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村の不穏と新たな<シンケン>

森の中を白銀の髪を持つ青年が小走りしていた。

森の中であまり走ることはしないが、それは彼に宿る能力(ヴァルシア)がそうさせていた。


「ふッ………ほいっ」


《神賢》


彼に宿る能力(ヴァルシア)で、今彼が唯一使える能力である。そしてソレは彼の住む村へ急いで帰り、荷物をまとめて村を出なければと指示した。


というのも、村長の暗躍により彼自身が消される可能性が非常に高かったが故である。


森を小走りしている間に少年は考える。

もしもこのままのペースで走った場合、彼が村に付くのは夕方頃だろう。仮にそのまま荷物をまとめるとしてもあまりに時間が無さすぎる。

青年はその黄金の瞳を太陽に向けて、そう考えていた。


(A:大丈夫です。“知る”事ならお任せください。この調子で行っても今のところは十分な時間で準備可能です)


《神賢》曰く、リストアップは彼の記憶の中から引き出して、そこから何が必要か、不要かを選定したという。

青年は勝手に記憶を見られて驚き、怒りを示そうとしたが、今は早く帰ることに専念することでその怒りを誤魔化すことにした。



そして青年の予想通りに夕方辺りにアスタルの村に戻ってこれた。彼は大体この時間に帰ってきているが、それは村の夕日が好きだったためにわざわざこの時間に帰って来ていたのだ。

そして森での狩りはこの時間の為の暇つぶしとも言えた。


が、青年が村に帰ってくると、妙に住民がよそよそしい雰囲気があった。

青年自身、《神賢》が言っていることに嘘はないという事は分かっていた。だがそれでも、実際に見て、感じるまで本当だとは信じられていなかった。

村の雰囲気を感じて、ようやく《神賢》の言っていたことが現実味を帯び始めた為、肩に狩った獲物を担いだまま家に急いだ。



よそよそしい村人たちの視線を受けながらも家に帰ってきた彼は、その道中に嫌な予感がしたためにすぐ《神賢》に持っていく物のリストを頭に浮かべてもらう。


まず、小物類はナイフなど。家具は勿論持って行かず、中にある服などを詰める。お金もヘソクリの分すらも掘り起こし、それは全て詰める。布団も掛け布団だけにして、他に狩りの道具やその手入れの物、縄を詰めて、それで《神賢》は十分だと言った。

確かにこれだけあるならどこか町に行くまでには持つだろう。食料は途中で狩れば持つ。身分証は元よりない為、町に付いたら冒険者ギルドに行って身分証を作るのが最適だろう。


結果、家に残ったのはベッドの残骸(掛け布団とかが無いだけの骨組み)、テーブルとイス、収納に使える物だけになった。他は全部彼のバッグらしきものに詰めてある。

そして彼は可能な限り村人に気付かれないように《神賢》に従いながら村を出た。




《神賢》に従いながらなんとか村人に掴まらずに村から出れた青年。だが、彼は何故、同じ村の人が…それも村長が青年を追い出そうとしていたのかが理解できなかった。

それを疑問に思っていたが、それも《神賢》が答えてくれた。


(A:とある貴族の子女が所持者を欲しがっていたそうです。そして大金を約束され、それ故に行動に出たとの事です)


つまり、早い話しが彼は奴隷になる寸前だったという。

そして青年自身にもそれは記憶に比較的新しかった。確かに数日前にその貴族らしき一同がアスタルの村を通った。彼も一度しか見ていないが、見た目はかなりきつそうな人であったのは覚えている。


(A:その方の様です。格好良かったから気に入られたようです)


つまるところ、どこぞの貴族が美人な村娘を見つけたら手あたり次第ヤるといった感覚に近い。

…性別は逆になっているが。

が、青年も確かに一度目を合わせただけでどこか嫌な感じがしたのも覚えていた。悪寒とはそのことだと《神賢》から言質を貰ったので、青年はそのままアスタルの村を去り、近くにある街――リューリスに向かった。


本当は近くに別の町があるが、そちらだと村人たちに感づかれやすく、そしてその例の貴族が治めている町だと言うので、そこは避けた。




――数日後。


森の中を白銀の髪が移り行く。だが、その眼光は穏やかな黄色い目をしている人が通っていた。


今のところは《神賢》によるアドバイスでリューリスまで最短距離で移動出来ている。一応、肉は狩りで何とかしのいでいるし、たまに残っていたパンも挟んで過ごしていた。野菜に至っては山菜があるし水は川から直接飲み、夜は《神賢》によるサポートで快適な寝床を探しながら進んでいた。


「結構凄いなぁ、コレ」


コレというのは自身の能力である。今まで<神賢>が言った事にいままで偽りは全くないのだ。加えて彼が最も望む形で答えを出してくれる。

そうしみじみしていると、目の前から妙な気配を感じた。今まで彼は狩りなどで野生動物は結構狩っているから分かるが、ソレは野生動物が発する気配とはいささか乱暴すぎる感じがあった。


(A:その気配は魔物が発する気配です。この気配はオークのようです)


魔物。

それはファンタジー溢れる世界では定番の敵対生物の一種である。限りなく人型に近いが、それは脂ぎった豚顔という事に限る。普段から腰身一つだけ着けて、それ以外は無し。ジェネラルやソルジャーなどの上位種は革鎧などを着るが、基本的に殆ど裸である。

肌の色もピンクとまさしく豚がしているような色合いで、変異種となるとそれ以外の色合いになる。


そして目の前のオークは本来であれば小さな村は壊滅出来るほどの魔物である。それは高い耐久性があるため、普通の村人では太刀打ち出来ないのだ。が、その中身は美味なため比較的多くの冒険者に狩られる。繁殖性もゴブリンほどではないが、それに追随するほどなので需要と供給もそれなりに成り立っている。


そして今青年が使える武器と言えば弓である。それは今まで彼が狩りをしていたからであるが、彼自身、あまり得意ではない。他にも短剣があるが、それは獲物の解体用な為そこまで強くないのは分かりきっている。


「ああ、どうしたらいいだろうな…」


青年はそう呟いたが、何か打開策があるわけではない。


(A:今はそのまま静かに過ごすことを強くお勧めします)


今は息を殺して隠れておいた方が生存確率が高いと《神賢》より言われたため、その通りにした。


が、ここで彼の見た目が災いしてしまった。

彼の髪はプラチナのような色合いをしているため、森の中では非常に目立つ。それに加えて光を称えるような黄色い目。これで気を引かないのは余程目が悪いか興味ないかのどちらかだろう。


これで森で目立たないかと問われると思いっきり目立つ…故に、オークが青年の方に目を向けて…


「ぶひいいいいいいい!!」


……バレた。


青年は焦った。なぜなら今まで狩ってきた獲物と言えば普通の野生動物だ。…と言っても、そこに熊も含んでいるが、それは十分な準備と罠があってこそだ。


今からオークと戦うには明らかに準備が少ないし、罠も無い。そしてオークが持つ武器として棍棒があるが、それさえあれば周りの木々…までは行かないが、木を折るくらいならすぐに出来るだろう。又は揺らすか。


だから青年はどうすればいいのか分からなかった。今までまともに戦った経験は無い。仮に《神賢》を使っていても、それでダメージが与えられるかと言われたら難しいと言わざるを得ない。

そして青年がそう考えている間もオークは走ってその距離を詰める。走るたびに太ったお腹がブルンブルンと揺れるが、それすら青年にとっては恐怖に感じた。自分もあのお腹の中に納まってしまう…と。


だが、そこで青年は自分のもつ<シンケンの使い手>の一文を思い出した。


――12の能力が収まっている


その内の1つが《神賢》だった。

それの解放条件が「何かを知りたい」という単純な事であった。なら、もしかすると他の能力の解放もそれに連なったことなのでは?と考えた。


そこで青年は一か八かその可能性にかけてみた。

そう思っていつでもあの突進を避けられるようにしながら拳を構える。本当に彼にとっては適当な構えだった。どこか道場に通っていたとかそう言うのも無い。


だが、その構えが、新たな力のキーとなった。


「っ!?」


一瞬。

それこそ刹那の一瞬であったが、電撃が走った感覚があった。


だが、その次の瞬間に体は驚くほど軽くなっていた。加えて、あのオークの動きが明らかに遅く見える。まさかと思って《神賢》に問いただした。これはどんな能力(ヴァルシア)なのかと。すると、こういった答えが返ってきた。


―――《神拳》

―――別名:己が拳にて屈すこと無し

―――この能力(ヴァルシア)を持つ者に最強の格闘術を授ける。拳の状態で戦闘状態に入れば自身の全能力の向上に繋がる。格闘戦にて成長を含む様々な上位補正。

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