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(〇△〇)←展開について行けない主人公

ポツン。


と、どうみても女の子の部屋に残された白銀の紙を持つ青年、デオルム。そして今は黄金を称える瞳も女の子の部屋に1人という状態のせいか、肌や思考と同じように真っ白になっていた。


(…どうすればいいの、これ?)


これがようやく、復帰し始めた頭で考えられたことである。

一応、荷物は玄関の所でメイドに預かってもらっていた。お金は半分を自分で持っていて、もう半分は預かってもらったバッグの中にある。


「……本当に、どうしたらいいんだ」


暫くして発した言葉は、それこそどうしたらいいのか分からない彼にとっての悲痛な叫び言葉であった。が、《神賢》によるとにかく椅子に座ろう?というアドバイスにより辛うじて動き、椅子に座ったデオルム。

が、それでも緊張感やらが半端ない。そもそも、村を抜けて、森で数日間サバイバルして、そして街についたと思ったらいきなり貴族の子女に気に入られるというのは明らかに可笑しいと言わざるを得ない。特に最後の部分は違和感ありまくりぃ、と感じていた。


コンコンっ。


と、デオルムがどうしようと頭を巡らせていた時に扉がノックされた。


『私よ』


といって入ってきたのはこの部屋の主であるシャルノワだった。相変わらず緋色と琥珀のオッドアイが先に目にはいるが、その次には自然とその長い藍色の髪にくぎ付けのデオルムであった。


「ふぅ…取りあえず、今日のところはこのままこちらに泊まるといいわ。後は…お風呂でも入ってみる?あ、お風呂っていうのは温かいお湯で体を洗うことね」


ここで勘違いしてはいけないのは、現代と昔のお風呂である。

現代の風呂はスイッチ1つでお湯が出来て~と簡単ではあるが、昔の風呂はそれこそ薪をくんで火をつけて、そしてその火で湯を温めて、そしてその湯を維持するためにずっと薪を入れて…とかなり面倒であり、贅沢なのである。それこそ王族でも贅沢と言われるくらいなのだ。だから普段は水浴びで済まし、めでたい時などにお湯を使うのが習慣であり、当時の常識なのである。

…とはいってもそれは魔法が無い世界での概念であり、ここは異世界なので魔法ありきなのだが、それでも贅沢なのには変わりない。要は薪の代わりに魔法を使う人員なのだ。疲労度などを言うならどちらも変わらないだろう。


閑話休題。


どちらにしろ、平民だったデオルムはそう言った事には無縁であり、それもいきなり入るのはそれなりにハードルが高い。それに加えて貴族令嬢より先に入るのは更に難易度が地獄級である。故に正常な反応が…拒否である。それも全力の拒否である。


「い、いえいえいえいえ!自分は大丈夫ですので!」


「でも近くに水場なんてないわよ?」


シャルノワはこの時少しだけ嘘を吐いた。実際、こんな都会に水場なんてない。仮にあったとしてもそれは井戸である。が、こと侯爵家において水場とは水魔法が使える人員である。「水場」は無いが「水人員」はいるというのを貴族なりの言い回しで誘導したのだ。

それに気づかないデオルムは更に慌てる。


「え、ええっと……それじゃぁ…どうすれば…」


「だから先に入りなさい?こう言っては何なのだけれど、女性の部屋を野生溢れる匂いにしたい訳?」


「………遠慮なく入らせて頂きます」


「うん、よろしい♡」


なぜか満面の笑みで答えたシャルノワであった。その時、両目が光った気がしたが無視したデオルムであった。

流石に自身が放つ匂いが貴族の子女の部屋に染みつくのは後々マズいのは平民である彼でも予想が付いた。故に、仕方なくと言った感じで風呂場に向かった。一応お風呂場も部屋に来る前に案内されていたので、《神賢》が頭に残してくれた地図に載っているのが幸いだろう。こうして迷いなく風呂場に向かった。


―――そしてその後ろから彼を追いかける紅と琥珀の眼をした人物が一人。


(よし…誘導完了!これで後は……っていうかよく迷わずにお風呂場に行けるわね…。私でも覚えるのに数日かかったのよ?……覚えるのが得意なのかしら?それとも彼の能力(ヴァルシア)?まぁ、それもずれわか……あ、能力(ヴァルシア)は無いか。じゃないとオーク倒せないし。じゃぁ得意なのね…。は!もしかして私の部屋のあの構造をもう全部覚えてたり!?)


色々勘違いが巡っているが、半分正解で半分不正解というところなシャルノワであった。

が、考えを巡らせながらもデオルムの背中を追いかけ、その後ろを更に追いかける使用人ズ。


ボソボソ。


(まさかお嬢様が…ようやく見つけられるとは…!私は今…感動の渦に…)

(分かりますよぉ…それ。もう私もヒヤヒヤしていましたもの。あの下種貴族よりあの平民の子の方が何十倍もマシですね。人柄的に)

(やはりですか…)

(ええ…後はこのまま―――)


「…何をやっているのですか?」


と、ニコニコしたメイド長に見つかって、悲鳴が屋敷中を駆け巡った瞬間であった。

勿論、この事をデオルムは知らない。《神賢》は知っていたが、それを伝える必要も無い為、黙秘した。








「ええっと…ここだったよな?」


(本当に風呂場に案内無しに着いたあああああ!?え、これ本当にあの部屋の全部を覚えていたり…?)


デオルムは確認のために一言、そして陰で隠れていたシャルノワは本当に案内無しに風呂場まで着いた彼に驚いていた。あまりに驚いて素の部分が出てしまっていたが、それでも表に出さなかった自分を褒めてやりたいシャルノワであった。


「………マナー…とか無いよね?」


(A:特にありません。あまり荒らさない…が強いて言うマナーです)


(無いわよ!)


お互いに無いと主張したが、デオルムには《神賢》しか聞こえない為、シャルノワの言葉は聞こえない。


「…よし!なら入るか」


そういってデオルムは風呂場に入っていった。

勿論、風呂場にはもうすでに湯気が立っており、温かそうな印象がある。


「今、春だからなぁ。たまに寒いから有難い」


一応、ここ異世界にも四季はある…が、それは現代人の感覚であり、平民である彼には収穫期が秋、緑が芽生え始めるのが春という認識だ。つまり、二つしか四季が存在していないのである。

厳密に言うなら、春夏が「命の時期」。秋冬が「死の時期」と言われている。これは主に穀物や収穫などを元に明確化されており、秋や冬には作物は枯れ死ぬという事から、死の時期と言われている。


…閑話休題。


お風呂のお湯は実はシャルノワが《炎帝の魔眼》で沸かしたお湯で、水は屋敷の使用人の1人が水系の魔法を使えるため、そこで調達。

一応、シャルノワはココに来るのは遅くなるだろうなと思い、普段とはかなり高い温度で暖めておいたという裏がある。その気遣いのおかげでデオルムが着いたときには丁度いい熱さとなっていた。


「おお…すごい!っと、まずは…服だな」


そういってデオルムは周りを見渡すと、仕切りのような部分が見えた。そこで着替えるのかな?と考え、そこに回る。すると何やら服を入れるような箱があり、そこに入れると思い、そこに脱いだ服を入れる。そこで改めて自分の服を嗅いでみると、確かに妙に土臭い。


「確かにこりゃ言われるわな…」


そこから更に周りを見てみても何もない為、このまま入るのだろうと思い、風呂場に入る。


(A:ここから簡単な入り方をお教えします)


《神賢》からそう言われてデオルムは指示通りにやっていく。

桶からお湯を汲んで、それを頭から被る。そして近くに会った石鹸らしきものを擦り付けながら垢を落としていく。若干たわしに似ている石鹸は少しだけいい香りがした。


…ここで勘違いして行けないのは肌の硬度である。

これはデオルムが《神拳》の皮膚硬化の力により丁度良く収まっており、普通であれば垢落としもかなり苦痛を伴う。勿論、掃除用のあのたわしより柔らかいが、それでも硬くて痛いのは変わらないのである。新品であればなおさら。が、それに気づかないデオルムはそのまま自分を磨いていく。


「ああ、気持ちよかった」


そう言って改めてお湯を頭から被る。

そして恐る恐るバスタブ…というより3人なら余裕で入れるような風呂場に入る。


チャプン。


「おおおおぉぉぉぉ……気持ちいいぃぃぃ…」


思わずそんな声をあげるほど気持ちいい感覚に陥ったデオルム。確かにこれは贅沢品だと実感した瞬間であった。


―――が、、次の音を聞いて頭が真っ白になる。


ピタ、ピタ、ピタ。


足音が聞こえる。

そして、それは後ろから徐々に近づいてきている。



冷や汗が流れる。


そして後ろを向こうとして―――


「絶対に、コッチ向かないでね…?」



そんな言葉が、耳元に、声と吐息と共に届けられた。

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