愛されたモルモット
久々に書いたので読みづらい点があるかもですが、
よければ読んでください。
偽ってばかりで、生きてきた。
自分を偽って、姿を偽って、感情を偽って…。
もう、何が本当の“自分”なのかさえ解らない。
だけど幸せだと感じていた。
皆が、貴方が居てくれたから。
永遠に今のままで良いと思ってた。
だけど辛くて。
胸が苦しくて。
ねぇこれは恋心?
お友達?
それとも、優しくしてくれた貴方にただ依存してるだけ?
もう何もわからない。
悲しいのは気のせいで。
嬉しいのは勘違い。
友達なんて幻で。
私はここに独りぼっち。
「…あれ…?」
ふと零れ出た涙は、温度を孕んでいなかった。
「涙はあたたかいモノだって聞いたのにな…」
そっと頬に触れてみる。
「………あぁ、そっか」
温度が無いのは当たり前だった。
涙なんて流れて無かった。
"感覚"さえも、偽りだった。
大丈夫、大丈夫って嘘をついて生き続けて、最後は自分まで騙してしまった。
「あぁ…"私"って誰だっけ…」
私は本当に"私"なの?
「"私"って、何だっけ…」
私は本当にヒトなの?
偽りの涙が止めどなく流れ、頬をあたたかく濡らして落ちる。
部屋に1つだけの窓から見える、青い空を見上げて静かに微笑う。
私は恋も友情も友達も知らない。
喜びも悲しみも怒りも知らない。
あるのは遠い過去の僅かな記憶。
生まれたときから弱い身体。
光のように透ける白い髪。
深い森を映したような碧と澄んだ湖のような碧のオッドアイ。
肌の色は濃い褐色。
奇異の塊のような私は、人飼いの男に捕らわれた。
その時既に両親は亡くなり、身寄りのない私は逃れる術をもたなかった。
連れてこられたのは綺麗なお屋敷。
そこで広い部屋を与えられて不思議な色の液体を射たれた。
その日から私は特別な実験体としてとても丁寧に扱われた。
望めば服も装飾品も与えられた。
だけど、虚弱な実験体に未来はない。
時が経ち、度重なる実験で衰弱した私は既に用済み。
今はもう起き上がることさえ出来ない。
「やぁ、目が覚めたかい?」
微かな音と共に現れたのは、屋敷の主。
ただ1人私に優しくしてくれた人。
「あ…はかせ…」
「随分と長く眠っていたね。気分はどう?」
静かに、柔らかく、彼は問う。
「悪くないなら続きをしようか」
そう言って透明な液体の入った注射器を翳す。
私に施すいつもの実験。
「…うん」
私は笑って頷いた。
実験を受け入れると、博士が嬉しそうに笑うから。
貴方の喜ぶ姿を見たいから。
なのに今日は私の頭を撫でながら、寂しそうな、苦しそうな顔をした。
私はいつもの笑顔が好きよ。
だから、ねぇ、笑って―――…。
ふと気が付けばそこに博士の姿はなく、ただ広い部屋に私1人。
「はかせ……?」
呼んでみても返事はない。
幻を見ていたのかも知れない。
私にはもう、わからない。
夢か現かわからぬままに瞳を閉じる。
"私"はもうすぐ命を終える。
「あぁ、逝ってしまったんだね……」
広い部屋の中寝台の側に立ち、男は動かない少女の頭を撫でる。
「どの薬も君には効果を示さなかった」
その声は微かに震えていた。
「僕に力が無いばかりにこんな…」
男はその場に膝を着き、動かない少女の頭を引き寄せ額を合わせた。
「出来ることなら君ともっと過ごしたかった……」
じわりとシーツに広がるシミ。
男の肩は震えていた。
「夜空に輝く月の化身のような女性」
顔を上げ、少女の髪を一房掬い口付ける。
「永遠に君を愛しているよ」
頬を伝うものを拭うことはしなかった。