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グレイン中将とわたし

翌朝。


朝食を食べながらのミーティング。

私は宰相のボルワースから戦争の被害について報告を受けていた。


ほぼ皆無の人的被害と壊滅的な物的被害が対照的だ。


相変わらず我が王国民はしぶといなぁ。


嬉しい。


笑みがこぼれちゃう。

もちろん安堵の笑みだよ。


「訓練と早めの警報が役に立ったみたいね。良かった……」


「ええ。主だった街や村の住人はほとんどがうまく逃げられたようです。聖国は仮想敵国でありましたからな。みな用心しておりました」


宰相殿も誇らしげだ。

報告書をめくる。


そこにはしかし、問題も記されていた。


金が無いのだ。金が。

あと食べる物もない。


どっちも大問題であった。

よく食べる私なんかは特に厳しい。


私は腕を組んだ。


私達が生き延びるだけなら、木の根っこでもかじって頑張れば良い。


でも今回はそうはいかないのだ。


帝国から来た人たちの問題があった。


「帝国の人たちに払う謝礼が無いのよね。危ないところを助けてもらったのに。このままだと『うちの国、出せる物なんにもないんです! でも援助してください!』って感じになっちゃうんだけど……」


「たしかに、それはどうかと思いますな」


帝国軍の皆さんには、王都から聖国軍を追っ払ってもらった。

私達にはどうしようもなかった存在を彼等はなんとかしてくれたのだ。


その理由はわからない。

でも無償って事はありえないだろう。

謝礼が必要だった。


でも、このままいくと、先に援助のおかわりをおねだりすることになりそうなんだよなぁ……。


図々しいことに定評がある私でも、ためらうレベルの厚顔さだ。


私が相手側の代表なら、相手が女王だろうと顔面にグーパンチたたき込む自信がある。

なんなら助走だって付けちゃうだろう。


グーパンは嫌だ。

せめて平手でまけてもらえる様に工夫しなければ、私のかわいいお顔がさらに見苦しくなってしまう……。


私が悩んでいると、忠臣ボルワースが一石を投じてくれた。


「その件についてなのですが、私から一つ提案がございます」


「なにかしら?」


「実は先方の代表グレイン中将が、陛下との会見をご希望のようなのです。この際、公式の会談に先んじて、直接お礼を言いに行ってみては如何ですかな?」


この提案に私はコレットと顔を見合わせた。



グレイン中将。


私を助けてくれたオスカーさんの事だ。

なんでも昨日の夜遅くに、彼から私への面会希望があったらしい。

でもその時の私は、聖国軍に囚われたりもしたせいで、立ったまま寝ちゃいそうな有様だった。

結局お断りすることになったのだが、その時のオスカーさんはそこはかとなくがっかりした様子であったそうなのだ。


「会談に先んじて、お礼を言っておくのはいいかもしれないわね」


挨拶は大事だ。

人間関係がスムーズになる。


私は一つ頷いた。


「わかりました。ボルワース、先方にお会いできるよう手配をお願いします。女王がお礼を申し上げたがっていると伝えてくれる?」


「承知いたしました」


ボルワースは一礼し、部屋を後にした。




「さて何着ていこうかしらね」


私の言葉にコレットが笑った。


笑うなよ。

私だって状況はわかってるさ。


実は私の衣装棚は、戦争前から深刻な過疎化に悩まされていた。

それが先の末期戦を経てさらなる悪化を遂げてたのだ。


なにせ討ち死に前提だったので、みんな形見分けで配ってしまった。


今私が着ているのは、木綿のもこもこした作業着だ。

着心地はいいし動きやすくもあるのだが、見た目が農家のおばちゃんそっくりになるという欠点がある。

この格好で会いに行っても許されるのは、ぎりぎり町役場のお偉いさんまでだろう。


「まぁ、なんとかするわ」


コレットは不敵に笑うと作業に取りかかった。

さてこのコレットなる小さな栗毛の侍女であるが、とにかくいろいろと有能だった。

なんでも以前は夜の街で一番の女であったとかで、謎の技能をいっぱい持っている。


彼女は部屋中ひっくり返して、私に最低限見られるだけの格好を工面してくれた。


そうしてコーディネートしてくれたのは、多少のひらひらがついたブラウスと、全くひらひらがないハイウエストのロングスカートだ。

スカートの色は紺。地味だ。

私によく似合う。へへへ。


真のレディは見えないところにもこだわりを持つという。

しかし下着は、ぶかぶかのかぼちゃみたいなやつしか残っていなかった。


「お化粧は軽めにしたわ。アクセサリは無いけど我慢して」


「うん、ありがとう」


宝飾品の類いは一個も残っていなかったので無し。

無から有を生み出すことは、スーパー侍女コレットでも不可能だ。

彼女は優れた顔面の魔術師ではあるが、錬金術までは使えないのだ。


そんなシンプル極まる私であるが、髪型についてだけはちょっとだけ工夫した。

コレットが私のもさもさした金髪を一つの大きなお団子にまとめてくれたのだ。


可愛い。

ふわふわする。


母親譲りのこの髪が私は好きだ。


「さ、できあがりよ。エリザ」


「ありがとう、コレット」


私はお礼を言って立ち上がった。




私達が城門の外に出ると案内の兵士さんが来てくれていた。

彼に先導されて、警備の皆さんに見守られながら進む。


帝国軍の陣地は賑やかでなぜだか見物人が多かった。


帝国軍を訪問するのは、私とコレットの二人だけ。

騎士団長のバルトルトが護衛をすると言ってくれたのだけれど、彼は昨日の戦場で腰を痛めてしまい動けなかった。

付いてくるって言い張ったけど、私が止めたのだ。邪魔だったから。


歩くことしばし、私達はひときわ大きな天幕の前に案内される。


その入り口では、熊みたいなでかい体の騎士さんが待っていて、私達を迎えてくれた。


思わず見上げる。


その騎士さんは、赤銅色のいがぐりみたいな頭をしていた。

お顔は優しそうな感じだ。目と顔が丸い。


「お待ちしてましたよ。エリザベート陛下」


そして声も優しい。


「ええ、ありがとう。お勤めご苦労様」


私が挨拶を返すと、騎士さんはにっこりとおおらかな笑顔で答えてくれた。

それから中腰になって目線を合わせてくれる。


「それで、今日の会見なんだけど、オスカーができれば二人きりで話したいって。侍女さんはここで待っててもらってもいいかな?」


ちょっと悩みどころだけれど、今更、女王だからと体裁を取り繕う必要もないかな。


コレットに視線を送る。

「ここで待ってて」とアイコンタクト。

コレットは厳かに頷いた。


「お断りします。男の方がいる場所に、陛下を一人で向かわせるなんてできませんわ」


ちょっと、コレットさぁん!

その態度はどうなの!?


でも騎士さんは笑って許してくれた。


「だよねぇ。なら侍女さんと一緒に僕もお邪魔する。二対二だ。これならどうかな?」


「そうですわねぇ……。ま、仕方ありませんわ。それならよしとしましょう」


「よかったー。助かったよ。流石はエリちゃんの侍女さんだ。話がわかる!」


「エリザベート陛下の侍女ですもの。当然ですわ。それでなんですの、そのエリちゃんて? いくらなんでも無礼じゃありませんか?」


優しい。

この帝国から来た熊騎士(仮称)さんは優しい。


体がでかい人は器もでかいんだなぁ。


私は感動に打ち震えた。


だというのに!


うちの侍女ときたら!


乳も背も小さいくせに、態度だけはむやみやたらとでかいのだ。

顔はとってもかわいいけれど、それだけで生き残れるほど世の中甘くはないんだぞ!


会う前から精神力を削られた私は、内心の冷や汗を拭きながら天幕の中にお邪魔した。

やらかしてくれたコレットは涼しい顔でついてきた。


この女の心臓は鋼鉄でできてるんじゃないかと時々思う。



陣幕の中は意外と明るかった。

そこへ先導役の熊騎士さんがのっしのっしと入っていく。


「スカさん、やっぱ二人きりはだめだって。僕も同席するよ」


「わかった。ご苦労、マルノイ」


熊騎士さんあらためマルノイさんと挨拶を交わしつつ、奥の方に座っていた軍服姿の男性が立ち上がる。

その人がキビキビした動作で敬礼してくれた。


「改めて挨拶をさせてくれ、ミス・シフィールド。自分はオスカー・フォン・グレイン中将だ。オスカーと呼んでもらいたい」


「改めまして。エリザベート・シフィールドと申します。オスカー様、どうぞよしなに」

それから私は勧められた席に腰を下ろした。


マルノイさんが「スカさんに様付けなんてしなくて良いよ」本人そっちのけで言う。

「でしたら、さん付けで呼ばせてもらいますね」などと返しつつ、私は内心、盛大に慌てていた。


オスカーさんが、私の予想よりもはるかに若かったからだ。



さて突然であるが、ここで私の百ある特技のうちの一つを紹介しよう。

実は私は、おじさんやおじいさんと仲良くなるのが上手いのだ!


そりゃもうすごく上手い。

最速だと会って五秒で打ち解けている。


皆さんには特別にその秘策をお教えしよう。

出会い頭に「おじさん、私の事忘れちゃったのー?」ってにこにこしながら尋ねるのだ。

おじさん達は大慌ててフレンドリーに合わせてくれるだろう。


赤の他人だろうと関係ない。

おっちゃん達は自分の記憶力に自信が無いのだ。

なので知り合いだったことにすると一発である。


成功率は八割以上。

私はこの手を使って、地元でもぶいぶいいわせてきた。

干し芋とかふかし芋とか焼き芋とかを、それはもう嫌になるほど貢がせた。

まさに芋娘である。私は得意満面で屁をこいた。ぶー。


オスカーさんは帝国軍の中将だ。

中将って、かなりのお偉いさんで、そこまで行くには時間がかかる。

だから、私は彼について、勝手に四十台半ばぐらいのおじさんだろうと想像してたのだ。

だが予想は外れた。


残念ながら、オスカーさんは若かった。

多分、三十前後、精悍な雰囲気を漂わせた狼っぽい感じのお兄さんであった。


この年で高い地位についているわけだし、きっと良いとこの出だろう。

見た目的にも、貴公子的な雰囲気がある。


五歳で母と一緒に宮廷を追い出された私にとって、貴公子とかいう存在は天敵なのだ。

ぶっちゃけランスロットを思い出す。



やばい、やばいぞ。


私は震え出した。


私は完全に手ぶらでご機嫌取りに来たのだ。

おじさんキラーを心の中の手に持って、単身、おっかない軍隊さんの司令部に乗り込んだのだ。


しかし相手がおじさんでない私の必殺スキルは発動しない。

私の容姿じゃこびを売ることさえ難しいのだ。


私は基本ヘタレの泣き虫だ。

警報警報、イケメン警報! だれか助けてくれ!


助けを求めるべく横を向いたところ、コレットは私にだけわかる顔でにやにやと笑ってみせた。

傍観者の構えだ。

ちくしょうめ!


以上の一瞬の葛藤を経て、私は開き直った。


「オスカー様、私、お礼を申し上げに来たのです。援軍を頂けたこと本当にありがとうございました」


オスカーさんが頷く。

私は続けた。


「本来なら、相応の謝礼を支払うべきであること、重々承知しております。でも今の私達にはお金も食糧も無いのです。お城の蓄えは避難する皆に分けてしまって……。ですから言葉だけのお礼になってしまうこと、お許し頂きたいのです」


私は頭を下げた。

「国民に配っちゃったので、あなたたちに払うお金はありません」と頭を下げた。


行く先々で特定外来生物みたいなしぶとさを武器にはびこる我が王国民であるが、やっぱりご飯は必要なのだ。

難民として新しい土地で暮らすには先立つものが必要で、だから私は王国から避難する皆に国庫のお金を分けていた。


おかげさまでもともと寂しかった国庫は、今空っぽである。


オスカーさんは片眉を持ち上げた。


「国庫から金を出した? しかもそれを避難民に配ったと? 金が無いのか?」


「はい、でも、あの! 戦費は頑張って集めます! 何年かかっても! ですからみなに配った分を取り上げるのは許してもらえませんか? みな家も畑もなくしてしまって、今はお金が必要なのです」


私は必死に言い募った。

情けないが、こういうときに矢面に立つのが女王の役目なのだ。


頭下げるぐらいしかできないが、頭下げるのが仕事である。


その場には沈黙が流れた。


だれか何か言ってくれ。


私の声にならない願いを聞き入れて、口を開いてくれたのはオスカーさんであった。


「頭を上げてくれ。話が出来ない」


「はい……」


私が顔を上げると、彼は困った顔で私を見つめていた。

眉毛の端が下がっている。

それからちょっと横を向いた。


「マルノイ、戦費の支払いを要求したのか?」


「するわけないじゃん。一応義勇参加って事になってるんだから。なによりスカさん怖いし」


「黙れ」


二人はひそひそ話をしていた。


実は私は読唇術を使えるから、ひそひそ話とか傍受できる。

皆には内緒だ。


それを知らないオスカーさんは私に向かって言った。


「先に明言しておくと、戦費にしろ糧食にしろ自弁する予定になっている。だから貴女が気にする必要は無い。押しかけてきたのは我らのほうだ。あまり気をつかわないでくれ」

ありがたい。

貧乏を極める私達には本当にありがたい申し出だ。


「それに、どうせ戦費は現地調達……」


「黙れ」


なんか聞き捨てならない単語が……。


でもうちの国で調達は無理だよ。

本当に何にも無いからね。


私が改めてお礼を言うと、オスカーさんもマルノイさんもなんだか恐縮してくれた。

助けた国の女王様がわざわざ礼をしに来てくれた、それだけで将兵は喜ぶだろう。そうオスカーさんは言ってくれたのだ。


よかったぁ。

私は胸をなで下ろした。


でも、私が国の貧しさを暴露してしまったのまずかった。

二人に私達が本当に生きていけるのか心配されてしまったのだ。

援助についても話が及んでしまったので、食べる物ももうほとんど無いと私は正直に告白した。


私の朝ご飯のメニューを聞かれたので、燕麦のおかゆに漬物ひとつまみだったと答えた。

そしたら、マルノイさんが驚いた。


まぁ、マルノイさん見た目にもでかいからな。

うちのご飯じゃお腹すくだろう。


「それだけじゃ足りなく無い? これ、食べる? 僕のおやつなんだけど」


「いいんですか!? ありがとうございます!」


私が施しをありがたく受け取ろうとしたところ、コレットに脇腹をつねられた。


ぎゃー!

痛い、なにをする!

私がもらったおやつであるぞ!?


食い意地張った私がお菓子を離すまいと抱きしめると、二人にはめっちゃ笑われた。


我ながら浅ましい……。

とりあえず、コレットを巻き添えに私は赤面しておいた。

道連れがいると気が楽になるね。


笑われついでに私はオスカーさんからもおやつをいくつか受け取った。

私はもうこれだけでご機嫌だ。


お城に戻ったらこっそり食べよう!



すっかり、恥と中身を晒してしまった私は、彼等と楽しく談笑した。

私がこんな有様だったせいもあるだろうけど、オスカーさんもマルノイさんも、打ち解けた態度でお話しをしてくれた。

そして、ありがたいことに、二人ともなぜかとっても優しかった。


罵倒されるか、あきれられる覚悟で来ていた。

でもオスカーさんもマルノイさんも、苦労したね、頑張ったねと私のことを褒めてくれたのだ。


なんで、突然助けに来てくれた外国人に、私は優しくされてるのか?

いまいちよくわからなかったけれど、とにかく好意的なので私はにこにこしておいた。


ご機嫌な雰囲気のオスカーさんが私に尋ねる。


「それで、体は大事ないか、ミス・シフィールド。昨日は大変だっただろう。とにかくそれが心配だったのだ」


「はい。大丈夫です。おかげさまでぴんぴんしてます。お礼ばかりで恐縮なんですけれど、本当に助かりました。助けてくださってありがとうございます」


「であれば良かった。俺も良くやれたと胸を張れそうだ」


オスカーさんが満足げに頷くと、マルノイさんもそれに合わせた。


「いやー、ほんとよかったよ。エリちゃんがなにかされてたら、スカさんと騎兵一万人で行く聖国首都エクストリーム強襲戦が始まりそうな勢いだったから……」


「黙れ」


うん?


時々よくわからない単語が出てくるな。


でもとにかく、私が酷い目に遭わずに済んだのは彼のおかげなのだ。

私の隣でコレットも一緒になって頭を下げた。


ちゃんとお礼ができて良かった。

私は胸をなで下ろした。



さてこの時だ。ちょっと事件があった。

マルノイさんがオスカーさんをせっついたのだ。


「スカさん、スカさん。せっかくだからなんかお礼をもらいなよ? ほらお姫様のピンチを助けたんだから、なんか、こう、いろいろあるでしょ?」


「いやいや、図々しくないか? 雑兵散らして敵中突破した程度のことで…・…」


「そんなこと言ってると、エリちゃん他の人に攫われちゃうよ? ライバル最大で一万人追加だからね。僕も含めて」


「それはだめだ」


お礼って聞こえた。


震える。


勿論、お礼するのはやぶさかでは無い。

問題はお礼になる物がなんにもないって事だ。


やべぇ!

オスカーさんがこっちを向いた。もっとやべぇ!


「ミス・シフィールド。厚かましい願いで申し訳ないが、昨日の礼になにかもらえないだろうか。もちろん迷惑でなければで構わない」


「……ええっと」


私は悩んだ。


これがお姫様だと、ちゅーとかでお礼の代わりになったりするのだろう。


だが私がお礼をしたいオスカーさんはイケメンだ。


帝国に戻ったら、オスカーさんにちゅーしたいお姫様は沢山いそうな雰囲気だ。

地位があって実力があってかっこまでよろしいのだ。

女の子なんてよりどりみどりだ。間違いない。


そんな人が私にちゅーされて喜ぶだろうか?


綺麗な帝国のお姫様と、農家のおばちゃんルックのエリザベートを頭の中で比較する。


だめだ。

ありえない。

私みたいなマダムに求められるのは、やっぱりお金だ。金なら間違いない。


でも、私には彼に渡せる宝飾品も無いのだ。

端っこがすり切れてるハンカチぐらいしか持ってない。


よく見なければわからないから、もうこれでいいかな?

やっぱだめだろうな。これもだめだ。


う……。


私は困った。

感謝の気持ちはいっぱいでも、あげられる物がなんにもないのだ。


もうこうなったらおっぱい揉んでもらうぐらいしかなくない?

でも、それ完全に痴女だよね!?


その時だった。


オスカーさんが言ったのだ。

一見、爽やかに見える笑みを浮かべて。


「ミス・シフィールド。もしよければ、手を許してもらえないだろうか」


「え、ええ! 勿論です」


言われた私は、素直に右手を差し出した。


あ、やばい、素手だ。

手の肌を晒すなんて貴婦人失格だと礼儀作法の本に書いてあった気がする。


死にたい。


しかも私の手、手荒れが酷い。


さらに死にたい。

エリザベートは二度死にたい。


でもオスカーさんは私みたいな粗忽者の扱いなど心得たものらしく、手袋を脱いでから私の手を取ってくれた。


それから私の手を持ち上げる。


あれあれ、握手じゃないのかな?


などと私が思っていると、彼は私の手の甲に口づけを落としてくれた。


オスカーさんが笑う。


「とりあえず今日のところはこれで十分だ。次はまた別の物をもらうことにしよう」



それからも私達はもうちょっとだけ談笑した。

私は、オスカーさんのことをオスカーと呼び捨てにしてくれと、かなり強く求められた。

代わりに私の事もエリザって呼びたいんだって。

少し恥ずかしかったけれど、私はわかりましたと返事した。

でも私は慣れるまでオスカーさんと呼ばせてもらう予定だ。


マルノイさんからは、「エリちゃんって呼んで良い?」って言われたけれど、それはコレットにダメ出しされた。

代わりにコレットは、「コレさん」というあだ名を付けられて、綺麗な眉毛を変な角度につり上げていた。

珍しい。笑う。



それから私達は、帝国軍の陣幕を後にした。


私達は彼等と少しだけ仲良くなることに成功した。

有意義な非公式会談で、私は大満足であった。


後で、もらったおやつを食べる予定だ! 今から楽しみである。へへへ。

実はまだエリザはちょっと萎びています。

戦争明けてすぐなので。


◇◇◇


愛称について


感想欄でもちょっとだけ触れてもらったのですが、エリザベートの愛称はリズが一般的です。

(有名どころだとシシーとかもあります)


字面的にエリザのほうがわかりやすい気がしたのでエリザにしました。

違和感ある人いたらすんません。


ぶっちゃけ今も迷ってます。


ある日突然、全部リズになってたら察してください。

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