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殲滅戦とオスカー

戦闘シーンです。

エリザの試練を乗り越えた俺の理性はいまだかつて無いほどに冴え渡っていた。


「ただの賢者モードでしょ?」


「そうともいう」


なにしろエリザはすごい女だったのだ

体をすり寄せてから、「優しく慰めて下さい」と来て、とどめに口づけのおねだりをされるんだぞ!

大変だったさ!


俺はエロスに鋼の理性を乱打されて、それはもう死ぬ思いをさせられた。


俺を殺す気か!

殺す気なんだな。

あの晩は「エリザがエロいから悪いんだ!」とか叫びながら襲いかかっても、許されたんじゃないかと思う。


だがしかし、俺は耐え抜いた。

いっそ野獣にでもなれれば楽になるのに……、そんな邪心のささやきに晒されながらも、俺は意地でも頑張ったのだ。


そして俺は短く長い戦いに勝利した。

けがれを知らぬエリザの振る舞いに、邪な俺は下着を汚したものの、エリザの純潔は守られたのである。

お風呂に入ってないんです、と女の匂いさせながら言われた時にはもう駄目だったが、結果良ければすべてよしとさせてもらいたい。


そんな試練を乗り越えた俺は極めて士気が高かった。


「負ける気がしない」


「油断でも死亡フラグでも好きにすれば良いよ。そうそう負ける様な相手じゃ無いからね」


マルノイの言葉であった。




俺たちは聖国軍追撃の途上にあった。


攻囲中、俺たちに横っ面をひっぱたかれて逃げ出した聖国軍は、王都の東約半日ほどの郊外で再集結し、なぜかその場に留まっていた。


再度攻撃を仕掛けるつもりなのか。

あるいは遺棄した略奪品が今更惜しくなったのか。


どちらにせよ、愚かなことである。


負けたら逃げる。

鉄則だ。

守らなければ、いつかは死ぬ。


その日、追撃部隊の陣中にいる幹部は俺とマルノイだけであった。


ライナーは別任務のため、後続の攻城部隊と合流して南に向かっている。

軍医殿は「エリザ君について確認したいことがある」とのことで王都に残ることにしたそうだ。

あの男を一人エリザの元に残すのには、不安がないでも無かったが、俺も世話になった以上、頼みを無碍にも出来なかった。


それになんだかんだで、あの男は頼りになりそうな気がする。

エリザがピンチになったら助けてくれそうな気配を感じるのだ。


……いや、それはまずいのではないか?

恋仲になる典型的なパターンな気も……。


いやいや。

悩むだけドツボに嵌まりそうだったので、俺は考えるのをやめた。




王都東の郊外、だだっぴろい平原の上で、俺達帝国軍は聖国の残兵を射程にとらえた。

お互い位置を視認した上で近づき、対陣。


帝国軍約八千に対し、聖国軍の敗残兵は約一万六千。

数の上では敵はこちらの倍以上であるが、練度と武装の点では比べるべくもない。


いつものことだが、戦いは始まる前からついている。

今回も勝ち戦であった。


ただ、こちらは西側に陣取っている。

太陽を見ながら突っ込むのは避けたい。


とりあえず日が傾くまで待つか。


十分な距離をおいて俺が部隊を待機させていると、なぜか、敵陣から白馬の騎士が進み出た。


白銀の甲冑を身に纏った金髪男。

ランスロットだ。


何か出てきたぞ。

なんの用だ?


陣中が騒然となった。

おれもびっくりだ。


俺たちがアホ面さげて見守る前で、奴はなぜかおもむろに拡声の魔術具を取り出した。

そして、叫んだ。


「聞け、帝国の者達よ!」


聞きたくありません!

そう思ったのは俺だけではないようで、隣にいる連隊長達ももうんざりした顔を見せてくれる。


靴で犬の糞を踏んだがごとき顔だ。

あるいは、攻めづらい山中に敵の防御陣地を見つけたときのような。


わかるぞ。

俺も同じ気分だからな。


むざむざ敵の大将が姿をさらしてくれたのだから、狙撃してやりたいのは山々だが、矢よけの魔術具もってるせいで有効打にならないのだ。

矢が勿体ない。


「第一連隊長、なんとかしたまえ」


「お断りする。我が隊は敵兵を倒すためにいるのだ。害虫駆除が役目では無い」


帝国軍幹部の間でゴミ掃除を押しつけ合っている間に、ランスロットが演説準備を終えてしまった。


そしてランスロット王子様は、俺たちに向かって元気な声でお話しを始めたのだ。

一応お断りすると次の奴の台詞は読まなくても良いぞ。


「聞き給え、諸君。君たちは知らないかも知れないが、この僕が、僕こそが王国の主なのだよ! 僕は、聖国の皇女に祝福を得て、この地を得る力を与えられたのだ! ゆえに君たちは、僕の邪魔をすべきでは無い。さもなければその過ちを身をもって思い知らされることになるだろう! 神は薄汚い手で王位をかすめ取ったエリザ姉さんでは無く、この僕を選んだんだ! 神と聖女の力を借りて、僕は今この場に立っている。聖国の姫との将来を約束された王子、そんな僕こそがこの国の王に相応しい! 我らの勝利は間違いない!」


みな二の句が継げなかった。

諸将に俺、剛勇をもってならす帝国軍幹部をして、完全に反論を封殺してのけたランスロットはもしかしたらすごい男なのかも知れない。

聞いているだけで頭が馬鹿になりそうだ。


この男がエリザが血縁というのがまずもって信じられない。


エリザの母はさぞ偉大な人であったのだろう。

それともランスロットの母親が酷いのか。


両方だろうなぁ。


「先日の戦いで貴様ら帝国軍の動きは見切った! ゆくぞ、方円の陣!」


最後にそう叫ぶと、奴は本陣へと戻っていった。




敵の大将が、陣形を叫んでくれたんだが……。


「始めますか? 少し早いですが」


「……そうだな。まぁ、良いだろう」


敵が手の内を明かしてくれたのだから、そこにつけ込むべきである。

俺は進言にしたがって部隊に攻撃準備を指示した。


敵が敷いたのは方円の陣。


見る限り、たしかに一応、ランスロットが口にした陣形を聖国軍は敷いていた。


ほぼ円形に近い形に兵を置き、その丸い隊列から全方位に長槍をつきだしている。


騎兵に対して全方位の防御を狙ったつもりなのだろうか。

まばらな長槍の列が寂しげで、なんともいえぬ風情があった。


森で踏みつにされて中身を獲られたいがぐりの様だ。


「盤上遊戯のつもりか、低脳め」


「言うな。ならば教育してやれば良いだけの話よ。次があるかは知らんがな」


その時だ。

おれはふと思ったのだ。

この際だから向こうにあわせてやるのも一興だと


「よし、こちらは長蛇の陣でいく。縦隊形成! マルノイ、半数を任せる!」


「鶴翼じゃ無いんだ……。まぁやることはわかるけどね」


「ああ、頼むぞ。俺は北に向かう! 第四までついてこい!」


「了解! こちらは、第五以下全連隊、続け! 遅れるなよ!」


そして、号令一下、帝国軍重装騎兵八個連隊が動き出した。


稀代の戦術家ランスロット氏のおかげで、我が軍は好機をえたのだ。

精々うまくつけこませてもらうとしよう。


そして帝国軍が動き出した。




日はほぼ中天にあった。


行動に移った帝国軍騎兵部隊は、すぐに疾走へと移る。

彼我の距離がせまるにつれて、俺の正面に立つ聖国兵の表情がゆがむのが見えた。

そこにあるのは恐怖か狼狽か。


だが、まだびびる必要は無いぞ、聖国の兵士諸君。


疾駆する帝国軍の騎馬の群れは、しかし聖国軍を直接襲うことは無かったのだ。

およそ100アリシア(およそ150m)の距離まで接近した俺たちがその手前で進路を変えさせたのである。


俺の隊は北へ、マルノイの隊は南へ。

駆け抜け様に駄賃代わりに掃射を加えると、聖国軍の隊列から悲鳴と呻きがあがった。



さて、突然ではあるが、野戦における二つのルールをここに記そう。


火力と運動だ。

力と速さこそが戦場における正義である。


そのどちらか一方を失った時点で、その軍は死ぬ。


聖国軍はなぜか広い野原の真ん中で円陣を組んだ。

まるで動く気が無いとでも言う様に。

そして、その瞬間奴らの戦争は終わったのだ。


「最初から運動を放棄する馬鹿共に我らが負けると思うか!」


連隊長の台詞である。


敵の遺棄物資から、聖国軍がほとんどの矢玉を置き去りにしたことは調べがついていた。

今、奴らは。飛び道具を持ち合わせていない。


故に聖国軍は我々に肉薄しなければ、攻撃できないのだ。

なのに動かない戦術をとった。

とってしまったのである。



そして、世の中には弓矢という武器がある!



敵の手前で進路を変えた帝国軍は、騎馬の機動力でもって聖国の隊列を取り囲んだ。

我々は悠々と包囲を完成し、そして本格的な攻勢に取りかかった。


「撃て!」


短い号令。

元帝国軍の制式複合弓から打ち出された矢が、十分な威力と飛距離をもって聖国軍の隊列に襲いかかった。


無数のいなごのごとき飛翔音をまき散らして、矢とボルトが賊兵の頭上から降り注ぐ。

これが俺たちが意図した戦いだった。

要は弓射戦だ。



敵兵が悲鳴と、あるいは苦痛の呻きと共に倒れていく。

地に伏すその体にも容赦なく矢の雨は降り注ぎ、命を刈り取った。


だが、それでも聖国軍が動く気配は無い。

浜辺に打ち上げられたウニのような隊形では、進むことも退くこともできないのだ


必勝の布陣を敷きながら、卑怯な帝国軍から一方的に攻撃されることになった名将ランスロットは敵陣の中でわめきちらした。


「飛び道具など卑怯だぞ! 騎士の風上にも置けぬ奴らめ! 正々堂々とかかってこい!」


皆が嗤う。

敵の総大将どのが、わざわざ自軍の窮状を教えてくれたのだ。


「効いているようだな」


「ああ、効いてる、効いてる」


俺もそろって弓をひく。


もうしばらく無意味にそこで叫んでいろよ、ランスロット。

すぐに終わらせてやる。




一方的な戦いは長くは続かなかった。

戦局はより一方的な戦いへと変化したからだ。


なんと聖国兵達は隊列を乱し、少しでも安全な場所へ逃げ込もうと、武器を捨て円陣の内側へと逃げ込み始めた。


なんという戦意低さだろうか。

まぁ消費する矢の数が減るのはありがたい。


おれは次の指示を飛ばす。


「東側の包囲を解け。敵に退路を開けてやれ!」


聖国軍に取っての退路は東側だ。

王国の東側に聖国はある。


だから退路を明けてやったのだ。

親切だろう?


「すると、弱兵は逃げ出す」


聖国兵にとってその場に留まっても待っているのは無意味な死だ。

故に、一縷の望みに賭けて、奴らはその包囲の穴へと殺到する。


「で、追撃するっと」


盾をかかげあるいは槍を構えて正対する兵と、背を向けた兵、どちらが倒しやすいか。

当然、後者だ。


背を向け逃げ出した聖国軍はもはや単なる動く的であった。


「よし俺の隊で追撃する。前には立つな。それと各員、死なぬように」


「無論です、閣下」


獰猛に直轄の第一連隊連隊長が笑う。


流石にこんな戦場でやられた馬鹿には、弔文を読んでやる気にはなれんませんからな。


割と本気で言われたらしいこの言葉に、俺は心からの同意を返した。


そこからの戦いはもはや作業に近かった。

徒歩で騎馬の足に敵うはずもなく、無様に背を向けた聖国兵のほぼ全てがそこに屍をさらすことになる。


帝国軍の戦死者は結局一人も出なかった。



◇◇◇



「ランスロットはどうした?」


俺の言葉に予想外の言葉が返ってきた。


「逃げたようです。どうやら転移をつかったようで。奴の武装だけその場に残されておりました」


「転移だと? あれを実用化させた馬鹿がこの地上にいたんだな」


転移。

好きなところへ瞬時に移動する魔法だ。


ちょっと便利そうだろう?

極めつけに危険な魔法だ。


なにせ考えて発動しないと、地中やはるか上空へ飛ばされる。

実用化するには犠牲覚悟の人体実験が前提になる。

この時点で帝国では開発が中止になった。


聖国では、何人もの人間を石の中に送り込んで実現したのだろう。

その成果を使って、ランスロットは逃げおおせた様だ。


あるいは石の中かも知れないが、なんとなくあの雰囲気だとしぶとく生き残ってそうな気がする。

しかしなぁ。


「馬鹿げた魔法をあの男に与える前に、最低限の軍事教育を施しておくべきじゃ無いのか?」


「まぁ、敵の無能な指揮官が長生きなのは助かります。魔法も研究成果を回収できれば局の連中が喜ぶでしょう」


「たしかにな」


帝国ではできない貴重な実験結果だ。

戦果としては相応の価値がある。


回収できれば、俺にとって、ひいてはエリザにとっての利益になるだろう。


俺がランスロットを鴨にして武勲を稼ぎ、エリザに貢ぐ構図だ。

美しい。


「まぁ、借金の取り立てと思えば、正義は俺たちにあるだろう」


「ものは言い様だね、スカさん」


合流したマルノイがそう言って笑った。


そうとも、今回は正義の戦いだからな。


「次に行こうか」


俺たちは進路を南に取った。

目指すは聖国西部の港湾都市トラーニだ。


◇◇◇


大分血なまぐさくなってしまったので、ちょっとだけ解説を


オスカーの戦争思想は中央アジアを支配したモンゴル帝国のそれに近いです。

ただ、この物語における帝国の統治戦略はローマに準拠しているため、彼と本国の方針には一部乖離があります。

この辺りについては物語で追々触れますので、展開についてはご了承下さい。


正直、自分一人でお話しを練ってるときには気にならなかったんですが、どうにもヘビーになっちゃったなと反省しております……。

少なくとも恋愛カテゴリでやる話じゃねぇよ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さりげなく 100アリシア(150m) にこにこ顔で手をビローンと広げているアリシアさんが 脳内で再生されました。 ほのぼの感、半端無いです。
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