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おくすりとわたし

「エリザ、少し不用心すぎるわ」


休憩を取るべく自室を後にするとコレットが早速ぶーたれた。

そう、おこんないでよ。私だってちょっとは考えてるよ。脊髄反射の部分が大きいことはみとめるけどさ。


「しょうがないじゃん。放っておけないでしょ」


「それで、もしあの子がまずい病気持ってたらどうするの? もしくは弱った振りしてエリザを暗殺とか……、いや、それはないな」


「自分で言ってて否定しないで」


酷いよ。

まぁ、暗殺するほどの重要度がないってことについては同意する。


コレットは私をじっと見た。


「それに、アリスだけじゃない。もう一人の男の方も」


「誰よ?」


「あのユリウスって男よ。あの男、ちょっと前から露骨にエリザのこと調べてるわ。気を付けて。あまり気を許さないように」


うーん……。

気を付けろって言われてもなぁ。

私にはどうしようも無いぞ?


などと話していたら、屈強な兵士さんを連れたユリウスさんにつかまった。


噂をすればとはこのことか。


周囲を兵隊さんに固められる。


おっと、コレット!

臨戦態勢を解きなさい。

戦闘になったら真っ先に私が死にます。

エリザが近所のわんこにも負けるひ弱女だと言うことを忘れないように。


こっちは緊張したのだけれど、どうにも悪い感じはしなかった。

ユリウスさんが進み出る。


「陛下、少しお時間よろしいでしょうか」


「ええ、なにか御用でしょうか、ユリウスさん」


「陛下に至急、うかがわねばならぬ事ができまして」


「至急、ですか」


「はい」


剣呑な様子では無いけれど。なにかしら。


「王国で使用されている薬品類の製造者についてお伺いしたいのです」


「今は、全て私が作っています」


「なるほど、それはどちらで?」


うーん。ぐいぐい来るな。

逃がさんぞって意思をユリウスさんの目から感じる。


「ちなみにこの質問、黙秘した場合はどうなります?」


「こちらで勝手に調べさせてもらうことになります」


正直だ。

それで勝手に家捜しされて、大事な機材を壊されてはたまらない。


「わかりました。案内しますわ。ついてきてくださいませ」


敵愾心も露わにし、子猫を守る親猫みたいに毛を逆立てるコレットを伴って、私は彼を城の奥まった一室へと招待した。




うちの国のお薬は、すべてお祖父様が開発した魔術具で製造されている。

材料は別途集めて加工したり、培地を使って培養するのだけど、材料をせっとしたら製薬の工程自体はほぼ全自動だ。

動力源は私の魔力。

もっとも、私の魔力自体は小さいので多分だれでも動かせると思う。


私が案内すると、ユリウスさんは、引き連れてきた技官とおぼしき人とお話をしつつ、なにやらごそごそと調べ始めた。


機材のあちこち触ったり、可動部を動かしたりしている。

あー、この機材はうちの国の宝なんだよ.

あんまり粗雑には扱わないでおくれ。


辛い内実を白状すると、機材が壊れるともう直せる人がいないのだ。


私の気持ちは届いたのか。

一応、丁寧に調べてくれたユリウスさんは、「おかしい」と呟いてから私の方に振り向いた。


なんでしょう。

ちなみに祖父にしか構造はわからないので、私にこの魔術具の作り方きかれても答えられませんよ、ユリウスさん?


「この機材は、陛下が動かしているということで相違ありませんか?」


「ええ。私、充填の魔法を使えるんです。お見せしましょうか?」


「是非」


ユリウスさんは頷いた。


充填は名前の通り、魔術具なんかに魔力を供給する魔法だ。

まぁ、そこそこメジャーだ。

魔力が多い人はこれだけで食べていける。


ま、私の魔力は小さいから、あくまでおまけみたいなものだ。


魔術具の中央付近、動力源の供給口に手をあててから、魔力を込める。


ちーん。


と音がする。


ほら、すぐに満タンになった。

大して減ってないはずだもの。


なのに、ユリウスさんは頭をおさえた。

なにかね。その態度は。


「……陛下。つかぬ事をおたずねしますが、陛下の魔力量はどの程度とご認識で?」


「ほとんどありませんわ。照明の魔術具一つ充填するの精一杯です」


「左様ですか……」


もはや疲労困憊と言った様子のユリウスさんだ。

だが、嘘は言ってないぞ。

二十七年間生きてきてだれも


「大丈夫ですか、ユリウスさん?」


「お気になさらず。思わぬところから、思わぬものがでてきて困っているだけです……。できれば陛下には、ただ愛らしいだけの名君であってもらいたかったというだけの話……」


「……ええっと」


ユリウスさんは困惑する私にぴしゃりと言葉を投げつけた。


「こちらで引き続き調査をします。どうかこのことはご内密に」


「というと、私はどうすれば?」


「あぁ、言い方が曖昧すぎましたか。今後、薬の出所を聞かれた場合は、全て帝国から援助を受けたと答えるようにお願いします。こちらでも、なるべく早くグレイン中将にお戻り頂くように連絡しておきます」


私は素直に頷く。

前半はどうってことないし、後半は大歓迎だ。


「でもなぜ、オスカーさんが?」


「陛下をお守り頂くためですよ。こちらでも護衛を手配いたしますが、閣下に任せる方が安全で確実だ。しばらくはお部屋から動かれませぬよう。私の手伝いもしばらくは結構です」


それから、たいそう疲れた様子のユリウスさんに私はお部屋を追っ払われた。


「どうにも厄介事はまとまってやってくるものだな。度しがたい」


なんて、ユリウスさんは呟いていた。

一応申し上げておきますと、私もこの機材もずーっと前からここにおりましたよー。

怒られるのは嫌なのでもちろん声にはださないけどね。




資料類の提出も求められたので、それにも素直に応じると私はすぐに解放された。

「もう用済みだ。さっさと立ち去れ」って感じ。

調査の協力報酬だろうか、私は屈強そうな兵士さんをお土産に付けられた。


監視かなともおもったけれど、二人ともちょっと誇らしげな顔だ。

悪い感じはしないのだけど背中に視線を感じてしまい、ちょっとだけむずむずする。


「何だったのかしら?」


「さぁ? 少なくとも悪い感じでは無さそうだったけど……」


渾身の警戒モードが空ぶって、消化不良気味のコレットが呟く。

言葉の端々を見るに、ユリウスさんは私のことを心配してくれてるみたいだ。

それはわかる。でもそれしかわからない。

どうにも説明不足だなぁ。


廊下を歩きながら今後の事を考える。

お部屋を出るなとご用命を受けたのだけど、今、私のお部屋は、アリスちゃんが占有してるのだ。


「客間にでも引っ越しましょうか」


「女王が母屋取られてどうするのよ……」


「そういう事もあるわよ。うちの国小さいし」


「国の大きさは関係ないわよ」


言い合っていると、おや、向こうから女の人がやってきた。


見ない顔だ。

今、この城にいる女性は私、コレット、アリスの他には彼女が連れてきた従者だけだ。

つまり、アリスちゃん付きの召使いさんだろう。

彼女は私の前でぺこりとお辞儀をした。


「陛下、探しておりました」


「私ですか?」


「私ども軍の方から、陛下の身辺をお世話するよう申しつかったのです。それで主より、陛下のお部屋の好みについてお聞きしてこいと承りまして。『緑と白、どちらがお好きですか?』と。それとカーテンの厚さについてご希望があればうかがいたいとのことでございます」


コレットと顔を見合わせる。


唐突なお部屋のリフォーム要求だ。


でも私は思いあたることがあったのだ。


昨日、私はアリスちゃんから彼女の旅行話を聞いた。

アリスは、専用の馬車を三台もつれて旅先のお部屋を好きに飾り付けて暮らすんだそうだ。

宿屋じゃなくて、古い空き部屋を改装するほうがいろいろと落ち着くんだそうだ。


そんな彼女は、今、私のお部屋に滞在中。


私の部屋、大富豪のアリスちゃん基準に照らし会わせると、間違いなくぼろ部屋判定を喰らう自信があるんだよねぇ……

マットとか、もう十年ぐらい替えてないし、飾り布なんて破れたら捨てるばっかで、部屋はもうすっかり殺風景だ。


これは、私のお部屋、アリス色に染められてしまうのでは?


「あの、そういうことでしたら、直接アリスさんとお話ししますわ」


「はい、ではそのように取り計らいます」


侍女さんを尻目に、私は、すぐさま部屋へととって返した。

廊下を風になった気分で駆け抜る私は、直線二本ですっかり息切れしてしまい、最後の方はコレットに背中をおされつつようやく自室にたどり着いた。


「こんなクソ小さな城の中移動するのにひーひー言わないでよ、だらしない……」


って、しょうが無いじゃん。走るの苦手なんだもん!

最後の階段をよたよたと登り切り、バタン!と、コレットが開け放った扉から部屋の中に飛び込む私。


そんな私を豪華な天蓋が取り付けられた粗末なベッドが迎えてくれた。

もはや寝台が天蓋のおまけにしか見えない。


こ、これは……。


愕然と立ちすくむ私の前で、綺麗な寝間着に着替え直したアリスちゃんがにっこりと微笑んだ。


「エリザお姉様、大至急、お部屋の模様替えをさせてくださいませ」


やっぱありアリスちゃんがやったのか。

流石に事後承諾はエリザお姉ちゃんもこまっちゃうよ。


あと、お腹の調子はもう大丈夫?

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