表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/40

分析とわたし

さて、お話を進める前に、ちょっとだけ我が王国を取り巻く国際的な関係を説明しておこう。


私達の王国はちょっと前まで現在攻め込んできた聖国に従属していた。

しかも毎年、年貢まで納めていた。

攻めないでくださいという土下座外交だ。

突然侵略してくるような聖国に、私達は馬鹿高い友達料まで払って同盟をお願いしていたわけである。


これはなぜか。


理由は単純。


王国は、聖国としかつながりが無かったのだ。


そりゃ、私だって帝国と結びたかったさ!


でも、もう一つの隣国である帝国は、王国からは遠すぎたのだ。


二つの国の間には一つの山脈がそびえていた。

通れないこともないけれど、行き来するのは間違いなく面倒になる絶妙な高さの山脈だ。

国境の山越えは、平地の街道を進むのに比べると格段に時間と労力を必要とした。


もちろんこの移動の大変さは行軍についてもあてはまる。

帝国が王国の地を得たとしても、軍隊を送り込むのは困難で、例えばこの地が攻め込まれたとしても、援軍をおくるのは難しかった。


守りにくく、しかして実入りは少ない土地。

王国はそんな酷い立地に相応しい扱いを帝国からされていたのだ。


要は、ずっと相手にしてもらえなかったってことだね。


王国の片思い期間は十年以上である。

私達かわいそう……。



しかし、今、その状況が一転した。

私達王国は突如として現れた帝国軍に窮地を救われたのだ!



「この理由について、私達はもう少しきちんと考えるべきだと思うのです!」


場所は、王城の狭っくるしい大会議室。

私がボロ卓をばんと叩くと、議場に集められた閣僚の面々は訝しげな顔を私へ向けた。

「朝から呼び出してなに言い出すんだろう、この女王様」って顔だ。


緊張感が足らんぞ、貴様ら!


やぶにらみで部屋の中を一瞥する。

早速、得意げな顔をしたコレットが勢いよく挙手をした。


「はい! その理由、私、わかります!」


「ではコレットさん、どうぞ」


「帝国軍指揮官のオスカーさんが、女王エリザベートに懸想したからです!」


ぶっぶー!


「違います。国家とは純粋な国家理性によってのみ運営されるものです。軍事行動はその最たる物。決して個人の感情で動かされることはありません。皇帝ならともかくオスカーは一軍人です。彼の好意で軍は動きません」


「いやいやいや、オスカーさんに確認してよ! わざわざ確認しに行ったんだから!」とコレットは主張したけれど私はばっさり切り捨てた。


何度も言うけどそんなことはありえない!


「遠征軍司令官のグレイン中将は私達に好意的でした。特に私には、特別好意的であったようにも思います。実際、交際も申し込まれました。しかしそれに騙されてはいけません!」


私はここで一拍区切り、それから大きな声で断言した。


「なぜなら私はあまり美人では無いからです!」


「陛下! そんなことはありませんぞ!」


「そうですとも、姫様はまだまだお可愛い!」


「馬鹿! 可愛いは禁句だ! 陛下はもう三十近いんだぞ!」


ぐへぇ!


おっさんの心ない発言が私のハートにぶっささる。

デリケートなお年頃なのだ。

もう少し配慮をしてもらいたい。


時々、自虐してるじゃないかという突っ込みを頂きそうなので予め言っておく。

自分で言うのと人に言われるのじゃあ、受けるダメージが違うのだ。

だから自虐するのである。言われる前に!


心の柔らかいところに深い傷を負った私は、さっさと議事をすすめることにした。

早く、早く!

私のライフが尽きる前に終わらせなきゃ……!


「私の考えを述べましょう。帝国は王国を聖国侵攻のための拠点にするつもりなのだと思います」


「帝国の聖国侵攻、でございますか」


「ええ、そうです」


私は重々しく首肯した。


私は考えたのだ。

理由がわからないなら、視点を変えてみるべきだ、と。


帝国にとって王国の立地は守るに難しい場所にある。


でも王国を「攻める」ための橋頭堡と考えてみるとどうだろうか。


王国から北や東に進出すれば大きな街道があり、それらは聖国の首都へとつながっている。

また南に向かえば大きな港町もある。

そしてその間には、山脈も大きな河も存在しないのだ。


どこへ行くにも自由自在。


聖国と平地続きの我が王国は、攻撃発起点としては素晴らしい位置を占めてるのだ。




私がその考えを披瀝すると、議場には「そういう考え方もできるのか」的な空気が流れた。


そうとも。

世の中シビアなのだ。

現実は恋愛小説じゃ無いんだから、甘いことを考えてちゃ駄目なのだ!


「つまり、陛下は帝国が聖国との戦争を考えていて、そのための準備として我が王国にやってきたと、そうおっしゃりたいわけですか?」


「そうです」


「オスカーさんがエリザのこと好きだっていうのは関係ないと」


「そのとおりです。というか彼は私の事が好きなわけではありません。きっと女の子を転がすのが上手なのです。間違いありません」


私も上手に転がされたからな。


「もう一度言います。彼らの真の目的は聖国への侵攻作戦である可能性が高い。その時、私達はまた戦いに巻き込まれるかもしれません。ゆえに備える必要があるのです!」


「……なるほど、道理っぽく聞こえる」


「相変わらず変なところで用心深い」


「そんなんだから嫁ぎ遅れるんだ……」


みなの賞賛(?)が心地よい。

それはそれとして、余計な事を口にしたボルワースは後で執務室に来るように。




私が説明を終えると、会議室に沈黙が落ちた。


皆が顔を見合わせている。


どうだ、私の理論は完璧だろう?

私は荒ぶるウシガエルのポーズでふんぞり返った。


皆が何も言えずにいると、見かねた様子のコレットがしぶしぶといった体で口を開いた。


「まぁ、エリザがそう思ってるなら、そういう方向も絡めて話を進めましょうか……。別にどっちでも良いし」


「そうですなぁ。そこを議論しても仕方ありませんからなぁ」


ちょっと引っかかる言い方だな……。


でもとにかく、私の主張は受け入れらたようだ。

なんだか視線が生暖かいような気がするけれど、あまり深くは悩むまい。



それからは閣僚達の間で活発な議論が繰り広げられた。


議論を主導したのは案の定と言うべきかコレットだった。


今更ながらに思うのだけど、なぜ彼女は我が王国で絶大な発言力を持っているのだろうか?

元は単なる流れ者なのに。


閣僚共は大事なタマでも握られてるんだろうか。

謎だ。


「エリザの謎理論はともかくとして、たしかに国防は大事です。今後の事を考えるなら、グレイン中将の取り込みは念入りにしておくべきでしょう。ほぼすっぴんをナチュラルメイクと強弁し続けることの限界は私も感じています」


「コレット女史がそう言うのであれば、対処が必要でしょうな。今の彼の好意に甘えて、現状に満足するわけにはいきません。関係を維持するためには不断の努力が求められるのが常なれば」


「ええ、そうね! 現状には大いに改善すべき余地があると私も思います」


とりあえず議論に食いついておこう。

私は追随した。

無論、すっぴんとかナチュラルメイクの意味は理解していない。


私が国内の連絡体制を強化しようと主張すると、ついでだから王国内のデートスポットをまとめた地図を作りましょうとコレットにかぶせられた。


もっと強い武器を調達しておくべきでは? と私が提言したところ「費用対効果が悪い」と一蹴されてしまった。

その代替案として、私用の装飾品をちょっとだけ買うことが決定した。


聖国の脅威に対抗するには、帝国軍との協力関係が肝要であるとして、私には基礎化粧品の使用が義務づけられた。

毎晩、コレットが手入れに来てくれるそうだ。

面倒だ! でもちょっと楽しみ!


服については、パーティー用のドレスを一着と普段着を数着仕立てるということで私を除く全員が意見を一致させた。

下着についてもエッチなものをいくつか調達すべきだとコレットが主張したけれど、姫様にはまだ早いと騎士団長が強硬に反対したため保留となった。


私はとりあえず赤くなっておいた。



……いやいやいや!

ちょっと待て!


この議論はおかしい。

なんか流されちゃったけど、絶対におかしい!


「皆! 今は国防の話をしてるのよ! それでどうしてエッチな下着の話が出てくるの!?」


「それこそが国を守るために我らが出来ることなのです! 国防に関してはオスカー殿との連携が最大の要! そしてそれは陛下にしか出来ぬ大役なのです! 陛下ももっと真剣に考えて下され!」


「えっ、そうなの?」


「そうよ。エリザの分析によると聖国との全面戦争に巻き込まれるかもしれないんでしょ? なら帝国軍はがっちりつかまえておかなくっちゃ」


そ、そうなのかな。


私はうなった。

しかしうなるだけで、二の句は出てこない。


ううむ……。


思い返してみても、会議の始めは、ちゃんと私の意図したとおりに議事を進行できたと思うのだ。

でも、議論の内容は知らないうちにこんなふうになっていた。


新品のブラジャーで、果たして国は守れるのか?

おっぱいポロリは防げても、国境線は守れないんじゃなかろうか?


疑問符を頭に浮かべる私の前で、革新派のコレットが保守派の爺さん達と新調するパンツの色について激論を交わしていた。


「ちょっと透けてるぐらいエッチでも何でもありません!」


「馬鹿な、姫様には早すぎる!」


おいやめろ!

流石にすけすけは恥ずかしい!


私の心の叫びは届くことはなく、コレットは重厚なる論陣でもってじじい共を撃破した。

すけすけおパンツを押しつけられて、女王エリザベートはその日、泣いた。

書きためのストックが無くなってきたので、次回から隔日になります。


◇◇◇


あと、こちらでお礼を言わせて下さい。

沢山の感想ありがとうございます!

自分で読んでも楽しめるものをと思っていたのですが、これがなかなか自信が持ちづらくてですね……。

楽しんで頂けているとお声を頂けまして、とても嬉しいです。


今後ともがんばりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>でも王国を「攻める」ための橋頭堡と考えてみるとどうだろうか。 聖国?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ