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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第3章 多摩の魔犬
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第2話 騒がしい朝

 今日の朝食は、洋風でパンとスクランブルエッグとサラダ。

 昼の弁当は、昨日の晩御飯の残りと冷凍ハンバーグだ。いや、それだけじゃ、手抜きかな。ハンバーグにひと工夫が必要だな。


 近藤信也は、朝起きて、ベットの中で最初に考えたのは、今日の朝食と弁当のメニューだった。

 そして、ベッドから素早く起きると、朝食と弁当を作るべく台所に向かった。


 朝食を自分で作るのは、別に両親が居ないわけではない。

 別に料理が好きな訳ではない。

 単に他に作る人が居ないだけだ。


 両親は仕事が忙しくて、家事は子供任せ。

 お小遣いを多めに貰えるので、悪い話ではないのだが、小学校の高学年になると自分で作るようになった。そして、それは今も続いていた。


 スクランブルエッグを作っていると、携帯電話が鳴った。


「信也。朝食できた」

 学生結婚した挙句、離婚して戻ってきた出戻り社会人の長女、真桜まおからだ。

 離婚の原因は、仕事と家庭の両立で夫と揉めたため。バリバリのキャリアウーマンで、双子の子供が居るんだが、母親の手料理を週末しか作らない。

「あと5分くらいで出来る」

「判った。すぐ起きる」


 数分後、姉が、子供たちと一緒に2階から降りてきた。

 長くてきれいな髪。そして、女性らしい凹凸のある体...

「姉さん。ちゃんと服着てよ」



 姉は、弟の目も気にせず下着姿で家の中をうろうろする。

 これが初めてではない。

 暑い日や風呂上がりは、裸でうろつくし。

 酒を飲んで帰った日は、暑いのか、大抵、裸か下着で寝る。

 それなりの容姿なのだが、男勝りでガサツなためか、昔から彼氏と長く続かない。

 そして、結婚したかと思ったら、子供を作って直ぐに離婚。悪人ではないが、ある意味とんでもない姉だ。

  

「なんだよ。家なんだから、良いじゃないか」

「まがりなりにも、思春期の子供が居るんだよ。少しは気を使ってくれよ」


 生まれて16年の付き合いだが、弟の言うことがまともに聞かれた例はない。

 しかし、無駄だと判っていても、何も言わないと、容認したことになるので言うだけ言ってみる。


「何だよ。お前は姉ちゃんの裸見て欲情するのか」

「...」

 明らかに、弟を茶化して喜んでいる。


「里桜が真似したらどうするんだよ」

「大丈夫だよ。里桜は私と違って、しっかりしているから。それより、早くご飯出してよ」

「はいはい」


 信也に不満があるとしたら...姉たちが手伝わないこと。

 近藤家には、高校生の自分以外にも、社会人と大学生の姉が2人、小学生の妹が1人いるのだが...姉たちは、ほとんど家事を手伝ってくれない。

 その点、妹の里桜りおは、小学校6年生でありながら、姉たちより家事ができる。

 大半の食事は、兄である信也が作るのだが、掃除洗濯などは、ほとんどやってくれる。

 しかも、先生(僕)が良いためか、学校の成績も優秀。

 頼りになるしっかりした自慢の妹だ。

 あえて難を言うとしたら、身長が高すぎる点だろうか。

 168センチ。街を一緒に歩いていても、困ったことに小学生の妹と高校生の兄が歩いているようには見えない。


 そんなことを考えていると、里桜は早朝のジョギングから帰って来た。


「ただいま。」と里桜が元気よく挨拶をする。

「おかえりなさい」

 双子のまなゆうが返事をする。

「おはよう」と姉の真桜は、新聞を読みながら返事をする。

「美桜ねぇちゃんは?」

「午前の授業が休講だから起こすなって」

「そうなんだ」

 そう言って、席に着くと「いただきま~す」と言って朝食を食べ始めた。


       ◇       ◇       ◇


「お兄ちゃん」

 里桜が朝食を食べながら、台所に居る信也に声をかけてきた。

「なんだ。里桜」

「今日こそ。渡すの?」

「渡す? 何か提出物あったかな」

 里桜が何のことを言っているか判らなかった。


「本人が完全に忘れてるよ。駄目だな」

 どうやら、姉の真桜は判っているようだ。

 判っていないのは、当の本人だけ。


 しびれを切らし、里桜が答えを言った。

「お兄ちゃん。ラブレター書いていたでしょ。渡さなくて良いの?」


 確かに、1週間ほど前、ラブレターを書いた。

 相手は、憧れの存在であるクラスメートの小野寺さん。

 ショートヘアが似合う活動的な女子で、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、さらに家柄も良いというまさに、自分と対照的な存在だ。

 入学式の時に初めて会った時以来、僕は彼女に熱を上げていた。

 だが、ほぼ100%振られる恋。

 このまま、想いを伝えられないまま、過ごすのか。

 それとも、告白だけして玉砕するのか。


 想いを知られないまま、彼女の記憶にすら残らず、存在すら認識されないのが一番つらい。

 そう考えて、とりあえず、手紙を書いたのは良いが、渡せる機会、いや、勇気がないまま一週間経ってしまった。


 それにしても、なんで、そんなことを知っているんだ。


「今時、お兄ちゃんが、可愛い便箋を買うなんて、それくらいしか浮かばないでしょ」

 完全に行動と心を読まれている。


「別に良いだろ。それより早く朝食食べろよ。片付けもあるんだから」

 それしか、言い返す言葉が浮かばなかった。


       ◇       ◇       ◇


「いってきます」

「いってきます」

 里桜と信也は、いつも通り家を出た。


「...いってらっしゃい...」

 いつも通り、2階から弱弱しい2番目の姉の返事が聞こえる。


 里桜はマウンテンバイクの後部に付いている立ち棒を使い、信也のマウンテンバイクに立乗りする。

 里桜とは通学路が途中まで一緒なため、2人乗り(違法)で途中まで妹を送って行くの日課だった。

 少子化のために、一番近い小学校が廃校になり、妙に遠くの学校に行くことになってしまったためだ。


「出っ発~~っ」

 里桜が、かけ声をかける。

 しっかりしているのに、こんなところは、妙に子供っぽい。 

「はい。はい」

 信也は自転車をゆっくりと出発させた。


 朝の少し冷たい空気が、肌に心地良い。

 東京というと大都会なイメージがあるが、郊外である多摩には畑が結構残っている。

 さらに、近藤の住んでいる場所は、駅から遠い上に、大規模な都の公園を造る計画があるため、農地の宅地化はこれ以上進まなかった。

 そのため、近藤の住んでいる場所は、東京とは思えないほどの田園風景が残っていた。


 近藤は、春の新緑の中、林や畑が多く残る宅地の中を、軽やかに自転車を走らせた。

 

       ◇       ◇       ◇


「さなえちゃん、ようこちゃん。おはよう」

 自転車の後ろに乗っている里桜が通学途中の友人を見つけ、声をかけた。

 たびたび、さなえちゃんとようこちゃんは、たびたび家に遊びに来る里桜の同級生だ。

「おはよう。里桜ちゃん」と友人たちは手を振って返事をする。


 友人の脇に自転車を止めると、里桜は自転車から飛び降りた。


「おはようございます。里桜ちゃんのお兄ちゃん」

「おはよう。さなえちゃん、ようこちゃん。今日も、家の里桜をよろしくね」

「任せてください」と胸を張って返事をする小柄なさなえちゃん。

 積極的でいつも元気な女の子だ。対して、ようこちゃんは、少し大人しめの女子だろうか。

「じゃあねぇ、お兄ちゃん」

「じゃあな」

 そう言うと、信也は自分の学校へと向かった。


       ◇       ◇       ◇

 

 近藤信也が通っている都立小金井中央高校は、家から自転車を飛ばして15分ぐらいのところにある。

 小金井街道を通る方法もあるのだが、トラックも多く、排気ガスが酷いため、多くの生徒が小金井公園を横切って学校へ行く。

 いつもは、朝の清々しい空気が吸える小金井公園だが、今日は感じが違った。

 入口には警察の車両が3台ほど縦列駐車をしていた。


 公園の中に入ると、林の中に通学途中の高校生や散歩途中の人たちが群がっていた。

 林の木々の間は、警察により一画にロープが張られ、その中では、良くテレビで見るような刑事と鑑識が辺りを調べていた。


 遅刻の可能はあったが、このような事態を見逃すほど、真面目ではない。

 自転車を転がし、近づいてみると、群衆の中には、小学校の時からの知り合いで同じ部活の星野守が居た。

 男から見ても、美少年で、あだ名は、子供の頃から「王子様」。

 そして、その側に居る近藤は、女子から親愛の情を持って、裏で「家来」「おまけ」「金魚の糞」などと言われていた。


「何があったんだ」

「人が倒れていたんだってさ。なんでも、噂の魔犬が出たって話だけど」

「死んだのか?」

「いや。でも、意識不明らしい」


       ◇       ◇       ◇


「おはよう。岡田」

 鑑識より後から来た40代の長身の刑事が、30代の後輩らしき細面の人物に声をかけた。

「おはようございます」

「お前、速いな」

「先輩が遅いんですよ。何してんたんですか」

「私語は禁止だ。被害者の身元は」

 単純に寝坊だろうと岡田は思った。

 先輩刑事である多村は、事件に対しては熱心なのだが、規律を重んじる警察官にしては非常にだらしない生活をしていた。

「所持品から杉山賢治、20歳です」

「ニートか。予備校生か」

「予備校のカードを持っているところから、たぶん予備校生ですね」

 現在、杉山は意識不明で病院に運ばれており本人の口からの確認は取れていないが、ほぼ間違いないことだろう。

「今回も、ハスキー犬ってやつか」

「そうです」

 鑑識が発見した杉山の衣服に付いていた毛の特徴から犬種は特定されていた。

「夜中に、あんな場所で何をやっていたんだ。やっぱり、あれか」

「あっちを見てください」

 示した方向には、無残に切り裂かれた猫の死体があった。

「二十歳で、予備校生ってことは、2浪か。ストレス解消に、夜中ネコを殺していたところを犬に襲われたってことか」

「今までとケースと同じですね」

 若い刑事が言った。

 事件の被害者たちには、共通点があった。

 動物を虐待している点だ。

 3件連続となるとさすがに、偶然とは思えない。

 さらに、非常に目立つ大型犬であるハスキー犬の野犬の目撃例もない。

 そうなると、出て来る結論は、何者かが、ハスキー犬を使って襲わせているということだ。

 被害者が動物を虐待して居ることを考えると、動物愛護者の過激な行動とも考えられる。


 事故ではなく、事件となれば、当然警察内、そしてマスコミでの扱いは大きくなる。

 被害者が既に3人も出ているので、初動捜査が遅いなど、警察はマスコミに非難されることになるだろう。

 当然、その非難は最終的に自分にも向く。岡田は少し頭が痛くなった。


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