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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第1章 「呪われた少女」
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第5話 昼休み

 水上さんは1組で、近藤は6組とクラスは別々だった。

 そして、水上さんは茶道部と書道部を兼部していて、放課後は毎日、部活動で忙しい人なので、会うのは登校時と下校の時だけだと近藤は思っていた。

 そのため、3時間目の休み時間にランチを一緒に食べようとのお誘いのメールが来た時は正直予想外だった。

 4時限目の授業なんて頭に入らなかった。

 4時限目が終わり、昼休みになると、さらに予想外の出来事があった。


 彼女がわざわざ近藤の居る教室まで、近藤を迎えに来たのだ。しかも、教室の中まで。

 そして、小野寺さんの目の前で、近藤に声をかけると、近藤の手を取った。

「さぁ、早く行きましょう。場所がなくなっちゃいますよ」

 そう言うと、近藤の手を引いて、近藤を教室の外へと連れ出した。


 屋上へ向かう途中、彼女の方から声をかけて来た。

「こうした方が、恋人らしいかなと思いまして」

「確かに、そうですが・・・.」

「私、やるときはとことんやるタイプなんです。それとも、ご迷惑でしたか」

「いや、それは・・・ないです」

「本当ですか。小野寺さんの目の前でしたよ」

 どうやら、彼女は確信犯的にやっていたようだ。

「そっ、そうですね」

「見ましたか、彼女のこと」

「怖くて見れませんでしたよ」

「そうですか。彼女、少し嫉妬していましたよ」

「本当ですか」

 もし、小野寺さんが近藤と水上に嫉妬しているとしたら、小野寺さんは、近藤に少しは気があることを意味する。それは近藤にとり良いニュースだった。

「嘘です。私も緊張していて、近藤君の顔しか見れませんでした」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 既に学校の屋上には、多くの人が来ていた。

 それは、いつも、教室で食べていた近藤にとって未知の光景だった。


 女性だけのグループや男女混合のグループ。

 そして、一番多かったのが男女二人だけのグループ、つまり恋人同士だ。


 良い場所は既に取られていて、直ぐに、良い場所は見つからなかった。

 どうやら、皆、早めに来て場所取りをしているようだった。


 比較的ましな場所を見つけると、一緒に並んで座った。

 近藤は、無言のまま、さっそく弁当を広げ、食べ始めた。


 春の日射しは暖かく。風も穏やかだった。

 隣に座っている水上の髪が穏やかで優しい風にふわりとなびいていた。

 水上がお弁当を食べている姿は、特別なことは何もやっていないのに、不思議な程に可愛らしく絵になった。

 近藤は、水上は何をしても綺麗だなぁ、と思いながら、自分が彼女には酷く不釣り合いに感じられた。


 最初の数分は沈黙の時間が続いた。


 姉や妹もいるし、女友達もいるし、部活でも女性と話すことは多い。

 しかし、その会話は、兄妹の会話であり、友人としての会話だ。

 正直、恋人同士の会話なんて判らなかった。


 最初に口を開いのは水上だった。

 彼女は自分のことをゆっくりと話し始めた。

 趣味の話から家族の話。

 彼女は思ったよりも気さくな性格で、途中から思いのほか会話が進んだ。


「その・・・近藤さんのお弁当は誰が作っているんですか」

「自分で作ってます。両親が共働きで、一日中忙しくて。まぁ、小6の妹以外は、みんな良い歳ですけど」

「毎朝ですか?」

「毎朝。家族の分も作ってます」

「大変じゃないですか」

「大変ですけど、慣れますよ。それにお金もらえるからね」

「そうなんですか」

 なぜ、がっかりした様なリアクションをするのだろうか?

 そして、何か非常に言い辛そうだ。


「その・・・少し作ってみたんですけど・・・食べていただけますか」

 そう言うと彼女はカバンから小さな弁当箱を取りだした。

 中には、綺麗にできた手作りのだし巻き卵などが入っていた。


 出し巻き卵は、自分の弁当にも入っている。それは、さすがに出しづらいだろう。

「僕のところにもだし巻き卵入っているので、交換しましょう」

「そうですね」


「いただきます」

 互いに互いのだし巻き卵を交換して食べる。

 水上さんのだし巻き卵を食べてみると・・・.美味しい。

 とろとろのだし巻き卵だ。自分のだし巻き卵が、佐藤が多めで甘めの子供向きだとした、水上さんのはお酒が入っている甘さ控えめの大人向けでしょうか。


 う~ん、本当にいろいろできる人だな。これで運動もできたら、完璧超人ではないだろうか。

 それにしても、彼女がここまで恋人の振りをするとは意外だった。

 もっと片手間な物だと思っていたのだが・・・・・・


「美味しいね」

「近藤君のも美味しいよ。近藤君はこういうのが好きなんだ」

「これは妹用に甘めに作ったからだよ。僕は水上さんの味の方が好みかな」

「良かった喜んでもらえて」

 そう言って水上さんはほほ笑んでくれた。

 それにしても、何なんだろう。この空気は。

 傍から見たら完全にラブラブのカップルではないだろうか。


 二日目ぐらいで交通事故で死んじゃうかと思ったけど。

 なんか良い感じじゃないだろうか。

 もしかして、まさか、マジで僕に惚れたなんてことはないだろうか。


「ごめんなさい。いろいろと迷惑掛けているでしょ。私、今のところ、これくらいしか近藤君に恩返しできなくて・・・.でも、近藤さんが自分で作るんだったら必要ありませんね。私、どうしたらいいんでしょうか?」


 どうやら、恋人の振りではなかったらしい。彼女なりの恩返しだったようだ。

 自意識過剰だったな。近藤は自分のことが急に恥ずかしくなった。


「気にしなくて良いですよ。僕も割と楽しんでいますし」

「そうですか。お優しいんですね」

「いや・・・.それ程でも・・・.」

 非常に照れくさい。


 一方的に相手の好意に甘える関係というのは、意外と苦しい物だ。

 僕としては彼女との関係を円滑にしたいのだが・・・何か彼女にしてもらえることはないだろうか。


「そうだな。終わったら・・・小野寺さんとの仲を取りもってよ」

「それで良いんですか?」

 近藤は頷いた。

「判りました。頑張ります」

 彼女は頑張ることを近藤にアピールするために可愛らしく小さくガッツポーズをした。

 可憐な容姿以外にも、こういう仕草が男心をくすぐるのだろう。

 彼女の少し明るくなった態度を見て、何か少し関係が前に進んだような感じがした。


「その・・・.甘えついでに、もうひとつ、お願いして良いですか?」

「何ですか」

「今週の土曜日、時間がありましたら・・・その・・・デートしませんか」


 その言葉を聞いて、驚きのあまり、近藤は思わず、食べ物をのどに詰まらせてしまった。



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