表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愛されたモルモット

作者: 紫月

久々に書いたので読みづらい点があるかもですが、

よければ読んでください。

偽ってばかりで、生きてきた。

自分を偽って、姿を偽って、感情を偽って…。

もう、何が本当の“自分”なのかさえ解らない。

だけど幸せだと感じていた。

皆が、貴方が居てくれたから。

永遠に今のままで良いと思ってた。

だけど辛くて。

胸が苦しくて。

ねぇこれは恋心?

お友達?

それとも、優しくしてくれた貴方にただ依存してるだけ?


もう何もわからない。


悲しいのは気のせいで。

嬉しいのは勘違い。

友達なんて幻で。

私はここに独りぼっち。


「…あれ…?」

ふと零れ出た涙は、温度を(はら)んでいなかった。

「涙はあたたかいモノだって聞いたのにな…」

そっと頬に触れてみる。

「………あぁ、そっか」

温度が無いのは当たり前だった。

涙なんて流れて無かった。

"感覚"さえも、偽りだった。


大丈夫、大丈夫って嘘をついて生き続けて、最後は自分まで騙してしまった。

「あぁ…"私"って誰だっけ…」

私は本当に"私"なの?

「"私"って、何だっけ…」

私は本当にヒトなの?

偽りの涙が止めどなく流れ、頬をあたたかく濡らして落ちる。


部屋に1つだけの窓から見える、青い空を見上げて静かに微笑(わら)う。


私は恋も友情も友達も知らない。

喜びも悲しみも怒りも知らない。


あるのは遠い過去の僅かな記憶。

生まれたときから弱い身体。

光のように透ける白い髪。

深い森を映したような(みどり)と澄んだ湖のような(あお)のオッドアイ。

肌の色は濃い褐色。

奇異の塊のような私は、人飼いの男に捕らわれた。

その時既に両親は亡くなり、身寄りのない私は逃れる術をもたなかった。

連れてこられたのは綺麗なお屋敷。

そこで広い部屋を与えられて不思議な色の液体を射たれた。

その日から私は特別な実験体(モルモット)としてとても丁寧に扱われた。

望めば服も装飾品も与えられた。

だけど、虚弱な実験体に未来はない。

時が経ち、度重なる実験で衰弱した私は既に用済み。

今はもう起き上がることさえ出来ない。


「やぁ、目が覚めたかい?」

微かな音と共に現れたのは、屋敷の主。

ただ1人私に優しくしてくれた人。

「あ…はかせ…」

「随分と長く眠っていたね。気分はどう?」

静かに、柔らかく、彼は問う。

「悪くないなら続きをしようか」

そう言って透明な液体の入った注射器を(かざ)す。

私に施すいつもの実験。

「…うん」

私は笑って頷いた。

実験を受け入れると、博士が嬉しそうに笑うから。

貴方の喜ぶ姿を見たいから。

なのに今日は私の頭を撫でながら、寂しそうな、苦しそうな顔をした。

私はいつもの笑顔が好きよ。




だから、ねぇ、笑って―――…。






ふと気が付けばそこに博士の姿はなく、ただ広い部屋に私1人。

「はかせ……?」

呼んでみても返事はない。

幻を見ていたのかも知れない。

私にはもう、わからない。


夢か現かわからぬままに瞳を閉じる。

"私"はもうすぐ命を終える。

「あぁ、逝ってしまったんだね……」

広い部屋の中寝台の側に立ち、男は動かない少女の頭を撫でる。

「どの薬も君には効果を示さなかった」

その声は微かに震えていた。

「僕に力が無いばかりにこんな…」

男はその場に膝を着き、動かない少女の頭を引き寄せ額を合わせた。

「出来ることなら君ともっと過ごしたかった……」

じわりとシーツに広がるシミ。

男の肩は震えていた。

「夜空に輝く月の化身のような女性(ヒト)

顔を上げ、少女の髪を一房掬い口付ける。


「永遠に君を愛しているよ」


頬を伝うものを拭うことはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ