#1 王女と女騎士
それは、ある日のことだった。俺はいつも通り薄暗い部屋の中でパソコンで好きなアニメを見て、2chに書き込みをしている、どこにでもいるありふれた引きこもりニートだ。パソコンをいじって数時間経っただろうか、その時だった。空から突然雷が落ちてきた…当然のように、俺は真っ黒焦げになってひとたまりもない姿になって死んだ…はずだった。
気がつくと俺は、中世ごろの国に居た。身体を見てみると、長い真っ黒のコートを身に羽織った細身の少年になっていた。
「俺は…一体どうしたんだ。」
「異世界に転移したんじゃよ。」
どこからともなく声が聞こえる、やはり周囲を見渡しても俺に話しかけら人の姿すらない。これがもしかして直接脳内に語りかける、と言うやつだろうか。
「お前は…誰だ」
「この世界の神様じゃ。君は不慮の事故で現実世界で死んでしまった、そこでわしはお主を蘇らせることにした。その上、様々な能力がこの世界のトップクラスにしておいた。現代で生きていたお主は目も当てられんほど酷く醜い男だからなぁ」
「あ…ありがとうございます…」
「とりあえず探索してみるがよい、この世界はきっと君を絶望させない。」
神様に言われたように、この国を探索してみる。すると、色々なことが分かってきた。
この国はゴルダラ王国という名前で、中央にゴルダラ、その外側にシルバリー、そしてその外側にブロンダと円形に囲むように地域が形成されている。
「きゃーーっ!?」
「!?」
黄色い悲鳴が鳴り響く、聞こえた方角に向かってみると、この国の王女である「ルナス・ゴルダラ」が複数体いる小さなドラゴンに襲われているようだ。この世界最高峰の能力だ、ここで使わない手立てはない。
「ブレイザー!!!」
咄嗟に出てきたこの呪文は、炎系では中級の魔法で、弱いモンスターなら一撃で一網打尽にできる程の力はある。
「ギャオォースッ!!!」
焼きつくような炎を喰らい、ドラゴンは悲鳴の声を上げる。そのまま抵抗することもなく、ドラゴン達は倒れていく。
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、このくらいなら俺にとっては楽勝ですよ。」
「あ、あの!失礼でなければお名前をお聞きしたいのですが」
「如月…如月烈火です。」
「如月さん!良ければ、私の城に来てください!」
ひょんなことから如月は、ルナス様を助けたことにより、王への謁見する権利をもらうことができた。
そしてルナスに着いて行くと、とてつもなく大きな城が目の前にそそり立っていた。
何階建てだろうか、いくつもの監視台があったり、兵舎や馬小屋もあったり、やはり随分と本格的な設備だ。
ギギギ…っと大きな城の扉が開いていく、すると玉座への一本道が続く。大きな黄金の獅子の彫像や、女神の噴水。まさしく栄美な装飾といえばこんなものだろうか、俺が元いた薄暗い部屋とはまるで違う。世界が、こんなにも明るく見えたのは初めてだ。
「玉座の前である!跪け!」
『ははっ!!』
そして、この国の最高権力であるソルアス国王が第一声を上げる。
「黄金の民達よ、面をあげよ。」
「君が、我が娘を救った如月烈火だな」
「は、はい。」
「私は君を歓迎しよう。この国は生憎、魔法を使える民がほぼ老いていてね…君のような若い魔法使いはこの国では一人だけだ、そこで我らのドラゴンスレイ騎士団に参加してもらいたいのだが…」
「ありがたき幸せです、是非ともその騎士団に入らさせていただきます」
「話が早くて助かる、君の力を、存分に発揮してくれ」
「ははっ」
「早速、兵舎へ赴くがよい。」
左手の扉が衛兵の手によって開く。そこへ俺は言われるがまま案内される、しかしこの城…物凄く庭が広い。色々な高そうな置物とか植木鉢とかたくさんあって、少しでも傷を付けたらこっ酷く怒られそうだ。
そして兵舎に着く。ここは、家を持たない単身赴任や家族を養っていない兵士達が集まる、現代で言うとアパートやマンションと言ったところだろうか。
部屋は最後の一つで、左端の部屋に入ることになった。なんとその部屋は偶然にも、相部屋になっていた。しかも女の子。
「………」
「…お、俺は如月烈火。よろしく」
「…アスナ、アスナ・ブレイダだ。」
「…着替えとか覗くなよ」
「や、やるわけないだろ!?なんだよいきなり!?」
「しばらく会議まで時間がある、もう少し外をうろついてみたらどうだ?」
「ああ、女の子とおんなじ部屋にいたらこっちまでドキドキしてしまう」
「…こ、こっちだって集中できないからな…」
しかし、騎士の割には彼女は少し華奢な身体をしている。不思議なものだ、胸はEカップくらいあるんだろうか…
「…なにジロジロ見てんだよ、とっとと出てけよ、この変態。」
「…あ、ああ。」
街を再び探索する。やはり、兵士たちが歓楽街で遊び歩いている。兵士というものは常に鍛錬をしているわけではない、偶にはこうして遊び歩いて休息をとることだって大切なのだ。街には道具屋、武器屋によろず屋、そして宿屋だ。路地裏には酒場があり、兵士の憩いの場と化しているようだ。
街を歩いていると、昼に見たルナス・ゴルダラと偶然にも遭遇する。
「あら、奇遇ね。如月さん」
「ルナス様?」
「ルナスでいいわ。流石に昼間みたいに堅苦しいのはこりごりだわ」
「じゃあルナスさん、貴方みたいな人が夜に出歩いているだなんて、そんなイメージなかったけど、どうしたの?」
「今日は特別に外出許可が出ましたの。如月さんみたいな人がいればボディーガードとしては完璧だって。」
「国王から直々の許可、かぁ。」
そんなこんなで始まった異世界チート伝。彼の育む愛の道は希望か、はたまた絶望か。
物語はまだ、始まったばかりである。