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1.

 男が、闇に埋もれる森の中を指差した。

「あっちだ! あっちへ逃げたぞー!」

 いくらまったき円を描く月がその姿を惜しみなくさらしていたとしても、さすがに森の中は闇が深い。月明かりだけでは、闇を選びながら逃げるものを追うことは不可能だった。

 ましてや、相手は見た目に反してとても足が速い。その上この暗闇の中も平気で駆けていく。

 追いつくことはどう考えても無理だと思うのが、普通だろう。

 しかし男たちは諦めなかった。

「これだけはっきりと残っていれば、いつかは捕まえることができるさ。あいつだってずっと走り続けることはできないはずだ」

 そういって、片方の口角を持ち上げた。

 あまりにも妖力が目立つため、逃げる足取りすら残留する自身の気配で追っ手に示してしまう。そんな哀れな妖怪。

 けれど男たちは見逃すわけにはいかないのだ。

 生き延びるためには、あの妖怪の存在を、決して上に知られてはならない。

「犬も放て! 使えるものは何でも使うのだ!」

 そうしてようやく足跡の先端を捉えた。

 しかし意気揚々と足を運んだ男たちを迎えたのは、ふっつり途切れた妖気と、何の変哲もない森の景色だけだった。

「どこに消えたのだ?」

「わからない。しかしいつか力を振るえば、それがまたのろし代わりとなって、我らに位置を知らしめるだろう」

「そうだ。他に漏らさぬように気をつけながら、我らだけでそのときを待っていればいいさ」

「知られなければいいのだ。そうすれば、我らは安泰でいられる」

 男たちは、暗い笑みをそれぞれのおもてに浮かべた。

 そして用は済んだとばかりに、来た道を早々に引き返していった。


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