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BLIZZARD!  作者: 青色魚
第二章・序『氷の子供』
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第二章13『同志』

 最後に記憶に残るのは、2031年の世界。そのキラの答えに、翔は目を見開く。


「……じゃあ、それって……」


 翔のその言葉の先を読み取り、キラは小さく頷く。


 その様子を見て、翔はようやく理解した。翔とキラの会話にはどこか食い違いが見られていたが、その原因が今になって分かったのだ。


 翔とキラの時間軸は異なっていたのだ。翔は今、つまりは2042年を生きており、キラは約十年前、2031年を生きていた。互いに十年ほどの時間差があれば、会話にズレが起こるのも無理はなかった。


 そしてそれはつまり、また新たな意味で、キラは翔と同種の人間だということだった。


「僕は十年前、とある騒動により両親を失いました。その時、悲しみのまま『凍気(フリーガス)』の制御が効かなくなり、自分で自分を氷漬けにしてしまいました。そして次に目覚めた場所が、あの基地だったんです」


 キラが語る内容をすんなりと理解しながら、翔は小さく頷いた。キラの凍気(フリーガス)についての体質が生来のものかは分からないが、少なくとも先程基地において、感情の起伏と凍気(フリーガス)の強さに関係があることを翔は確認していた。両親を失ったとなれば、その悲しみからその凍気(フリーガス)を暴走させたというのも無理はないだろう。


「氷漬けになっていたあいだの記憶は一切ありません。身体の成長も止まっていたみたいです。つまりは約十年間、氷漬けになっていたみたいですね」


「……つまりキラ、お前は、いや、お前()、ある意味では時間を跳躍してここに来たんだな」


 翔は胸にこみ上げてくる何かを必死に押さえつけながらそう言った。


 もちろん時間を跳躍してきたとはいえその経路は違うだろう。翔は純粋に一度この世界から消失し未来へ跳躍してきたのに対し、このキラという少年はどうやら『凍気(フリーガス)』により氷漬けになったことで、冬眠(コールドスリープ)のような形で時の流れに置いていかれたのだ。


 しかしそれでも、キラが翔同様、時の流れから大きく外れた存在であることには間違いなかった。


「……はは、そっか」


 その事に気がついた翔は笑っていた。この世界に来てから随分とたったが、初めて自分の同志のような存在を見つけた気がしたのだ。


 この凍てつく世界で時間を超えた、その点では疑いもなく、翔とキラは同種の存在であった。


 翔は改めてキラの顔を見る。翔と同じ特殊体質で、翔と同じく時を()け、そしてその身からいつも凍気(フリーガス)を発しているその少年の顔を。翔は気付いていた。それほど異質な力を持ちつつも、その少年の顔はやはり小さな子供のそれと何ら変わらない。翔と似た存在ながら、その少年は翔よりもずっとちっぽけな存在だったのだ。


 ──だったら、改めて覚悟を決め直さないとな。


 もう翔にとって目の前の少年は偶然遭遇した得体の知れない存在などではない。翔と同じく時を超えたことのある、この世界で唯一の翔の同士であった。ならば、と翔は改めて心の中で目の前のキラを守る覚悟を決め直した。


「……というわけで」


 と、感傷に浸る翔を他所(よそ)に、キラが再び話し始めた。


「僕が知っているのは約()()()()朝比奈(アサヒナ)(ハル)の生死だけです。僕と僕の家族はあの人にお世話になりながら暮らしていたようなので、その頃にはまだあの人が生きていたことは間違いありません。


 それでもあれから十年と少し、まだあの人が生きているかどうかは、残念ながら僕にもわからないんです」


 そう言ってから、キラはこちらに頭を下げてから続ける。


「……あの場でこの事を黙ってて、すいませんでした」


 キラの言う『あの場』というのが基地での尋問のことを指していると悟り、翔はその言葉を否定する。


「いや、それは仕方ないだろ。突然氷漬けになってそれから脱出したらそこが十年後の世界で、しかも見知らぬ場所で見知らぬ男達に囲まれて。そんな状況で冷静に受け答えできる方がおかしいと思うけど……」


「……いえ、僕はあの場では一応平静は保っていました。僕がこのことを話さなかったのは、あなた達を巻き込みたくなかったからです」


 しかし翔の気遣いも虚しく、キラはそう冷静に返す。その言葉を聞いて、翔は口を噤む。


 ──コイツ、さっきも俺を逃がそうとしてたし、それ以前に自分が狙われることの影響が基地に及ばないように、精一杯基地から距離を取ってた。


 それらの情報を統合すれば、算出されるキラの性格は知れたようなものだろう。


 ──どこまでも冷静に献身的で自己犠牲。こんな小さい子供なのに、これまでどんな苦しいことを経験してきたんだ。


 先の話を聞く限りでは、時間を越えたとはいえ精神年齢は見た目とそう離れてはいなさそうだ。ということは十歳ほどの子供が、これまでの騒ぎに巻き込まれてもなお、冷静で居続けたということだ。それほどこの子供は大人になった、大人にならざるを得なかったのだ。数多の悲しみや苦しみを経験してしていく間に。


 翔はそう苦々しく思いながらキラを見る。しかし当の本人はやはり平然としており、その冷静さが翔のその推論の正しさを証明していた。


 ──俺はこいつ(キラ)が一体どんな苦しいことを経験してきたのか知らない。


 だからそれを知ったような口調で何かを語るのは、あまりに傲慢なことなのかもしれない。しかしそれでも、翔はキラに語りかけていた。


「……大変、だったんだな」


 その言葉に、キラの眉がぴくりと動く。


 ──俺はこいつ(キラ)が一体どんな苦しいことを経験してきたのか知らない。知ることはできないし、知ろうとも思わない。知らなくて、いい。


 ただ翔は、その言葉をキラに投げかけていた。


「……もう大丈夫だ。頼りないかもしれないけど、俺がオマエを絶対に守る。


 だから安心して、眉間の力も抜いとけよ」


 そう言い翔はキラの滑らかな肌に触れ、その眉間のシワをふたつの指で伸ばして無くす。


 ──こいつがどんな過去を持っているのか、なんて知らなくてもいい。こいつは時を超えた俺の同志だし、英雄(ヒーロー)は困ってるやつをただ助ける、そうだろ?


 そう翔は思い直してから、キラ(同志)に笑いかける。


 翔にそう言われ、キラは俯いて小さな声で


「……はい」


 と答え、そしてそのままそうして顔をうずめていた。


 ──さて、そろそろフィルがここに来てもおかしくない頃だな……っと。


 翔とキラがその洞穴に辿り着いてからもう三十分ほどは経ったであろうか。増援のフィーリニは翔の位置を常に捕捉している。それに加えてフィーリニのあの無尽蔵の体力(スタミナ)だ。彼女がその洞穴に辿り着くまでそう長くない、と翔はふんでいたが……


 ──来ないな。途中で何かあったのか?


 翔は到着しないその増援を訝しみ、ふとその増援の足音でも聞こえないか、と耳をすましたその時──


 その時になって翔は初めて気付いた。その空間の外にいる、大量の嫌な気配に。


「──!」


 翔は慎重に洞穴の出口から外を伺う。しかしその時にはもう既に遅かった。吹雪で白と灰色に染まるその景色の中に、こちらの動きに注意しながら近付いてくる集団がいたのだ。


 ──まずい。見つかっちまった、のか!?


 翔はこの洞穴に隠れるにあたり万全を期したつもりであった。それ以前に奇妙であった。外からは翔とキラがその洞穴に隠れているのは見ることができない。今もこちらとの距離を縮めてきているその集団が、なぜ翔とキラの居場所が分かったのか。


 その答えは翔には分からなかったが、ひとまずこれが危機的状況(ピンチ)なことには変わりなかった。


 ──まずい、どうする……!?


 外では翔を更に追い詰めるかのように吹雪が強さを増しており、翔は自分が紛れもなく追い詰められているということに気が付いたのだった。

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