今日だって彼は絶対に帰ってくる。あの男は不死身かと思うほど生命力が強い。
「信号弾、撃ちます!」
「了解!輸送完了の合図を出す!」
これは戦いの合図。彼は今、陸上にいる。これが見えたら、空母に乗り、こちらとすり違った敵を迎撃する。
しかし、そこまでうまくはいかなかった。いや、個人的に最悪な結果となった。
「エドウィン大将、行方が分かりません!繰り返します、エドィン大将、行方が分かりません!」
海兵の一人が叫ぶ。彼は、消えた。まるで、霧のように。
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「アルバート!しっかりしろ!」
ハロルドに言われ、ふと我に返る。ああ、すまない、と、前を見る。
「気なんか抜いてると死ぬぞ?」
「そうかもな、ここ塹壕だし」
機関銃を構えながら、会話する。
「敵に狙撃手がいないことを祈る」
「そんな風に都合よく行けば戦死者はあそこまで増えたりしない」
「あーあ、空母の搭乗員とかが良かったなぁ」
「文句言うな。最前線での偵察とか最悪だぞ」
緊張感。そんなものを微塵も感じさせないのんきな会話。 しかし、手をベタつかせる汗が、
そんなことはないと告げる。
「俺、最前線だったら確実に死んでたよ」
「まったくもって同感だ」
結局、あの男は帰ってこなかった。さらに言えば、あれから敵に作戦を読まれているんじゃないかと
思うほどに、敵は進軍していた。 おかしい。 何かがおかしい。
「なあ、もしも、だ。もしもエドウィンが裏切ったのだとしたら、お前はどうする?」
突然の質問。そして、自分も心のどこかで考えてしまっていたこと。
「・・・・・・さあ?実際にそうだったとわかったら何をするか」
あいまいに答えておく。細かくいったら絶対に止められると、分かりきっているからだ。
「お前、あの男を殺す気だろ?」
図星も図星。ああ、やはり親友には何でもバレているのだな、と感じつつ口を開く。
「ああ、そうだ。なぜ分かった?」
「どうせ、せめて自分の手で最後にしてやろうとか思ってるんだろうと思ってな」
「いや、そこは少しばかり違う」
「ほう、読みが外れたか。ならば真意は?」
「あの男はいつでも人の道標になっていた。ならば、背中を見せることの責任というものを
知ってもらわないとな」
彼は軍の中で名が知れている。だからこそ、人に悪影響を与えるような行動は避けなければならない。
「じゃあ、お前はあの男が死んだと思っているか?」
「いや、アレは簡単には死なない。それは身をもって知っている」
「そうか。じゃあ、この任務が終わったら、探すか」
「あの男を?」
無理だ。なんせ敵国の中央にいるだろう。そんな男を探し出すなんて言うことはできるわけがない。
「いいや、出来る。少なくとも、俺とお前ならな」
「本当に調子のいい奴だな」
気楽な奴だ。だが、唯一といってもいい気を許せる相手だ。ありがたくこの話に乗らせてもらうとしよう。