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BLIZZARD!  作者: 青色魚
第二章・破『英雄幻想』
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第二章44『外国人組』

「……クソ!」


 先程の啖呵の後、一人会議室を飛び出したベイリーはそう苛立ちを吐きながら、近くにあった備え付けのゴミ箱を蹴飛ばした。ガキン、という金属音とともにその形が少し歪むのと同時に、ベイリーの足に鈍い痛みが走る。


「……っ」


 その反動の痛みにも苛立ちながら、ベイリーはその鬱憤を晴らすようにその場から離れ歩き出した。ベイリーは今、全てに苛立っていたのだった。先程蹴飛ばそうとしたゴミ箱が案外硬いものであったことにも、先程の言い訳じみた青年の告白にも、そして改めて自らの弟が死んでしまったことにも。そして何よりも、その事に平静を失った自分が、その青年にありったけの憎悪をぶつけてしまったことに。


「……だからって、謝ってたまるかよ」


 ベイリーは先程までの自らの物言いには棘がありすぎたと思っていたが、それでも発した言葉は間違いではないと思っていた。あの青年、過去から来たと言ったあの男のせいで弟が死んだことは事実であるし、その青年の暴走のせいでこの奇妙な事態が引き起こされたことも事実であった。ベイリーは何ら、間違ってはいなかったのだ。


 だが、それでもベイリーの胸の中にあるその苛立ちは消えることがなかった。その負の感情を抱きつつもベイリーが基地を歩いていると、その道すがら一人の子供が横をかけていくのを見た。


「……お?」


 その子供は会議室の方へと向かっているようだった。その子供をすれ違いざまに見た瞬間、ベイリーはどこか違和感を感じた。それは小さな子供が会議室などという堅苦しいところに向かっていったという奇妙さだけではなく、その子供の顔をどこか以前に見たことがある気がしたからだった。


「……まあ気の所為、か?」


 そうしてその子供が走っていくのを見守ったベイリーは、ふとその頭に自らの幼少期を思い出し、その姿を走り去る子供に重ねていた。


 ──なんか、懐かしいな。


 ふとそう思ったベイリーは、その気の赴くまま懐古に身を委ね始めた。


 その脳裏には、今となっては遥か昔、彼が初めて日本に連れてこられた時のことが浮かんでいた。それはまだ『氷の女王』が襲来する前、日本にまだ美しい四季が残る時代の話であった。



 ********************



 ランバートとフレボーグ、ついでベイリーなどの『外国人組』は、はじめ朝比奈(アサヒナ)(ハル)のとある依頼によって日本の地に足を踏み入れた。彼らの両親は所謂(いわゆる)傭兵であり、ひょんなことでその博士(アサヒナ ハル)と交流を持っていた。その博士がその両家を日本に呼んだのはおよそ三十年前、『氷の女王』の襲来する半年ほど前のことだった。


 最初その博士は自らの護衛を頼むために自らを呼んだと思っていた彼らは、その依頼内容を聞いて驚愕することになった。それもそのはず、いくら彼女が天才と言われた(アサヒナ)女博士(ハル)であったとしても、半年後に謎の存在が隕石に乗って地球に飛来し、それが世界に永遠の冬をもたらす、などという彼女の予知はあまりにも現実的ではなかったからであった。


 しかし、その依頼を彼らが断らなかったのは、その女博士がそれだけ信頼に値する人間であったことと、彼女がとても冗談などを語るような表情でなかったことと、山のように積まれた依頼金が理由であった。


「……金ならいくらでも出すわ。これでも足りないって言うならまた借りてくる」


 その女は大量の金と傭兵一家を前にしてそう平然と言った。その口調から推測される通り、人が一生働いても返せないほどのその大量の依頼金は恐らくどこかから借りたものなのだろう。その正気とは思えない彼女の行動力に、彼らは思わずその女の身を案じた。が、彼らの憂慮に対して、その女はさも当然だと言うかのように笑って答えた。


「どうせもう少ししたら雪に包まれる世界だもの。こんな紙切れ、(じき)に価値なんてなくなるわ。ついでに催促をする人達も死んじゃうでしょうし」


 そうあっけらかんと言う彼女は、自らのその考えに何の疑いも持っていないようだった。そうでなければ死んでも返せないほどの大金を借りてくるなどということは恐ろしくて出来ないであろう。そんなことが出来るのは余程の大金持ちか、もしくは狂人に違いないからだ。


「……という訳で、よろしくね。私が居なくなった後も日本人(ニホンジン)がここに生き残るには、貴方(アナタ)達の力が必要なの」


 その、まるで自分が間もなく死ぬと分かっているかのような女の発言に、彼らは眉をひそめた。その女はその時点でまだ若く、十年や二十年のあいだに死ぬということは有り得ないように思えたからであった。


 しかしそんな彼らの疑問もつゆ知らず、その女は笑って言った。


「……貴方(アナタ)達にここを託すわ。この、スルガ基地を」


 その女博士の予言が真実だと彼らが気付いたのはそれから少し後、『氷の女王』が地球に襲来した日のことだった。


 そしてもう一つの彼女の予言の通り、彼女はその襲来から十年ほどで基地から姿を消したのだった。たった一人の愛娘、アンリを産み落としたまさにその日に。



 ********************



 そうして始まったランバート達外国人組の基地での生活は、案外特には苦もなく続いていった。というのも、『氷の女王』がやってきた時ベイリーは僅か四歳であったのだ。つまり基地でのその無機質な生活に順応したというよりも、元の世界を知らないがために不自由を感じることがなかった、といった感じに近かったのだった。


 その暮らしに問題があるとすれば、むしろ周囲の人間の方であった。人々が基地で暮らし始めた最初の一年程の間は、毎日屋内に閉じ込められるストレスや知人が死んだ悲しみなどで、基地の人間は皆気が立っていた。基地では度々暴動が起き、またその不安定な精神故か基地内で新宗教の類も生まれた。そしてそれだけ苛立っていた彼らが、何故か日本にいる外国人の存在に目を尖らせないわけはなかったのだ。


 結果、彼ら外国人組は当初基地の人間から度々差別を受けた。『救世主』たる朝比奈(アサヒナ)(ハル)が彼らを庇っているうちはまだその嫌悪も表面化はしなかったが、彼女が消えてからはその迫害は再び度を増していった。当時基地のリーダー格であった男の性格も相まって、ベイリーとフレボーグは再び恵まれない時期を迎えることとなった。


 そんな時その兄弟を救ったのは他でもない、同じく外国人組の唯一同年代であったランバートであった。ランバートは周りの人間が自分を忌み嫌うのも気にせず、ひたすら訓練を詰んだ。それは自分を貶める基地の人間に対する暴力という手段を手に入れるため──などではなく、基地の人間に自分のことを認めてもらうためのものだった。


「……強くなれば、問題ない。同じ外国人(ガイコクジン)でも父さん達は基地の人たち(みんな)とも仲良しだ。


 ……だから俺は、遠征隊に入る。遠征隊で活躍して、基地の人たち(みんな)とも仲良くなれるように、俺は強くなる」


 そのランバートの決意に、その兄弟は思わず目を見開いた。自らを嫌うその人間を見返すためではなく、その人間と接点を持てるようにその力を鍛え、使う。その純粋な人間としての『強さ』に、同じ境遇にあったその兄弟が感化されないわけがなかったのだった。


 結果として、その兄弟は親の反対も押し切り、自らも遠征隊に入ることを志願した。その兄弟の決断を兄弟の両親が快く思わないのはもっともであった。何故ならば彼らも雇われの身、つまりは遠征隊員であったからだった。その頃はまだ凍気(フリーガス)に全員が目覚めているという訳ではなかった。現在(いま)よりもその遠征は大きな危険を伴っていたのだ。


 そんな中でその兄弟が遠征隊に入ることが出来たのも、間接的にはランバートのお陰であった。その頃既に遠征隊に入っていた彼の()が、その凍気(フリーガス)を使い凄まじい活躍をしていたのだ。


 彼女のその功績から、戦闘面における凍気(フリーガス)の有用性に改めて気が付いた遠征隊は、丁度それを扱える人材を探していたのだった。フレボーグとベイリーは幸運にも早くにその力に目覚めていたため、その力の制御もそう難しくはなかった。その力を遠征隊に買われ、その少し前に入隊したランバートを追う形で、ベイリーが二十歳、フレボーグが十九歳の時にその兄弟はとうとう遠征隊へと入隊した。


 そうして改めて遠征隊で再会したその三人の男達は、基地の反感をもろともせずその凍気(フリーガス)の力で戦績を上げていった。周りを黙らせるほどの力をつけて、そしてその力で基地の人間と接点を持つ。その夢を叶えた三人は、それからも遠征隊で活躍を続けながら、基地で充実した日々を送っていたのだった。


「……それだってのに、今やその内の一人は死に、一人は意識不明の重体、か」


 そうして懐古から意識を取り戻したベイリーは、ため息混じりにそう呟いた。そうしてまたその苛立ちを募らせて、その悪態を吐いた。


「……俺はお前を絶対に許さないからな、カケル」


 そう繰り返したその声は、悲しいほど静かなその基地に霧散したのだった。



 ********************



 ──何を、すればいい。何が、俺に出来る。俺は、一体どうしたら。


 一方その頃、その件の翔は一人、基地の廊下に蹲っていた。翔はもうどれだけの間自分がそうしているのかも分からなくなっていた。いつの間にかその身体の熱も冷たい基地の熱に吸収され、長い間同じ姿勢をとっていたためかその身体の末端は幾ばくか痺れ始めていた。それでも翔がそうして俯いているのは、もう翔には何が正しいかが分からなくなっていたからであった。


「……俺は、何を……」


 俯いてそう呟く翔の耳が、ふと小さな足音を拾った。


 ──?


 その足音には気が付きつつも、その顔を上げる気力のない翔はそのまま頭を伏せてやり過ごそうとする。するとその足音は翔の近くに来たかと思うと、何かに気付いたかのように翔の周りを歩き始めたようだった。


 ──誰、だ……?


 疑問に思いつつも、やはり翔はその顔を上げることができなかった。翔にはもう何かをする気力など残されていないのだ。するとその頭を上げる必要もなく、その足音の主は言った。


「あれ、カケルさんじゃないですか。本当に帰ってきてたんですね」


 その独特の口調と、少し面影のあるその声色に翔は思わず顔を上げた。するとそこには、懐かしい()()()()()が立っていた。


 その少女を見て、翔は思わずその名前を口に出す。


「……アンリ……っ!?」


「はい、そーですよ。皆さんご存知、天才少女のアサヒナ・アンリです」


 翔のその驚きの言葉に、そうしてその少女、アサヒナ・アンリは無機質に笑ったのだった。

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