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新兵器とわたし

執務室、私はオスカーとユリウスを招いて、聖国との戦争について話し合いの機会を持っていた。


議題は今後、予定されている侵攻作戦の話だ。


現在、私達は聖国の皇位について継承権を持つルチアの身柄を押さえている。

教皇とその取り巻きを取り除ければ、当座の戦争については和平に持ち込める算段だ。

ただ、戦後処理や和平の難しさを考えると、単純に教皇とその周辺を取り除ければいいというわけにもいかないようで、もう一度は、大規模な戦闘が必要になるだろうという話をもらっていた。


もう一度こてんぱんにされないと、主戦派が沈黙しないんだってさ。


面倒だ。


「聖国内で決戦し、その勝利をもって戦いを終わらせる。それからルチアと彼女を後見する穏健派を擁立し、以後の統治を委ねる」


オスカーの言葉に私も頷く。


「ルチアの目論見とも合致しています。彼女はそのために王国に来たのですから、精一杯頑張ってくれるでしょう」


「ルチアだけでは無いんだろう? 優しい王国の女王陛下もいろいろと準備をしているようだ。援助用の医療品についても輸送の手配を整えておく」


「お願いします。費用は……つけておいて下さいませ」


ルチアに求められた医療面での援助も、目処が付いていた。

補給線も問題なし。

あとはオスカーの号令を待つばかりの状態である。


単純な戦闘に関して言えば、「問題無い、百回やったら百回勝つ」とオスカーからは太鼓判をもらっている。


まぁ、前の戦いでもそうだったしね。

装備と戦術のせいで、正面からの会戦ではどうひっくり返っても聖国軍は勝てないのだそうだ。

戦争は戦う前から決着がついてるって事なのだろう。


ただ、一つだけ懸念材料があるそうだ。

それが女王の扱いだった。


「戦闘自体は問題無く勝てるだろう。だが一つだけ、エリザの扱いに困っている」


「私ですか?」


「ああ、確実に狙われるのだが、エリザは自衛が難しいだろう。それでどうしようかと思ってな……」


ああ、なるほど。

前の襲撃みたいなのを、オスカー無しで対処するのはたしかにとても難しい。


それは悩みどころである。


「作戦中、帝国軍の主力は王都を留守にする。一方で、王都への人の出入りはまだまだ増加中だ」


「そうですね。これ自体は良いことだとお思うのですけど」


今、王都の城下町は大賑わいだ。


どうやら先日のパーティーの様子が、「帝国軍、辺境のかわいそうな女王様を救って、大感謝される!」とかいう感じで帝国の新聞に大々的に報道されたらしく、いろんな人が王国に来ている。

ろくに宿泊施設もないので、仮設の宿泊所を建てたり、身分がある人は王城の部屋を開放したりして対応している。

警備はそのぶん、緩い。


復興作業とのトレードオフだから仕方ないのだ。


「こういう状態になると、当然よくわからん輩が入り込む危険性も高くなる。だがそれを嫌って人の出入りを禁じるのは悪手だ」


「同意します。戦争は終わってからの方が大変なんですから、そのための準備を止めたくありません。でもそうなると、たしかに私の身の安全は不安になりますね……」


「ああ、一応、二つ道はある」


「二つ」


一つは私も一緒に前線に出る道。

前線は危ないが、やる気と実力に恵まれたボディーガードのオスカーが近くにいてくれる。

軍に囲まれている以上、おかしな人間に出入りされる可能性も少ない。

「負けて敗走!」みたいな状況にならなければ安全とのこと。


もう一つはお城で引きこもりになる道。

こちらを選ぶと、直接の戦闘にさらされることはない。

引きこもっていれば偶発的な事故に巻き込まれる可能性は減らせるが、計画的な襲撃が全部防ぎきれるかと言われると難しいそうである。


どっちも不安があるな。

私には甲乙付けがたい。


「オスカーはどう思います? 正直、私には前線に出ることの危険性がわからないのです。矢の雨に晒されたら確実に死ぬぐらいには弱いんですけど……」


「そうだな。前線に貴女を出す場合には、攻撃を通さない準備がいるだろうと考えている。そのための案もあるにはある。


ここで、一拍おいてからオスカーは私の方に視線をやった。

何かしら? 言いたいことがあるなら聞きますよ?


私の様子に、オスカーは納得したような顔をした。


「……そうだな。どうしようか迷っていたが、エリザ自身で試してもらうのが一番確実だろう。ユリウス、手配をたのめるか?」


「……了解です。直ちに」


ほほう。


完全無欠のお荷物である私を安全に前線に輸送する方法があるらしい。

なんとなく、予想はしていたけれど、オスカーは私を伴いたいんだろうなぁ、という雰囲気は感じた。




その日の午後、準備が出来た。

そして、私が呼び出されたのは、いつか来た駐屯地の兵器置き場であった。


なぜか今日はアリスも随員としてくるように言われているので、彼女も一緒だ。


「私に何の用でしょうか?」


「わからないわ」


案内の兵士さんに連れられて、ずんずんと兵器置き場を進んでいく。

そうして私達が通されたのはいつか見た攻城兵器の前であった。


破城槌。


確か名前はメタセコイアちゃん。どすこいと一人で城門に突撃するすごい奴。

私の心の友である。

友情は私からメタセコイアちゃんへの一方通行。

単に私にちょっと似ているなってだけ。


私がご同類の金属ボディにぺたぺた自分の指紋を付けていると、私を呼びつけた人たちが大分遅れてやってきた。


遅いぞ、君たち。

私は一応遺憾の意を示した。大して効果はないだろうけど膨れてみせる。


私の様子に、これっぽっちも悪びれず、ユリウスは口だけで謝罪した。


「お待たせして申し訳ありません、陛下。少し準備に手間取りまして」


なぜだろうか。ユリウスから冷ややかな空気を感じる。

普段は捉えどころのない顔をしている彼だが、今日はご機嫌がとげとげしている感じだ。

そこそこ付き合いがある私は、彼の気持ちがわかるようになってきた。

でもどうして不機嫌なのかしら?


とりあえず、遅刻されたことについて不満を言うのはやめとこうか。

私は気にしないふりで質問した。


「わかりました。では早速なのですけど、今日私がする仕事について教えて下さいませんか? とりあえずで呼び出されたのですけど、さっぱり」


「ええ、今から説明いたしましょう。まずはこちらの魔術具に魔力を込めて下さい。今日動かすそれの動力源になるものです」


「はい、わかりましたわ。これ全部に魔力を込めれば良いんですね?」


私の目の前に置かれたのは、大根みたいなサイズの魔術具を沢山連結させまくった巨大な代物であった。

魔道車のバッテリーだっけ?

それが百ぐらい数珠つなぎにされている。すごく重くて大きい。


しかし、これ、何に使うのかしら。


案の定というべきか、私の仕事は燃料代わりであったのだけど、でも本当はその先、どういう魔術具を動かすかを聞きたかったのよねぇ。

これじゃさっぱりわからない。

ユリウスが教えてくれなさそうであるし、後でオスカーにでも聞いてみようか。


ともかくもお仕事をしようと、私は取っ手っぽい部分に手を当てて魔力を詰めた。


私の魔法は行使にそう時間がかかる代物じゃない。

うーん、と頑張ること数分、すぐに作業は終わってしまった。

実にイージーな仕事である。そして私は暇になった。


ユリウスは私をほったらかしにして、遅れてやってきた配下とおぼしき人たちにあれこれ指示を飛ばしている。

アリスも彼に連れられて行ってしまった。

ひとりぼっちにされた私は、きょろきょろと周囲を見回した。


護衛の大柄なお兄さんと目が合ったので、私が曖昧に微笑むと、お兄さんは頬を赤らめて俯いた。可愛い。

そこに私の彼氏が登場。浮気の現場を押さえられた。


「エリザ、なにをしている?」


「いいえ、なにも? それより私さっきから放置されてるのですけど、どういうことなんでしょうか?」


「あぁ、ちょっとユリウスの機嫌を損ねてしまってな。配慮が足りないのは謝る。半分は俺のせいだ」


「あ、やっぱりですか。私も今日は彼、ちょっとぴりぴりしてるなぁって思ってたんです。なにかあったんですか?」


オスカーは少し決まり悪そうな顔で鼻の頭をかいた。


「聖国の襲撃があった晩のことを覚えているか?」


「……はい、もちろんです」


「あの時、現場の片付けや、その他もろもろの面倒ごとを全て奴に押しつけてしまってな……。それでユリウスはへそを曲げてしまった。俺たちが、その、いろいろしている間、あちこち探し回ったりもしてくれたらしい」


「あちゃー……。それは仕方ありませんね。申し訳ないことをしてしまいました」


あの日の晩、私達にはとても素敵な夜を過ごした。

でも、その間ユリウスは突然、司令官と女王が失踪したと肝を潰していたらしい。

一応書き置きは残したのだけれど、「安否確認ぐらいはさせてくれ、それが常識という物だろうが!」と、彼はたいそうなおかんむりなのだそう。


でもそれ、私のせいじゃないよね!

オスカーが突然襲ってきたせいだよね!?


と思ったけれど、私は恥ずかしいので沈黙を守ることにした。

私小心者だから。


「了解しました。私もユリウスを刺激しないように気をつけます。一応、共犯ですし」


「すまん」


「それで話を戻しますけど、この魔術具は何に使うんですか? なにかの動力源っぽいですけど、相当な大きさですし用途が気になります」


「ああ、もちろんこれに使う」


頷いたオスカーは、すぐ隣のそれを指し示した。


「動かすのはこの破城槌メタセコイアだ。自走モードを改良して使おうと考えている。魔力があるなら攻城戦ではなく野戦でも使えるんじゃないかと思ってな。戦象のように使いたい」





戦象。


ぱおーんと鳴く鼻が長くて大きい動物、象。

その象を軍事的に使役出来るようにしたものを指して戦象という。


戦象はその巨体故に頑丈で、巨体からは想像もできないほど速く走ることができる。

彼等は戦場でとんでもない突破力を誇るそうで、歩兵の隊列など容易く蹴散らしてしまう強力な存在なのだ。


以上、オスカー談。

私は見たことがないので全部伝聞である。


「分厚い装甲にある程度の移動力。魔力で動く戦車みたいな扱いだ」


「戦車! なんだか強そうですね」


「ああ、こいつは中身を改修済みなのだ。大型の装甲馬車を解体して駆体を構築し、メタセコイアの駆動系につなげて装甲を施した。衝突試験でも十分な性能をクリアしている優れものだ」


「なんだか本当に強そうですね」


アホみたいな感想が出た。

もうちょっと気の利いた台詞を言えない物かと思うけど、知識が無いのでなんも言えないのだ。

許して欲しい。


「まぁ百聞は一見にしかずという。まずは、中を見てもらいたい」


なぜかちょっとうきうきしてるオスカー。

彼は私を先導しながら車の後に回りこむと、背面に備え付けられた大きな扉をバタンと開け放った。


「なかなかの物ができたと考えている。どうだ、エリザ?」


「こ、これは……!」


車内の光景に私は思わず息をのんだ。


中は、思ったよりも広々としていた。

広さは小さな仮眠室ぐらいある。高さは私がぎりぎり立って歩けるぐらい。


座席が二つ。

大きな箱のような見た目のこの戦車ちゃん(仮称)、前面の物見窓と天窓以外は完全に密閉された構造になっている。

照明が沢山付けられていて、中は明るい。


ていうか、これさぁ……。


「なんだかショールームみたいですね」


なんとこの戦車の中には、お城のお部屋みたいな内装が施されていた。


床にはカーペットが敷かれ、可愛いお花柄の壁紙まで張られている。

ソファやら物入れやらも壁にがっちり固定されたうえで配置されていた。

色調は白を基調として、上品なワインレッドが差し色に使われている。

これだけ見れば小さな客間のようである。


暮らせそう。というか半年前の私のお部屋より快適だろうな確実に。

まぁ、外観は破城槌なんだけどさ。


お前、攻城兵器と違うんかい! 私が内心で突っ込みを押さえこんでいると、オスカーが自慢げに胸を張った。


「前線でもエリザに安全を確保したい。そして快適に過ごしてもらいたい。その時、候補に挙がったのがこのメタセコイアだ。とにかく飛び道具に強い。装甲馬車と同じ要領で作ってから内装をいれたんだが、思った以上に上手く動いたので指揮車として使えないかと考えた。女王専用の座乗車両として整備してみたんだがどうだろうか? エリザ専用車だ」


いや、ぶっちゃけ普通の馬車が良いです。

という感想はおいておいて。


「とりあえず中を見せてくださいませ」


「うむ。外観はただの鉄の箱だが、じっくり見てもらえればこいつの良さがわかってもらえるはずだ」


いや、外観も大事だよ、オスカー。

というかなんでこんなもの作っちゃったんですか。


足を中に踏み入れると、ふかふかした感触が足裏から伝わってきた。

床に敷かれたカーペットは、なかなか上等なものらしい。

王城で煎餅みたいになってたお古とはちがう。

家具の設えもなかなかだ。

後ろの扉を閉めたとしても車内は結構明るいし、どこからともなく風の流れを感じるので、通風もできるようになってるみたいだ。


オスカーが上の天窓(キューポラというらしい)を開くと、明るい日差しが注ぎ込んだ。

これだけ見ると確かに、お貴族様が使う豪華な馬車みたい。

十人ぐらいは余裕で乗れそうだ。


医療用のベッドとかも入れられないかな……?


私は感想を胸にしまって口を開く


「戦車、なんですか。快適でなんだか不思議……。でもたしかにすごく居心地良さそうです。通風までしっかりしてるなんて」


「ああ、手間をかけたからな」


オスカーは満足げに首肯した。




「お話しは済みましたか?」


二人で車内の内装を品評していると、後ろの扉を開けてアリスがやってきた。

そういえば、彼女も呼ばれていたっけ。


「エリザ、この車の操縦方法は魔導車とほぼ同じだ。状況にもよるが、エリザが自ら車を動かすような事態があるかもしれない。それで、彼女から操縦方法を学んでもらおうと考えている。アリスは魔道車の運転免許を持っている」


「なるほど、それでアリスに来てもらったわけですね」


「ああ、そういうことだ。二人とも来てくれ。こっちが操縦席だ」


「はい」


「了解です」


オスカーは私達を前方の座席のほうへと案内した。

アリスは助手席、そして私は操縦席なる場所へと据わらされる。


ちょっとドキドキする。


「それで私はどうすればいいんでしょう?」


「早速動かしてみましょう?」


「えっ、いきなり?」


危なくない?


「ええ、いきなりです。なにしろこの子、アクセルとブレーキしかないみたいなので、実質前進と停止しかできません。動かすのも止めるのも簡単なのですぐにおぼえられますよ」


そ、そうなのか。

アリスの教官ぶりを認めたオスカーは、「俺は外で準備してくる」と言い置いて車から出て行った。


「では、今から操作を説明しますね。まずはこのレバーから、これはサイドブレーキにあたるみたいです……」


「ふむふむ……」


椅子に座った私は、アリスから懇切丁寧な指導を受けた。


レバーが停車時に使うブレーキ。

その他に二つフットペダルが付いていて、片っぽで加速。もう片っぽで停止する。

以上、おしまい。本当に簡単だ。


これならすぐに動かせそう!


私が教えられた動作を脳内で反復練習していると、車の外から声がした。

見れば、いつの間にやら外に出たオスカーが、車外で手を振っている。


「エリザ! こっちを見てくれ」


車体前面に設けられた細い窓から外を見る。

なんとそこには兵士を模した木製の看板が何列も槍を構えて並んでいた。

兵士のシルエットから突き出すように本物の鉄の槍が並ぶ。


え、何これ。


嫌な予感がし始めたわよ。

そういえば、オスカーはこの戦車を象の代わりっていっていたよねぇ……。


「それじゃ、エリザ。こっちに突撃をたのみたい」


「やっぱりかよ!」


良い笑顔しやがって!


なんとオスカー、私に巨大な無人馬車を操縦させて、人を轢く訓練をさせたいらしい。

なんて酷い男だ!


私の気持ちなどどこ吹く風で、オスカーは兵士の看板の後ろに立つとその肩をぽんぽんと叩いてみせた。


「ペダルを踏み込むだけだ。それで、エリザも敵を倒すことができるようになる。自衛できるようになりたいとエリザは言っていたからな。これで敵を倒せるようになるだろう」


いやいや、そういう力は要らないよ!

私は頼りになる妹分に縋る。ちょっと、この状況は認めがたい。


「アリス……。私、危ないことはしたくないんだけど。アリスからもオスカーに言ってやってくれないかな?」


しかし、アリス、首を振る。


「いいえ、お姉様。前線に出るのであれば出来ることを増やしておくべきです。それに女は度胸とも申しますもの。練習だけでもしてみましょう。上手くいかなかったときにやめればいいのですから」


私は彼等二人と言い合った。


こんなことするぐらいなら馬車の中に籠もってますと。

だから危ないことはしたくない、と。


でも最終的には訓練だから、やるだけやって感覚だけでもつかんでおけと納得させられた。

それでとりあえず、私の技術を見てから前線に出すかどうか決めるんだって。


若干不本意で、でもちょっとわくわくしてくる私。


私も大概現金である。


「じゃあ右足でペダルを踏んで下さい。お姉様」


私は指示された通り、戦車のアクセルを踏み込んだ。

たちまち轟音が鳴り響き、がたがた車体を揺らしながら戦車ちゃんが動き出す。


お、お、すごい、すごいぞ!

怖いけど、面白い。

ほんとにペダル踏んだだけで動くんだな。


私に駆られた彼女(?)は、ゆっくりと加速しながら前進を開始した。

走り始めると、意外と揺れは小さい。

ガタガタは言うけど、今、戦車が走っている場所が舗装された道の上で無い事を考えれば十分許容範囲だ。

サスペンションにすごい拘ったらしい。


軍用車でサスペンションに拘るってどうなんだろう……。

まぁ私はありがたいのだけど。


戦車ちゃんは、私の操縦通りごろごろと突き進み、そのまま人形の隊列に突っ込んで難なくそれを踏み潰した。


乗り上げるような衝撃の後、足下付近から、メリメリばりばりと音がする。


少しでこぼこしたけれど、戦車ちゃんは障害物などものともせず、ずんどこずんどこ突き進み、間もなく槍の隊列を突破。

ほとんど何の障害も感じなかった。


「すごい突破力ね!」


「ええ。これなら陛下の体をお任せしても、大丈夫そうですわね」


「アリス、それで停止はどうすればいい? 残ったペダルを踏んだ方がいいのかしら?」


「いえ、手と足を操縦関係のパーツから離して下さいませ。それで子の子は止まります。最初はそちらのほうが安全でしょう」


「離せば良いのね! とう!」


私が手を離し足をあげると、この戦車は、がきょん! と大きな音をたてて停止した。

停車したときはガクンと車体が揺れたので、私の頭もかくんとなった。


アリスは予期していたらしく、にこにこ笑顔のままふわっと体を揺らしてみせた。

慣れてるんだろう。


「これで一通りの動かせるようになりました。……ふふふ、簡単だったでしょう?」


「そうね。操縦は、簡単だったわね。操縦は」


問題はただ走らされるだけじゃ無くて、人(多分敵国人だけど……)を轢く訓練をさせられたことなんだ……。


私の隣に座ったアリスは涼しい顔で笑っている。

どうやら彼女は、この車乗しての肉弾攻撃をさほど怖いとは思っていないようで「戦場でのことなれば致し方ありませんわ」と、なんでもないことのように口走った。


オスカーはオスカーなので、普通に楽しそうにしている。


「それでは、繰り返し練習を始めましょう。何かを轢いてもびっくりしないようになる訓練です。オスカーさんの言葉によると、いろいろ轢く予定があるみたいなので」


「いろいろって、何轢かせる気なの? できれば人間は轢くような訓練は、避けたいのだけど……」


「戦争で、だれも傷つけずに勝野は無理だと思います。自分が殺すか、だれかに殺させるかの違いしかありません。エリザお姉様、覚悟を決めて下さいませ。私はお姉様を信じてます」


アリスはとっても良い笑顔であった。


遠い目になる私。

私の頭上でキューポラががちゃりと開く。

いつの間にか車の上に乗っていたらしいオスカーが顔を出した。


「どうだ、エリザはいけそうか?」


私の代わりにアリスが堪えた。


「ええ、ばっちりです。外はどうです? ちゃんと出来てますか?」


「ああ、試験は極めて良好だ。じゃあ今から車の調整も兼ねて本格的な訓練を始めようか」


オスカーはいい笑顔であった。




そして、その日から私達の実験と訓練の日々がはじまった。

戦車ちゃんの悪路走破性とか突破出来る敵陣の厚さとかを検証する。

その傍らで、私は敵陣に突撃した戦車から急いで撤収する動きを練習させられた。

唯一危ないのが、脱出時の取り扱いなので、その危険だけ排除するんだって。


なにしろこの戦車、方向転換ができない。

敵陣に突入して身動き取れなくなったり、断層に捕まったりしそうなときは、後ろの扉を開けて大急ぎで脱出する必要がある。

エリザは、とにかく扉を開けて逃げる訓練をしろと素敵な沙汰を頂いた。

車の後ろには護衛の騎兵を随伴させてくれるので身の守りは大丈夫というはなしである。


私は来る日も来る日も魔力を充填し、戦車を走らせ、何かにぶつかり、そして後ろの扉を開けて脱出するムーブを繰り返した。

脱出訓練については、同乗した教官役のオスカーや、アリスや、コレットにものすごい勢いでお尻を叩かれて散々な目に遭わされた。

なにせ奴ら全員「遅れたら死ぬぞ!」と私のケツをひっぱたくのだ。


叩き心地がいいらしい。すぱんすぱんと楽しげに叩かれる。


「ていうか、私を敵陣に突っ込ませるのをやめればいいと思うんだけど……」


「あくまで万が一の訓練よ。そのためにわざわざ、戦車の方向転換を兵隊さん頼んでるんだから、エリザは文句言わずに頑張りなさい」


「だれも頼んでないじゃんよ……」


私の努力は実を結ぶ。

エリザベートは最終的に操縦席からロケットスタートを決める技術を身につけた。

同時に、何を踏んづけても動じない鉄の精神と鈍感さを体得したのである。


心の中を空にしてアクセル踏めば、前に何があろうとも道を開ける。


まぁ、あれだ。

轢かれるのがいやならば、敵兵のほうが避けてくれると思うんだよね


一応、籠城戦の最中に、何人かやっつけたことがあるし、医者でもあるから命のやりとりには耐性がある。

戦いで心を病んだりもしないだろう。



こうして綿密かつ若干不毛な訓練と調整を経て、新兵器の試作一号機が誕生した。


その名もメタセコイアELZ1。


女王エリザベートを操縦者とする戦場武装だ。

巨大なボディと操縦者の思い切りの良さを武器にした、王国と帝国の共同製作による決戦兵器の誕生である。

できることは、突撃のみ。実に潔い戦い方だ。


あと、車内はたしかに快適で長時間いても辛いことはない。

あまり慰めにはなってない。


結局、この戦車、なかなかの性能であったようだ。


私の専用車の他に、内装を簡略化したものが二両生産され早速実戦投入が図られることになったようだ。


そして私は、なし崩し的に立派な戦車兵へと仕立て上げられ、万が一最前線へ投入されても生き残れるよう訓練をされた。

エリザは立派な兵隊へと素敵な進化を遂げたのである。


試験の結果は上々らしい。

オスカーはとても嬉しそうに笑っていた。


でも、私はちょっと言いたいことがあったので不満を口にする代わりに彼の横隔膜を強打した。

案の定、手の方が痛くって、オスカーには笑われた。ちくせう。

誤字多過ぎでした。すみません……

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