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魔法とわたし

オスカーが帰還してから三日目のこと。

私は彼と一緒にユリウスに呼び出された。


緊急らしい。


随員も禁止と言われたので、私は不平不満で顔の容積を倍増させたコレットを置き去りにして、ユリウスが勝手に占領した第四会議室まで赴いた。


「でも、緊急って何なんでしょうか? 私心当たりがないんですけど」


「わからん。俺も聞かされていない」


隣にはオスカーがいる。

彼はお部屋まで私を迎えに来てくれたのだ。

護衛らしい。

最近、外に出るときには、ずっとオスカーと一緒である。

素晴らしい。


どうも私の周辺警備が厳しい。

でも実は、私、この状況、結構楽しんでるんだ。二人でいられる機会が多いのは嬉しい。


私の言葉にオスカーも同意してくれた。

女王と一軍の将がこれでいいのかとはちょっと思うけどね。許して。


「オスカーだ。エリザを連れてきた」


「エリザベートです。入ります」


「ようこそ、陛下。それと閣下もありがとうございます。今日は陛下の御身についてご相談があるのです」


「私のこと、ですか?」」


ユリウスは無表情のまま頷くと、机の上を指し示した。


頑丈な樫材の机の上に金属製の瓶のようなものが三つ並んでいた。


一つは私の太ももぐらいの大きさがある。要は大根サイズだ。

残り二つはこぶし大。野菜で言うならじゃがいもサイズ。


「早速ですが、この三つの魔術具に魔力をこめていただきたいのです。いずれも魔力を蓄えるだけのものです。少し辛くなるまでで構いません。頼めますか?」


「はい。お安い御用です」


前にもちょっとだけ言ったけれど、私の魔法は供給という。

魔術具に魔力を込めるだけの大変地味な魔法である。

しかも私はみそっかすときたもんだ。


その魔法を使って見せろと言うことだろう。


でも、それ見てどうする気なんだろう?

ユリウスさんは、王国で作られている薬に興味があるようでいろいろと調べていたからその流れかな?

薬製造時の燃料扱いである私の事も気になったのかもしれない。


指し示された魔術具は三つ。


支持されたとおりの順番に魔力を込めていく。


一番最初に指定された大きな魔術具はまぁまぁ楽だ。すぐに一杯に出来た。

二番目に指定された小さい奴も同じぐらい。

最後のこれまた小さい奴は容量が多いらしく、しんどくなってしまったので私は途中で作業をやめた。


小さいくせに生意気だ。

でもありがちだ。

小さいけど高性能って奴だろう。それをユリウスは見せたかったのかな?


三つ目がどうにもならずに私が手を離してギブアップを告げると、ユリウスが口を開いた。


「それでどれが一番楽で、どれが大変でしたか?」


「最初の一番大きいものが一番楽でした。二番目もおなじぐらい。最後の小さいのがとても大変でした。多分半分も入ってないと思います」


「なるほど。予想通りですな」


ユリウスさんが頷く。

私の隣でオスカーが訝しげな雰囲気を出した。


「あのでかいのは輸送用魔道車の動力源だろう? あれが一番楽だったのか? 相応の魔力があっても難しいはずだが」


「え?」


「流石閣下、お気づきですか。その通り、一番最初のが一番容量を食います」


「おかしいだろう。エリザは一番楽だと言っていた。見せろ、確認する」


オスカーさんは無造作に魔術具を取ると、なにやら調べ始めた。

でも不審な点は見つからなかったらしい。

彼が魔術具を机の上に戻すと、ゴトリと重い音がした。


「説明しろ、ユリウス。エリザの魔法が普通でないことだけはわかるが……」


「左様。陛下の魔法は『供給』ではなく『増幅』です。しかも極めつけに強力な」


「増幅」


とりあえず反芻してみたけれど、よくわからなかった。


増幅、聞いたことも無い魔法だ。

名前はすごそう。

でも、私の魔法と聞くと途端に弱そうに聞こえてくる。不思議だ。


この魔法の事をオスカーは知ってるのだろうか。

私の隣に佇む彼は、「よくわからん」という顔で私のことを眺めていた。

でも視線が若干低い。

その高さに私の顔はありませんよ、オスカー。


「聞いたことがない。何だその増幅とかいう魔法は?」


「ええ、極めて珍しい魔法ですからな。ほとんどの所持者が魔法不能と勘違いするような代物ですからな。実例で説明する方が早いでしょう」


それからユリウスさんは一番大きな魔術具を叩いた。


「最初に陛下に魔力を込めて頂いたこの魔術具の容量を数値化するなら、おおよそ1000ミリメアリ程度になります。これの残量をおよそ500ほどに減らしておきました。これを陛下は一瞬で充填した」


ユリウスの視線が私とオスカーの間を行き来する。


「残る二つは照明の魔術具に使われているものです。容量はおよそ5ミリメアリとかそこらでしょう。片方は半分程度。もう片方はほぼ空にしておきました。残りが半分程度のそれをやはり陛下はすぐに満タンにした。一方で中身が空だったほうは、ほとんどゼロのままです。これがどういうことかおわかりか?」


「私の魔法は足し算じゃなくて、かけ算って事でしょうか?」


要は私の魔法は、元の魔力が大きいとそれを倍々に増やせるのだろう。

逆に中身が空だと元が少ないので増やしようがない。

これならつじつまが合うもんね。

なるほど、珍しい魔法である。


ちょっと感心した私の隣で、オスカーが呻きをあげた。

見れば、眉間に皺を寄せて虚空をにらみ付けている。


「待て。増やせる魔力には上限があるはずだ。でなければとんでもないことになる」


「仰るとおり。ですが陛下が扱える魔力の上限が百万ミリメアリ以上であることは確実なのです。この国で使われている製薬の魔術具の容量が同程度でありました。馬鹿げた消費魔力を陛下お一人で支えているのです」




正直に言おう。

私には「だから何?」という思いが強かった。


いや、魔力を増やせるのはわかった。

でもだから、どうよって私は思うのだ。

要するに単なるエネルギー源じゃん?

道具が無けりゃ意味が無い。


私にとっては、ユリウスから聞かされたお薬作りの魔術具についての話の方が衝撃だった。

なんとお祖父さま謹製の魔術具は帝国の人たちにとって百年以上も前に型落ちになった旧式品だったのだ。

こんなもの博物館にも残っていません。非効率すぎますってダメ出しされた。


私はショックだった。

今まで、あの魔術具、国宝ぐらいに思ってたのに……。

急に色褪せて見えてしまう。


なんでも性能の低さを大量に消費魔力で補ってるんだってさ。


「……あの、私の魔法がちょっと特殊なのはわかりました。ぐっと、魔法をふやせるんですよね? で、だからなんなんですか?」


魔力は便利な力だけれど、突き詰めれば薪みたいなものだ。

そんな認識だった私だけど、これが大失敗だった。


二人が私を睨んだ。


「わからないのかエリザベート!?」


「陛下は、魔力の貴重さをよくご存じでない!?」


ご存じでありません。


「よく、わかりません」


はぁーっとユリウスは天を仰ぎ、オスカーは額に手をあて頭を振った。


「閣下……。これはちょっとまずいですぞ」


「ああ、わかっている。エリザにも認識してもらわないと困る」




それからすぐ私はオスカーの馬に乗せられて、王都郊外の軍駐屯地まで連行された。

ユリウスさんは護衛の人たちを引き連れて同道している。諜報部の人らしい。


そして私達がたどり着いたのは、駐屯地も外れの兵器置き場。

その中でも、小山みたいな大きさの屋根付き車の前に私は案内された。

見た目は大きな鉄の箱だ。牢獄付きの馬車よりも大きい。

重くて超強そうである。

オスカーさんが進み出た。


「こいつは破城槌だ。型式はメタセコイアVTZ980。こいつを例に、エリザの力を説明しよう」


破城槌。


言わずと知れた攻城用の兵器である。

基本はただの大きな丸太ん棒で、城門や壁をぶん殴って突き崩すという極めて原始的な使い方をされる。

己の質量のみを武器にして、敵に体当たりでぶつかっていく。

実に親近感がわく戦いっぷりで、私は結構好きだ。質量が大きいって辺りにとくにシンパシーを感じる。


今、私が見せられているそれは、特に大きいものであるそうだ。

台車の上に運搬者を守るための屋根がつけられ、外枠に装甲まで施されている。

重量は多分百エリザ近くあるだろう。一応言うと、一エリザって私一人分の重さだ。

あまり正確に調べてはいけない。


「一般的な破城槌は人力で動かす。数十人の兵士で押すのだ。この時、大きな問題があるのだがエリザはわかるか?」


「ええっと、攻撃するときに運び手の人が危険にさらされるってことですか?」


「その通りだ」


破城槌は、質量こそがパワーだ。

だがそんな重量物を運ぶのには、当然何十人もの人間が必要になる。

運搬者はこれにとりついて動かすので盾を構えるわけにはいかない。

ほとんど丸腰で必死になって押し込むのだ。


対する防衛側も死に物狂いで矢や熱湯、油で迎撃する。

当然危ない。死傷者が出る。


「そのための解決策として、この破城槌には自走モードというものが取り付けられている。魔力を動力に自動的に走るのだ。これだと人力は必要ない」


「なるほど。すごいじゃないですか。それなら安全に攻撃出来ますね」


私は頷いたが、オスカーさんは首を横に振った。


「だが致命的な欠陥があった。魔力の消費が大きすぎたのだ。並の魔法使いが一月かけて貯めた魔力を、一度の戦闘で消費する。いや一度の戦闘の間中保てばいいが、だいたい途中で燃料切れを引き起こす」


「それって、だめじゃないですか?」


「ああ、駄目だ。使い物にならん。今まで一度もつかったことがない。とんだ欠陥品だ」


ぼろくそだ。

重量ばっかり大きくて無駄な機能が邪魔になる。

シンパシーだ……。私の仲間がいるぞ。

エリザちゃんも無駄にでかいおっぱいぶらさげて、邪魔だ邪魔だとコレットに虐められていたからね……。


オスカーさんは、その駄目な子メタセコイアちゃんの横っ腹をべしんと平手でひっぱたいた。


「だがエリザがいれば、この駄目な子達を全部まとめて生き返らせることができるのだ」


ここにユリウスさんが言葉を足した。


「本来、魔力は貴重なものです。特に充填の魔法使いは引く手あまた。大きな魔力を持つ彼等は、本国からでてこない。故に前線では必死に魔力をやりくりすることになる。そんな貴重な魔法使い数百人分の働きを陛下一人で賄えるのです」


「私一人でって、さすがにそれは大げさでしょう? 少し荒唐無稽すぎますわ」


「陛下の魔法が異様に融通が利いたのです。魔術具を連結すれば一つとして扱える。まとめて増幅もできるとかいうおおざっぱさで王国の魔術具は動いていました。なら似たような方法でいくらでも魔力を増やせるのです」


いまいち、というかさっぱり実感が沸かなかった。

すごいすごいと言ってくれるが、そう簡単にそんなすごいものが手に入るのだろうか?


私は割と普通に生活していたし、どっちかというと駄目な子扱いされることの方が多かった。


「やっぱり疑わしいですわ。才能はよくわかりませんけど、特別な訓練を受けたわけでもありませんし……」


「多分だが、エリザは子供の頃から魔法を使っていたのだろう?」


「ええ、まぁ、それは」


私は小さい頃、お祖父さまの訓練で私は魔法を沢山使った。

限界まで魔力を振り絞ったことも何度もあるし、単なる充填の魔法と勘違いしていたのですぐに息切れしちゃうのを無理して頑張っていた時期もあったのだ。


どうもこの幼少期に魔力を行使したことが、私の超パワーの原因であるようだった。


散々魔力を振り絞った私。

しかも自分の魔力も増幅して高速回復までしていたらしいからさあ大変。。

私の魔力は結構なスピードで増えていったようである。

完全に推測だけどね。


普段使いの魔術具は容量が小さいし、だいたい空になるまで使うから、私の力を使ってもほとんど役に立たない。

だから今まで発覚しなかったんだろうとのことだ。


多分、祖父だけは、私の力に気付いてたんだろう。

なるほど、確かにあの魔術具には私以外に触らせるなとは言われていたっけなぁ。

今更ながらに思い出したよ。



目の前には小山みたいな破城槌が佇んでいた。

とても大きな兵器だ。多分相当に貴重な代物だろう。

これ一台動かせるというのは確かにすごそうだ。

でも一台こっきりじゃぁ、大した仕事はできないはずだ。


「こんな兵器はそうそうあるもんじゃありませんよね、オスカーさん?」


私が疑問を呈したところ、オスカーは首を振った。


「こういう兵器は、帝国に山ほどある。それこそ倉庫に山盛りな。兵器廠では今も大量にその手の兵器を作っている」


「そうなんですか!?」


「物量の帝国軍だぞ。こんなのほんの一部に決まっているだろう」


「ついでに申し上げるなら。民需転用も簡単です。帝国では魔術具の研究も盛んです。王国のような辺境国とは違う。我らからしてみると陛下は極めて使いやすいそんざいなのです」


そして、ようやく理解した。

私、燃料棒扱いされるポジションなのだ。


二人からも具体的な説明がされた。

ご飯さえ与えておけば、家畜扱いのエリザは無限のエネルギーを提供出来る。

クリーンでエコな永久機関、拉致監禁して身柄を押さえればそれだけですごい未来が拓ける。

道具無しでは無力な魔法使いだ。

鎖でつないでおけば、とても扱いやすい便利な存在なのだ。


この時、私の幸せって部分はもちろん考慮しない。


「誘拐して売り払うだけでも金になる。帝国でも引く手あまただ」


「研究所も欲しがりましょう。なんでしたらご案内しましょうか?」


二人とも目がマジだ。


「……状況はよーく理解しましたわ。だから二人ともその手を離してくださいませ」




二人の話は続いた。

オスカーもユリウスも、攻撃的な作戦を指揮する事が多いらしい。

ゆえに彼等の話は、私をどう守るかというものから、どう使うかという方向へだんだん移っていった。


私を搭載した突撃兵器の有用性を語るオスカー。

人間爆弾と化したエリザベートの強さを推測するユリウス。


私は彼等の話の中で、燃料代わりにされ、大型兵器にくくりつけられ、最終的には大爆発してお空の星となって果てた。


なるほどなー。

こういう人たちが、私みたいな女の子を捕まえて酷い事をするんだろうな。

大変わかりやすい実例を前にして、私は自分の立場の危うさを身にしみて理解したというわけである。


でもこの人達、いざとなったら私の事守ってくれるのかしら?

私の腕をがっしり掴むオスカーさんの手の力が、正直ちょっと怖かったです。

オスカー「最終兵器エリザ」

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