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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第1章 「呪われた少女」
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第3話 下校

 その日、いきなり、彼女と一緒に下校することとなった。

 考えたのは、当然、星野と姫川だ。

 付き合っていることを、周囲に暗に教えるのが目的だが、どう考えても近藤を使って遊んでいるようにしか感じられない。

 

 近藤は自転車通学。対して、水上は電車通学なので、駅まで一緒に歩いて帰ることにしたのだが・・・・・・


 話すことがない。

 話しかける勇気もない。


 近藤は自転車を転がしながら、水上に付いて行くだけだった。

 気を利かせて、水上さんの方から話しかけてくれることを近藤は期待した。だが、水上も何も話さずにただ黙々と歩くだけだった。


 星野や姫川が居た時は、平気で話せたのに、2人だけになった瞬間、近藤は何も話せなくなった。

 偽りの恋人なのに、緊張で話せなくなるとは、想像していなかった。

 近藤は自分のことを、少しはやればできる男だと思っていた。でも、実際はダメ人間だった。

 もし、本当の恋人だったらどうなっていたのだろうか。

 星野が言っていた、本命と付き合う際の練習になるというのは、もっともな指摘だった。

 近藤は、自分はもう少しこういう状況になれておくべきだと思った。


 気不味い、長い長い沈黙の後、どうにか駅にたどり着いた。


「今日はここでお別れ。明日、約束通り8時にね」と近藤は別れの言葉を告げた。

「恋人と別れるのに、それだけなの?」

「他に何か?」

「お別れのキスは?」

「・・・・・・」


 最初の数秒間、彼女が何を言っているか、近藤は理解できなかった。

 近藤にとってあまりにも非日常的な言葉だったため、聞取れなかったのだ。


「お別れのキスは?」

 彼女は、微笑みながら、もう一度言った。

 おそらく、自分のことを試しているか、からかっているのだろうと近藤は思った。


「ここでキスをすれば、恋人らしく見えるでしょ」


 水上はつぶらな瞳で、近藤のことを見つめながら言った。

 照れくささから近藤は、思わず視線を逸らしてしまう。

 周囲を見渡すと、当然のことながら、同じ学校の生徒が何人も駅前に溜まり立ち話をしていた。

 確かに水上さんの言うとおり、この場でキスをすれば周囲に恋人同士であることを印象付けられるだろう。


「演劇部なんだからできるでしょ」

 どうやら、水上さんは、星野が演劇部であるため、一緒に居る近藤も演劇部だと勘違いしているようだ。

「演劇部じゃなくて、臨時の照明と音響の係なんだけど・・・・・・」

「そうなんだ。じゃあ、私の方からしたほうが良い?」


 それは、さすがにまずいと近藤は思った。

 別に、水上さんのことが嫌いと、キスしたくないとかではなく、一線を越えてしまう行為のような気がしたためだ。


「判った。右手を出して」

「こう?」


 近藤は彼女が刺し出した右手に軽く自分の右手を添えると、少し腰をかがめ、手の甲にキスをした。


「これが・・・今の僕の限界です・・・・・・」


 近藤は自分の顔が熱くなるのが判った。恐らく猛烈に赤くなっていることだろう。

 近藤が顔を上げ、水上さんの顔を見ると、驚いている様子も、怒っている様子はなく、むしろ少し喜んでいるようだった。


「今日のところは、これで許しあげるか。じゃあ、明日ね。バイバイ」

 水上はそう言うと駅の階段を軽やかに駆け上がって行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 近藤が家に着くと、珍しく家は明かりがついておらず、真っ暗だった。

 通常なら妹である三女の里桜りおが帰って来てる時間なのに。


『友達の家にでも行っているのだろうか?』


 そんなことを考えながら、近藤が鍵を開け、家の扉を開けると・・・


「パン!パン!パーン!」


 暗闇中で鳴る火薬の軽い爆発音。

 一瞬、何かと思ったが、よく聞きなれたクラッカーの音だった。


 電気がつくと、目の前には小六なのに、170センチ近い身長の妹の里桜りおが居た。

「お兄ちゃん。おめでとう」と、なぜか妹からの祝福。

 

「えっ、なんで? 1月生まれだから、誕生日とか全然先だし」

 近藤には、何が起きたのか理解できなかった。


 長身の三女、里桜の背後から、これまた長身の次女の美桜みおが現われた。

「いや~信也くん。彼女出来たんだって。何でも・・・早々にキスもしたそうじゃないか。しかも路上で」

「なんでそんなこと知っているんですか」

「そりゃ、星野君からに決まっているだろ」

 お酒を既に飲み、酔っている姉は嬉しそうに答えた。

「学年一の美少女なんだって。おねぇちゃんは鼻が高いよ。これからおねぇちゃんが、みっちりと女の子を喜ばせるコツを教えてあげるよ。付いて来なさい」


 その夜、近藤は三時間ほど、姉の講釈を聞くこととなった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「今日下校の時に、近藤とキスをしたんだ」

 水上は、ベットに寝そべりながら、小学校からの親友で同じ部活でもある高井まどかに、今日の出来事を話していた。

 同じ部活と言っても、部活の間は練習しているので私語は話せない。

 水上は毎日、30分、長い時は2時間ほど高井と話していた。

 高井まどかは、運動もでき活動的でボーイッシュと、水上と対照的だったが、不思議と昔から仲が良かった。


「マジかよ。演技じゃなかったのかよ。近藤と付き合うのは」

「演技だけど・・・どうせするんだったら、本当らしくした方が面白いでしょ。それにしたのは、唇じゃなくて、手の甲よ」

「手の甲?」

「そう。唇にしても良かったのに。照れちゃって。彼、意外と可愛いのよ。恋愛経験がない子って、面白いよね」



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