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戦後処理とわたし

こんにちは。

エリザベートです。


私は今日、人身事故を起こしてしまいました。


いままで、無事故無違反で、木の看板ぐらいしかぶつけたことはなかったのに。

でも、急に上から全裸のランスロットが降ってくるなんて想像できないと思うんですよ。


まぁ、戦争の真っ最中だから前科にはならないんだけどね。


「まさか私の戦車ちゃんが撃破スコアをあげることになるとはね。しかも敵の大将首」


「自分が倒したと言わないあたり、実感のなさがうかがえるわね」


「私じゃ無くて戦車ちゃんが勝手にやった事だから」


「責任逃れかよ」


やっぱ、人身事故起こしたっていうのは抵抗があるのだよ。


戦果をオスカーから聞かされて、同乗していたコレットもびっくりしていた。

彼女は護衛兼狙撃手として同乗していたのだが、全然気がつかなかったそうだ。

私もだ。


んー、なにか乗り上げたかなー、ぐらいの感じだった。

我が戦車の悪路走破性能の高さがうかがえる。


私たちは女性用天幕で、ごろごろしながらくつろいでいた。

安心感、そして何より戦争の元凶を地上から排除できた達成感で皆の表情は明るい。


ランスロットは王国の王位継承権を持っていた。

奴だけは討ち取らねばならない。

私は大変に強い決意でこの遠征に臨んでたのだ。


皆は、ランスロットを無能と言う。

でも、私は奴を危険視していた。


なぜかって?


奴はとにかく生存能力が高いのだ。


そのしぶとさは、遮蔽物に恵まれた台所に出没する黒くて艶光りする悪魔を凌ぐだろう。


奴は、Gと同様逃げ足が早い上にGと違って高価な装備で武装している。

革命でも逃げ切ったし、オスカーによる包囲攻撃でも仕留めきれなかった。

ルチアも何度か暗殺を狙ったのだが、いずれも躱されてしまったと言っていた。


それほどの男だ。


指導者にとって生き汚さは一つの才能だ。

その点、奴は優れた資質を持っていると私は評価していた。


一見ピエロっぽく見えるが、タダの愚か者であったら、革命軍の追跡とルチアの陰謀とオスカーの攻撃をかいくぐれるはずがないのだ。

少なくとも私なら、三回ぐらいは死んでる自信がある。


この戦いでも仕留めきれるとは限らない。

場合によっては、聖都を落としてからも家捜ししたり、山狩りしたりするする必要があるかもな、と私は覚悟していたのだ。


それが殊の外、あっさりと片付いたんだ。

それはもう食欲も湧こうというものであった。

私は子牛のワイン煮込みを二杯もおかわりしてしまった。


「これでようやく、旧王家の因縁が片付いたわ。偏執的に王国を狙う人間が一人減ったのは大きな安心材料だと思う」


「王国は、ただ侵略しても野原しか手に入りませんものね。私怨が絡まなければ侵略の恐れはぐっとへりますわ」


アリスの指摘する通り、王国は貧しい。

原野商法を狙うのでなければ、国土を奪うメリットはない。


ランスロットが居なくなれば他所から狙われたりすることはないはずだ。

故に私達の安全は概ね担保されたと言って良い。


ただ、それ以外のところで、アリスは引っかかるところがあったようだ。


「私、一つ疑問があります」


「なにかしら?」


「ランスロット氏が使っていた魔術具です。誤作動を起こして転移に失敗したんですよね? 私も詳しくはないのですけど、の封入式が私達に都合良く誤作動をおこすなんてあるんでしょうか? 作為的なものを感じるのですけれど」


「そうね、私も同感。オスカーも同じ事を言ってた、転移の魔術具を調査中だけど、多分謀殺だろうって。彼を殺害すべく工作がされてたっぽいわ」


「やっぱりですか。ならその工作員さんにお礼を言わなければいけませんね」


「勲功第一位よね。裏で手を回してくれたルチアは叙勲が必要かも」


用心深いランスロットを倒すには、その思惑の裏をかく必要があった。

奴を出し抜くにはどうすべきか。

その回答が、土壇場で頼るであろう転移の魔術具への細工であったというわけだ


黒幕はルチアだろう。

内通者を使った工作は、私たちにはできない芸当だ。


コレットが心配そうにこっちを見た。


「なかなか油断ならない女ね。エリザも何か仕掛けられたりしていない?」


「何かされても、私が気付けるわけが無い。コレットに任せするからよろしく頼むわ」


私なんか、彼女の手にかかればあっという間に現世とバイバイだろう。

用心するよりは、敵に回らないように手を尽くす方向で力を尽くしたいと思う。


それじゃ困るのよ、とコレットは苦笑していた。




アーレンディセリの戦いに参加した聖国の兵士は約二万人。

このほとんどが戦わずに投降した。


無条件降伏だ。


しかし、そんな彼等の身命はまだ保障されていない。

聖国軍は王国で略奪を働いたので、処断される恐れがあったのだ。

陸戦協定違反である。


しかし、私としては彼等を助命したいと考えていた。


もちろん同情心じゃ無いよ。


現実的な問題として彼等を処断するのが不可能なのだ。


非寛容な方針を採るのであれば、私は、徹底してそれを貫く必要がある。

聖国を焦土にせしめ、全ての住民を皆殺しにし、もって王国に敵対する全ての存在を地上から一掃せねばならない。

でなければ、子の代、孫の代、いつか必ず復讐される。

我が国の国力は小さいので、報復合戦になればまぁ、十中八九負けるだろう。


ならば完全に滅ぼす以外に道は無い。


魔王エリザベートの誕生である。

ブラッディー・エリーだ。


しかも、しかも。

うちの国には軍隊が少ないのだ。

つまり、虐殺を帝国軍にお願いすることになってしまう。


まぁ、無理だよね。


じゃあ、彼等をすんなり許せばいいかというとそれも難しい。

処罰が一切無しでは今度は甘く見られてしまう。

王国の女王はぷよぷよした腑抜けであるとみなされれば、何度も略奪されることになるだろう。


この問題に対処するため、私達は共謀して一芝居打つ事にした。



戦闘終結後、降伏と助命嘆願のため、聖堂騎士団の代表が帝国軍本陣に出頭した。


聖堂騎士団の団長は、堂々とした騎士様だった。

白髪交じりの頭に厳つい風貌、頬に白く古傷が走っていて、まさしく古強者といった風情だ。

実戦経験に乏しい私は、物腰の鋭さとかはわからぬゆえに、ビジュアルから判定するしか無い。

威厳がある人だろうと私はみなした。


オスカーは私の横で弛緩していた。


本陣では、野戦仕様のドレスを著た私と、汗臭い軍服姿のオスカー、それに護衛の武官が十数名詰めていた。


頭を垂れ無条件降伏と助命を申し出る騎士団長。

その罪を鳴らして、処断しようとするオスカー。


その時、聖女ルチアが都合良く駆けつけた。


天幕に飛び込んできた彼女は、女王エリザベートの前に跪いた。


「ああ、エリザベート陛下。何卒、何卒、我らにお慈悲を賜りたいのです。我らに過去の罪を償う機会をお与え下さい。我らは必ずや約束を守りましょう」


「ならぬ」


取り付く島も無いオスカーは、震えている。

この男が一番の不安要素だ。

大根役者が、吹き出したらただではおかぬ。


ルチアの目に殺意が籠もる。


急いで決着付けなくてはと、女王エリザベートが前に出た。


「あなたの言葉を信じます。過去の罪は消えるものではありません。ですが、許されざる罪もまたないっと私は信じています。償いが為された後は、お互いがお互いの尊厳を譲り合える関係を築ける事を私は願っています」


「……やむを得ん。女王の言葉であれば、我らも従おう」


オスカーは短い台詞を棒読みした。

振動が続いているがもはや私達は気にしなかった。


ルチアが、はらはらと綺麗な涙を流して頭を垂れる。

一緒にひざまずいていた聖堂騎士団のおじさん達も、肩をふるわせ泣きくずれた。


とまぁ、こんな感じで三文芝居を打ったのだ。

脚本はルチアによるものであった。


騙したのではない。

必要な儀式なのだ。



でも、寛大な処置をとるというのも、それはそれで楽じゃ無いなぁ、と私は思った。


まぁ、あとは概ね順調だったよ。

交渉の当事者のルチアと私とオスカーで最初から取り決めを作っておいたからね。


聖国兵は武装解除の上、戦域を離脱。

聖都には戻らない。

また国境付近も非武装化して兵を引き上げさせる。

以上の作業が完了するまで、私達の軍でルチアの身柄を預かる。


最後の条件だけは、聖堂騎士団の人達が反発した。


「ルチア様にだけ、苦しい思いをさせるわけにはいかぬ。我ら騎士団から代わりに人を出す。これ以上ルチア様だけに不自由な思いをさせるわけにはいかぬ」


と。

しかし、ルチアが強硬に主張した


「なりません。教皇の娘である私以上に、人質として相応しい人間はいないのですと」


絶対に戻らんぞ、という強い意思を私はルチアから感じた。

帝国軍の方がご飯も美味しくて安全だし。

そんなルチアの副音声が聞こえてくるような強情さであったよ。


オスカーも私も何も口を挟まなかったけれど、ルチアの必死の主張は受け入れられて、彼女は晴れて、人質の身になった。

ルチアは悲壮感をたっぷりに、満足の吐息を吐き出していた。


ところでだ。

私は、彼等と話していて気になった事があった。


随分、すんなり全面降伏が受け入れられたな、と不思議に思った私が、騎士団長に質問したところ、彼はこう言ったのだ。


「どのみち、我らは戦えませんでした。兵は、飢えております。まともな戦いにはならなかったはずです」


騎士団長は自嘲気味に聖国軍の惨状を吐露してくれた。


その威厳あるナイスミドルの消沈ぶりに、腹ぺこのつらさを知る私の心が痛んだのだ。


腹が減るとね。

なんとも悲しくて、寂しい気持ちになるのだよ。


十年前、リチャードが王だった時代、私達も同じように苦しんでいた。

下っ端の兵士達は、さらに下っ端の国民と一緒で腹を空かせていた。

それで、私は、百姓と足軽を糾合して革命を起こしたのである。


彼等は革命前夜の私たちの姿であった。


「オスカー。確認させてください。我が軍の糧秣にはどの程度の余剰がありますか?」


オスカーは黙って手で顎を撫でた。


「全軍が行動する分には、数週間程度の予備があります。詳しくはこの場では申し上げられませんが、余力はあります」


聖国の人も居るので具体的な数字は話せない。

でも、ちょっと離れた場所に物資集積所を設置した事を私は知ってるよ。

私も馬車で、硬くて不味くて栄養満点な軍用レーションを運んだからね。


「一日分で構いません。聖国の兵にも食糧の供出をお願いしたいのです」


オスカーの顔がちょっと歪む。

笑いそうになったのを堪えた顔だ。


エリザはまた甘い事を。


そんな声が聞こえてきそうである。

でも、彼も反対はしなかった。


後でまた私は虐められそうだけど。

借金を体で返せって。


「可能です。後方参謀と調整しましょう」


「手間をかけます。お願いしますね」


「……よろしいのですか、陛下?」


私の言葉に、聖国の将帥だけでなく、ルチアも驚きの表情を浮かべた。

そこまでしてもらえるなんて、って顔だ。


「ええ、ですが無償ではありません。ある種の保険ですわ」


私も優しさから提案したわけでは無い。


ぶっちゃけると治安維持が目的だ。

人間は飢え死にするぐらいなら、強盗に転職する。


まして聖国兵は兵士だった。

殺し合いに来た人間だ。

軍の統制が潰えて、兵士が脱走兵になり、そのまま順調に野生化してしまうと、最終的には野盗にクラスチェンジしてしまう。

こうなると王国の辺境もやばいのだ。


そうならないように、貧乏人には、死なない程度に食わせておくほうがいい。

貧乏に追い詰められて、反乱起こした女の経験則である。


説得力があるだろう。


オスカーが実務面での話しを続けていた。


「配給についての具体的な手続きはこちらで進めましょう。聖国の諸卿にうかがいたい。そちらはどの程度の貴官、待てる? すぐに準備に取りかからせるが、場合に寄っては日を跨ぐかもしれん」


「かたじけない……。一晩程度であれば、兵はこちらで抑えておきます。皆文句はいわぬでしょう」


それから、向こうの騎士さん達はそろって私に頭を下げた。


「陛下のご厚情、感謝に堪えません。この恩は一生かけて返します。剣と誇りにかけて我らは約定を守りましょう」


「その言葉、たしかに受け取りました。ありがとう」


まぁ、ぶっちゃけ、聖国の人の剣と誓いはそんなには信用できないな、と私は思った。

残念ながら、私は聖女にはなれなさそうである。


捕虜の処遇についてもまとまったので、会談は終了となった。


聖国の人達には、賞味期限が切れている黒パンが支給されることになる。

武装解除で身軽になった聖国兵は、槍と鎧と盾を捨て、かわりにすっぱい黒パンと水の配給を受けてから、北部の街へと向かったのだ。


引率は聖堂騎士団がしてくれるらしい。


私たちは彼等をお見送りし、こうして戦後処理も完了した。


ルチアが、一番清々した顔をしていたのが印象的だった。


そんなに、帰りたくないか。

まあ、帰りたくないよな。

食べる物も残ってないし、帝国軍はいろいろと会敵だもんな。


お便所とか。


彼女もまた、我が身が一番な女の子なのであった。




「お邪魔します。エリザベート陛下」


夕食は山盛りのブルギニョンに、バターたっぷりの白パンだった。

戦勝祝いということらしく豪華だ。

赤ワインの煮込みを戦闘直後に食べられる帝国兵の皆さんはなかなか肝が据わっている。

私?


私は手術直後でもモツ煮込みとか平気で食べられる人間だから余裕だよ。


そんな大満足のお夕食をすませた私達が私お手製の雑草茶をすすっていると、私達の天幕にルチアがやってきた。

その後ろからオスカーも顔を出す。


この二人、仲が悪い割には、よくつるんでるみたいなんだよね。


ルチアは美少女で、オスカーは美男子。

そして彼は私の彼氏だ。


私はちょっと気にすべきだろうか。


「陛下、この男なんとかしてもらえませんか? やたらと絡んでくるんです。魂が忌避感でふるえるんですけど」


いや、浮気は無いな。

でも魂レベルで嫌いって、そうとう酷い台詞だよ。


「黙れ、小娘。さぁ、説明しろ。今日の戦闘、聖国軍の戦意の低さは貴様の差し金だな?」


「そうですよ。大隊想像の通りでしょうに」


やり返しながらルチアが、よっこらせと私の隣に腰を下ろす。

はぁーあ、と大きなため息を吐く姿は、大きな契約を取り終わった給料人のようだ。


顔は満足げである。


彼女のむき出しの白い手には、ペンだこが出来ていた。


「私が手紙で聖堂騎士団の団長を説得しておいたんです。帝国軍とぶつかっても、犬死にするだけだから、できるだけ上手く降伏しろと。オスカーとか言う将軍は、容赦なく皆殺しにしてくるから、絶対に戦うなと。ついでに、ランスロットの首を確実に取れるように取り計らえとも伝えました」


「ならば、なぜそれを俺たちに伝えておかない? 下手をうてば全面衝突だ」


はぁーっと肺の空気を空にする勢いのため息をルチアが吐き出した。


「じゃあ、聞きますけどね。グレイン中将は、私から『聖国軍に戦う意思はありません。だから激しく攻撃しないでください』って言われたとして、その言葉を信じましたか?」


「しないな。するわけがない。だまし討ちを疑うだろう」


「でしょう? 私だって手紙で約束をもらっただけなんです。直接会って話したわけでも無いんだから、保証なんてできるわけないでしょう? 戦いが始まるまでは、ずっとはらはらしてたんです。それに私の手紙、検閲しなかったんですか? ご存じかと思ってました」


「検閲はしたが、貴様が暗号化してたんだろうが!」


「なら、私に聞けばいいじゃないですか! そのぐらい教えてあげますよ!」


「はい、君たちストップ」


不毛な言い争いだ。

やめたまえ。

毛が無いのはうちの宰相の頭だけで十分だ。


「まずルチア。ルチアは手紙だけで今日の衝突を回避させた。それはすごい事よ。戦闘になれば、互いに被害が出たはず。それを手紙だけで抑え込んだルチアは偉い」


「……ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」


うむ。


「で、オスカー。オスカーも事前の説明無しに、状況を読んで動いた。帝国軍の追撃があったら双方の犠牲者は増えてたはず。遺恨も残った。でも、オスカーが空気読んでくれたから良い結果になった。ありがとう」


「造作も無い。俺でなくてもできただろう」


なにげに自慢してくるオスカー。

得意げな顔はもっと褒めろと言っている。

わかったわかった。

それは、二人きりの時にね。


じゃあ、結論。


「つまり二人の連携があって、今回の戦いは犠牲者無しで決着した。しかも和平への道筋が開けた。そういうことでしょ。素晴らしい結果じゃない。二人とも本当にご苦労様。ありがとうね」


「強引なまとめだな」


コレットよ。

終わりよければ全て良しというのだ。


私の言葉に、二人は、嫌そうな、それでいてどこか誇らしそうな顔をした。


「陛下に褒めてもらえるのは嬉しいです。でも、この人との連携とか虫唾が走るんでそれは勘弁して下さい」


「珍しく意見が一致したな。全く同感だ」


最近、この二人は仲が良いんじゃないかと思う。

コレットが苦笑した。


「オスカー様もルチア様も、エリザが居なかったら絶対仲良く話し合いなんてできなさそうだし、その意味じゃ、二人を結びつけたエリザのお手柄でもあるわね」


「良いこと言うわね。もっと褒めて」


私は嬉しかった。


私は今日から、組織の潤滑油として生きよう。


いや、実は今日の私、戦車のアクセル踏み込むぐらいしか仕事してないのだ。

褒められる機会は最大限活かしておきたい。


さぁ、褒めろ!


「まぁ、帝国と聖国が戦争してる理由も、元を正せばエリザだからあんまり偉くは無いんだけど」


えー。


「私がいなかったら、うちの国は滅亡してたんだから、文句言われるのはおかしいと思う」


ルチアが目を逸らした。


「……その辺の事情をほじくり返すと、どこをどう経由してもうちの国が悪いって結論にたどり着くんでもう止めませんか」


「いや、お前の国が悪いのは事実だろう。俺達は良い迷惑だ」


軍隊を私物化して押しかけてオスカーが自分の事を棚に上げて言ったので私は笑った。


一番迷惑被ってるのは、オスカー率いる帝国軍の人たちだろう。

次点で、帝国の戦務の人達。


「それに、オスカーも侵略戦争の常連なんですから、道義とかについてはあまり強く言わないように。強いは正義と言うなら、聖国の侵略戦争も正義になります」


「はい」


私が手を一つ叩く。


「それじゃあ、まとめましょうか。だれかが言いました『本当に高度な連携という物は、狙って作るものではない。戦いの中で自然と生まれるものなのだ』と。私達指導部にも同じ事がいえるでしょう。今回の戦いは大勝利をおさめつつ犠牲者を減らす事ができたのです。次もこの調子で頑張りましょうね」


「……言ってる事はもっともっぽいが、流石に虫が良すぎる気がするな」


オスカーの感想に皆が笑った。


世の中、結果が全てという。

ならば、結果を出せた以上、私達のやり方は間違いでは無かったということだ。


そういうことにしておこうじゃないか!


それから、私達は今日の感想と明日以降の予定について話しをした。

すぐに、話題はそれていき、帝国軍の経戦能力と陸上輸送につかっている魔術具の輸入交渉に移っていった。

効率が良い、陸上輸送の手段は是非とも欲しい。


聖都の攻略についても話題に出た。


聖堂騎士団の人達が仕事をしてくれていたとルチアが語ってくれたのだ。


彼等はありったけの兵を聖都から引き連れてきてくれていた。

故に、今、聖都で籠城する兵は相当に少ないらしい。

もう、五千を割り込んでるとか。


これもいい話である。


「じゃあ、今日はこのぐらいにしてもう寝ましょう。明日は一日後始末をして明後日出立。それでいいんですよね、オスカー」


「ああ。その予定だ。それはそうと、俺もここで寝てっていいか? 今日ぐらい、エリザの隣で眠りたい」


「お前は自分の天幕に帰れ」


「流石にそれはどうかと思いますわ」


オスカーがコレットとアリスに突っ込まれて、追い出されていた。

天幕の外まで見送りをして、誰も見ていないようだったのでちゅーして私は天幕にもどった。


ルチアは私の天幕で寝ていくそうだ。

ようやく私と同じ屋根の下で眠れるとルチアは喜んでいた。


えらい懐かれてるな。


和気藹々としゃべりながら毛布を被る。

なんというか綺麗に物事が片付いたので、とても良い気分であった。


しかしここで、私はふと引っかかりを覚えた。

なんか忘れてる気がする。


「ねぇ、みんな。私、なにか大事な事を失念しているような気がするの。なにか思い当たる事はない?」


私の質問に王国人と帝国人と聖国人の三人娘は顔を見合わせた。


「特に思い当たる節はありません。次の戦いに意識が移ってるだけじゃありませんか? 次は攻城戦ですし、楽じゃ無いと思いますよ。私も心配です」


「そうかな? そうかも」


結局私は、この時思い出す事が出来なかったのだ。


ランスロットの首を、確保できていないという事に。


戦後処理がすっかりうまくいき、たいそう満足していた私達は、その二日後、完調を確認したうえで聖都へ向けて進軍を開始する。

三ヶ月後、王国に帰国したタイミングで、私はようやく彼の首のことを思い出したのだ。

だが、時既に遅し。

奴の骸は行方不明になっていた。


以来、アーレンディッセリの野には、全裸で煎餅になった美男子の幽霊が出ると。王国では言い伝えられるようになったとさ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とてもテンポ良く、楽しく読めています。 [気になる点] 誤字が多いたころ。 他のところでもかなり気にはなったのですが、特に第32部分は多かったのて、以下にまとめて記載します。 夜戦仕様の…
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