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BLIZZARD!  作者: 青色魚
第一章・急『初めての遠征』
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第一章28『飛翔』

 その機体の地面を蹴り出し外に飛び出た翔の身体は、すぐに重力に従い自由落下運動を始めていた。それ()を捕まえんと伸ばされる真の手も、もう届かない。翔の身体はみるみるうちに加速していくのだから。


 身体が風を切り始める。ただでさえそれは肌を刺すものであるのに、それが冷気であるならば尚更痛い。翔は目を閉じてしまいたくなる衝動に駆られながらも、何とかその目を見開き遠くの地面を見る。


 一面白の景色であるために高低差が少し分かりにくくはあったが、こうも加速しているようではやはりなかなかの速さのようであった。風を切る音が耳をつんざき、冷気は文字通り肌に突き刺さっていくような痛みを残していく。しかしそれでも、地面への衝突は起こらなかった。


 ──さて、ここからどうするか。


 高速で落下していく翔は飛び降りた後のことについて無策であった。このまま地面に衝突すれば、雪のクッションがあれど大怪我は免れない。想像以上にヘリが高いところまで上昇していたのだ。


 ──このままじゃまずい。


 翔には事前に策を巡らせなかったことを後悔する暇もなかった。超速で落ちていく中、翔は自らが助かる方法を必死に思案するのだった。




 その一方、ランバートは翔がヘリコプターから飛び降りたその後、瞬時に狙いをその機体に定めていた。


「……お荷物はもう飛び降りた。遠慮なくいくぜ」


 そうして射出された氷の礫は、見事にその機体の弱点、エンジン部分へとヒットする。たちまちその機体は黒煙とともに高度を下げていく。


「──っ! 待ってください、ラン先輩! ()は──っ!」


 そうして高度を下げる機体の中、真がそうして何かを叫んだ。しかしその声は周囲の騒音に遮られ、雪の中へと消えていった。聞こえていないはずのその声に応えるように、ランバートが呟いた。


「俺はお前を仲間だと思っていたかったよ、真」


 かつての仲間である裏切り者()にそう言い放ってからは、ランバートはもうそちらの方を見ることもしなかったのだった。


「……さて、ここからが問題だ」


 翔の身体が高速落下していっているのは遠くにいるランバートからも見えた。しかしそれを助ける手段などあるのか。少なくとも所詮凍気(フリーガス)が使えるに過ぎないランバートには何の考えも思い浮かばなかったのだった、


「おい、アンリ! アイツを助ける方法、何かねぇのか!?」


「パラシュートならあるんですけどね~。今となっては渡すことも出来ませんし、そもそもこの気候で使えるものかどうか」


 上空では未だ猛吹雪が吹き荒れていた。それも先程までの静かさからは考えられないほど強く。あの中では例えパラシュートで減速ができたとしてもそれはただ遠くに飛ばされていくことの一助にしかならない。


「……チッ

 あとは祈る、しかねぇか」


 ランバートはそう呟き、未だ落下していく翔の身体を見つめていたのだった。




 ──これは本気でまずいな


 一方落下真っ最中の翔はなおも速度をあげていく自らの身体に危機感を覚えていた。


 ──改めてなんの策も浮かばない。けど、このまま地面に激突して死亡、なんてのはごめんだ


 ならばどうするか。


 ──着地の瞬間に受け身でも取るか?


 しかし翔は武道など所詮学校の授業でかいつまんだほどである。それほど柔道の達人でも無かったし、そもそもこの高度からでは意味が無いであろう。


 ──あれ、なんだっけ。五点接地転回法?


 翔はどこかで垣間見たその知識を思い出していた。翔はきちんとそれを行うことが出来れば下がコンクリートでも三階ほどの高さで助かるものだと聞いたことがあった。しかし当然高度な技術を要求されるもので、こんな土壇場で成功する確率はゼロに思えた。


 ──けど、それに賭けるしかない、か


 対象物が無くとも薄らと翔には分かった。もう地面はそう遠くない。もう間もなく、衝突の時が来る、と。


 ──祈るぜ神様とやら


 全く勝手な人間である、と翔も自分のことを思っていた。先程神様とやらは翔を助けたばかりである。その翔の願いはあまりにも傲慢なものであった。


 しかしそれも仕方ないのだ。翔は所詮、ただの人間に過ぎないのだから。非凡なところといえば、この世界のガスに耐性があるということと、それと……


 その直後翔の頭に閃いたその考えは、あまりにも馬鹿らしいものだった。


 ──多分五点接地転回法(さっきの)より成功する確率は低い。それにこれもぶっつけ本番だ。


 だが、もう翔の心は決まっていた。


 ──これが成功したら、初めて運命とやらに吠え面かかせられるかもな


 そうして翔は雪原に十分に響くように叫んだ。


「『先輩』……か、遠征隊の誰か! それかフィーリニ!


 クッションになるものを持ってきておいてくれ!」


 その叫びが聞こえたランバートらはその言葉の意味が分からなかった。もはや翔の身体は地面からそう遠くないところまで落下してきている。今からそれを持ってきて、落下地点に敷き詰めようとしたところで、間に合うはずもない。


 しかし翔はそんなことを気にせず続けて叫んだ。


「……三十分か、一時間か。


 それくらい先の、()()()()()()()()()()()!」


 そうしてもう目前に迫った地面に向かって、翔は叫んだ。


「……『()()……()()』!!」


 その叫びとともに、翔の身体は消失した。



 ********************



 叫びの直後、翔が目を開けると、そこはいつものような夢の中にいた。


「……これは、成功した、って思っていいんだよな……?」


 この摩訶不思議な夢を見る時は決まって何かが起こっている時であった。そしてきっと今に、後ろから翔は声をかけられるのだ。


「……カケル」


 ほら来た、と言わんばかりに振り返ると、やはりそこには以前夢見たように、フィーリニの顔をした()()がいた。


「お前は何者だ、って在り来りな質問していいか?」


「……私は、何者でもありませんよ」


 答えてくれるかと少しの期待を抱いて翔は質問をしてみたが、やはり上手くいかないようだった。応えてはくれたが答えてはくれなかった。フィーリニの顔で言葉を話すのは少し違和感があるが、今はそんなことはどうでもよかった。


 ──何か、掴んで帰らねぇと。


 この時間跳躍のたびに巻き込まれる空間はどこなのか。このフィーリニの顔をした存在は誰なのか。謎が多過ぎる。幸い言葉が通じるならば目の前のフィーリニに似た何かに質問をしていこうか、と翔は思っていたのだが……


 ──やっぱり無理そうか?


 翔はもう既に諦めていた。目の前の存在が翔の質問に答えてくれるなど、そんなに上手い話があるわけがないと薄々気付いていたからだった。


 だからその後、その「何か」から発せられた答えは、翔を何よりも震撼させるものだった。


「強いていうなら、私はあなた達がいうところの『()()()()()()()()()()()


「……そりゃあまりにも悪い冗談だ」


 目の前の存在はフィーリニに酷似しており、そしてそれが『氷の女王』と名乗った。それはまるで、フィーリニが『氷の女王』だとでも言わんばかりの物言いだ。


「……けど、アイツは……」


 翔がかつて『氷の女王』に立ち向かっていったその時、翔のすぐそばに居たのだ。フィーリニは『氷の女王』ではない。しかし……


「もしかしたら、双子とか……?」


『氷の女王』とフィーリニは同じ顔をしながら別の存在であるのかもしれない。あまりに突飛な考えたが、それを否定することはできない。


「……前回は結局、顔も見れずに意識失っちまったしな」


 翔が『氷の女王』と遭遇したその時、翔 はそれを遠くから観測したに過ぎない。そのためその顔立ちまではしっかりと見れていないのだ。その顔がフィーリニであったことを否定することは出来ない。


 そもそもあんな人智を超えた者の顔を見たことがある者がどれだけいるのかも疑問である。少なくとも基地の者達はフィーリニを見てもそれほど驚いても怖がってもいなかった。彼らも『氷の女王』を見たことがないか、『氷の女王』の顔がフィーリニのものではないかのどちらかであろう。


 ひとまず、目の前にいるこのフィーリニのような何かが、重要な存在であることには間違いないようだ。その一言一句を聞き逃さないように、翔は耳を澄ます。


「……私はあなたが生まれる前からあなたの味方。そして、前の世界であなたを失ったから、私はあなたを助けるためにここに来たの。


 あなたを助けることはこの世界の運命(シナリオ)に逆らうことだけれど、そんなことは私にはどうでもよかった」


 なにやら重大な話をしているようであるが、翔にはいったい何を言っているのか分からなかった。目の前のフィーリニのようなものには、この世界に来る以前に見覚えなどない。ひとまず、このままでは埒が明かないと思った翔はこちらから質問してみる。


「……とりあえず、お前は俺の味方で、『氷の女王』……ってことでいいのか?」


 その言葉に目の前のものはこくりと頷く。こんな所作までフィーリニにそっくりであるから、本当に悪い冗談であると翔は思った。


「……じゃあ聞きたいんだが、フィーリニってやつを知ってるか? お前にそっくりな顔をしてるんだが」


 その言葉に目の前の存在はニコリと笑って何かを口走った。


「────」


 しかしそれを聞くことは叶わなかった。翔の意識が、覚醒に向かっていったからであった。


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