第十一話「とうとうギャグ路線から外れてしまった!?」
ミラ・ストック
もと諜報班のレイヴン・アフリカ地区長。いつも着古したパーカーと、棒キャンディーをいつも舐めているのが特徴。一応副業はしているらしいが、一体何なのかは不明。顔には大きな刺青が入っている。あと語尾がカタコトになっている。
特殊能力は『写死鏡』。能力を発動しているとき彼女と目を合わせると姿を写された揚句、写されてから1時間以内に解除されないと死んでしまう。本人は時間制限のあるこの能力に不満を持っている。
ちなみにレイヴンへ行ったのは『気ままな生活を送りたいから』らしい。
「さぁて、連絡は終わったことだしあとはやつが泣きわめくのをじっくりと眺めるだけか」
「それ主人公が言う台詞か?」
怪盗ブラッドが奈落の底へ行ってから十分後、私は私情を終えてから(写真撮影とか写真撮影とか)のんきに寝ていた二人を起こしていた。
悠也君はすぐ起きたが、琥珀は……死んでるね。起きてはいるだろうけど、ボケーっとしていた全く反応を示していません。傍から見れば廃人状態。
「とりあえず彼は自分の手でグチャグty―――もとい殺りたいんだよ。そのためには嗅覚の良い琥珀が必要なんだけど」
「遠まわしにこいつの事、犬といっているよな……?」
「え?違うの?」
「間違っていはいないが、お前が言うかって話」
むぅ犬っていうより狼の方が正しいかな?てか野生動物としてもう少し敏感に生きようよ。低血圧はいかんぞ、低血圧は。
「琥珀をどうにかしないと、ね。何かいい案ある?」
「冷水ぶっかけるとか?あとは食べ物を与えるとか」
「なるほど」
冷水はすぐに用意できないから栄養分か。何か食べれるもの……。
「○10○0しかねぇよ!」
「何故に○10○0!?」
いやぁ最近筋肉痛ひどいから
「ほら~琥珀~○10○0だよ~」
「レモンて匂い的にきついんj―――」
「………… (くんくん)」
え?もう手遅れなんだけど
そしてこちらは―――
「………… (とことこ)」
「だからなんでさっきからついてくんだよ!?」
最初のときと変わらずひたすら歩いていた。
「……何でやんないわけ?」
「え?」
「だからぁ何で殺らないのか聞いてんだろうが」
「いやぁそのなんとなく?」
「こいつもう駄目だ」
まァ死なずに済むだけいいかもなー、と石を蹴りながら歩く彼を見て
「(前にどこかであった気がするんだよなぁ)」
いろいろ悩んでいるあやめは気付かなかった。彼女にめがけて降ってくる大量の針に。
「…………僕に何か用ですか?」
「俺はやってねぇっ。やったのは亜希だから。だから得物を向けてくるな」
…………ごめん。まさかダメージがそんなにでかいとは思わなかった。犬の嗅覚ってなめちゃいけないね。
「まぁまぁこれで琥珀の低血圧対策になって良かったじゃない」
「どこがですが。ところでさっきから気になってたんですけど……。なんでもみじついてんですが?」
「すべては亜希に聞け」
「寝てたお前らが悪い」
あまりにも起きないからビンタしてあげただけじゃないか。生きているだけでも十分いいことだよ。
「ところで怪盗ブラッドはどこ行ったんですか」
「下」
「え?まじで?こまったことになったなぁ……」
「困ったって何が?」
「実は……」
「何人かで罠張ってしまったんだよな」
「っっっ!!おい、そこから離れろっっ」
「…………え?」
見上げるとたくさんの針の雨が。あやめは急いでよけようとするが、足の痛みに思わずうずくまってしまう。
「(やばいっ。さっき足ひねってしまったかも……っっ)」
絶体絶命のピンチ。自分の最期に若干怨む。誰にも見られないところで死んでしまうなんて。前にもこんなことがあった気がする。リンチに遭っていたんだっけ?毎日毎日ぼこられてもう大変だったなぁ。あの時助けてもらってなかったら絶対死んでいたよぉ。懐かしそうに過去を振り返っているあやめ。殺し屋の性なんだろうか、妙に落ち着いている。というより明らかな現実逃避(転倒から約0.5秒)。
走馬灯を見始めようとしたとき――邪魔された。背中を勢いよく押されそのまま転がり込む。
「ぅわっぷ!?」
あれ!?自分助かった!?、と驚きながら起き上ると少年が近くで倒れていた。
「え?」
押さえている足を見ると針が刺さっていた。そこからあふれ出す見慣れた紅い――血。
「だ、大丈夫!?私をかばって……」
「いたた。……普通に軽く刺さっただけだし。こんぐらいだったらどうにかなる」
「どうにかなるってレベルじゃないよぉっ!?すごい血出ているし!!」
「うるさい。もう治っているからこれ以上騒ぐな」
「こんなところで見栄張る必要なん、か……」
包帯を取り出して傷口を確認したら、さっきまで止まらず出ていたのにもう止血されていた。あやめが驚きのあまりに声を出せなくなっている今でも足は再生をしている。五秒もかからないうちに完治してしまった。
「ちょっとわけありの体でな。お前らもそうだろ?」
「なんでそれを……」
「情報網はひろいんでね。てかお前が着地するとこ見りゃ同じだってわかるだろ、バァーカ」
「見られちゃった?」
落下したとき自分の『発火能力』を利用し来ていた上着をバルーン状態にして着地したのだ。
「さっきのはあの時と同じように能力を応用しただけ」
「へぇ~そうなんだ……」
「ていうか…………っっ」
「はい?」
「何ボケーってしたんだバカ!!自殺願望者か!?それとも××××系女子か!?お前みたいにとろいやつは××××して××××になってしまうぞ!!」
助けてもらったのはうれしいけど、その言い方はないのでは?聞いてて腹が立ってくる。
「自殺願望者じゃないっっ。ちょっと足ひねっただけだもんっっ」
「足ひねったことを言わない時点でバカだろ!?ったく、しょうがないなぁ」
そう言っていきなり背中を向けてきて、何をしたいのか良く分からないあやめ。
「えぇと、これは……」
「…………おんぶってやるよ」
「いいの!?私重いよっ。それにけが人に無理をさせちゃいけないよぉ」
「けがは治ったし、お前が連絡する可能性を考えて見張ることにしただけだし。さっさと乗れ」
「う~じゃあ失礼します」
これ以上やっていると誰かに見つかるかもしれないので、渋々のる。
「(お?予想外なことに髪の毛、気持ちいい)」
ずっともふもふしたいなぁ。シャンプー何使っているの?うわっやばいつぼにはまったわ、ここ。みたいな感じで触っていたら、髪紐を解かれた。
「髪邪魔だったら早く言えよ」
「あぅ~~。気持ち良かったからつい……」
「知るか」
そんなわけでひたすら進む二人。さっきから同じ道を通っているわけだが、暗いせいで気づいていない。
それにしてもきれいな顔しているなぁ。こういうの美形っていうのかな?泣きぼくろ発見。泣きぼくろの人なかなか見ないから、これを機にじっくり見てやろう。髪をかきあげて、見ようとするが今度ははたかれてしまった。
「なにをしたいのさ?」
「か、髪の毛邪魔そうだったのでかき上げてあげようかな――って」
「勝手なことしてくんな、××××のくせに」
「口が悪いと女の子にもてないよ?」
「もてなくていいし」
先輩達と比べればまだいい方だけどねー―って笑いながらつぶやく。なんだか懐かしい気分だ。おかしいな、初めて会ったはずなのに。
「ねぇねぇ何で怪盗やっているのぉ?」
「今度は質問攻めかよ」
「なんでなんでぇ?」
「理由は……言わなきゃいけない?」
「けが人命令です」
「…………あの人に会いたかったから (ぼそっ)」
「え?聞こえない」
「て、適当にやっていたら周りに怪盗呼ばわりされて、ノリでそうしただけだっつーのっっ!!」
そう答えてから、ブツブツ文句をいいだす怪盗ブラッド。怪盗を名乗りだした理由を聞いて、とあるバカ上司を思い出す。私がいないことばれて―――るなんてことはないか。あの様子だと処刑方法で頭いっぱいいっぱいだろうし。うーん誰か気付いてほしいなぁ。
「もし絵がうまく盗み出せたらブラッド君はどうやって逃げる気だったぁ?」
「いやそれ本名じゃないから。普通にだぁーーっと来た道戻って……って何で自分ばっかり答えなきゃいけないんだよ」
「それはそうだったねぇ。あ、もう足大丈夫だから下ろしていいよぉ」
「ほらよ、っと。あー久しぶりに重たいもん担いだわ」
「わ、私っ体重は平均ぐらいだよぉっ」
「あれで平均だったら、自分すっげー体力ないことになるんだけど、な… (フラっ)」
いきなり頭を押さえて壁にもたれだす。まさか傷が疼きだしたのだろうか?だったらけが負った足を押さえるはずだ。原因不明の事態に、私が重いのが悪かっただろうか、と見当違いな心配をしだす。
しかし理由は傷が疼いたのでもあやめの体重でもなかった。
「やばい…貧血起こした」
「えぇ!?貧血ぅ!?」
「大丈夫大丈夫…。常備薬として、ここに…」
そう言ってポケットの中を探すが
「…………無い」
「え?ないって……」
「どこかで落としたかも知んない…」
「だ、大丈夫なの!?」
「貧血といってんもそんなにひどくないから、大丈夫。うん、大丈夫」
ずっと大丈夫大丈夫……とぶつぶつ呟いているのが、少々不安だが本人がそういうのなら大丈夫だろう。そうほっとしたが
「 !!物陰に急いで隠れて」
「強く引っ張るのやめてくれ……」
向こうから出てきたのは諜報班(柚乃葉がいるため今は代理ではない)の時雨藍暉だった。
「んー。見つかんない系なんだけどー―。暇だからいたずらしようと思ったのに、悠也さんたちもうされていた系だし。一体誰だよ、あんなことする奴――お?そこにいるのは誰系ですかぁ?」
「(っげ。もうばれた!?)」
このまま隠れていたいが、相手は14にして諜報班のトップ。下手なことして二人いるのがばれたら、確実に殺られる。それだけは絶対に避けたい。流石にこんなところで死なせるのか可哀相すぎる。彼がいることがばれないようにしなければ。
相手が複数じゃないのを確認すると、なぁんだ、敵じゃなかったか、みたいな感じ出てくる。
「あれ?時雨君じゃないですかぁ。もうびっくりしちゃったよぉ。こんなところでどうしたのぉ?」
「誰だろうと思ったらあやめさんじゃあない系ですか。実はこっちに怪盗ブラッドがいるって情報を聞いたんで、来てみた系なんですよ。そういうあやめさんこそどうして地下通路に?」
「えへへ。私はちょっと事故っちゃってね」
「あやめさんらしいオチ系ですねぇ。途中で獲物に遭わなかった系ですか?」
遭わなかったもなにも今近くにいるのだが、言ったらいけない。
「えー見なかったよぉ。もしかしたら入れ違ったかもしれないなぁ」
「そう系ですかぁ。ボクは一応確認のためにいってみますね。そうそう、ここから真っすぐ行けば出口になる系ですよー」
鼻歌交じりに去っていく藍暉。どうにかしらは通せたようだ。プロをごまかせるなんて自分すご―――
「すごいなんてことない系ですよぉ。あーやめさん♪」
後ろにいないはずの藍暉が立っていた。
「いつの間に……っ」
「あんなんでごまかせるわけない系じゃないですかぁ。それに―――」
指を鳴らして出てきたのは、大量の白蛇。何十本もの蛇が壁を、床をつたいながらうねっている。
やられた。おそらくこの蛇の群れは彼の能力で作られたものだろう。そして蛇を通してブラッドの存在に気付いたのだ。
「まぁうれしいことに、自ら出てきた系のカエルさん」
「ボクと少し遊ばない?」
今までの出来事が笑い飛ばせるぐらい最悪の事態を招きいれることになってしまったのだった。