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僕は彼女が死んでくれて、どこか嬉しかった。

 彼女が死んだと初めて知った時、悲しさが心に広がる一方、それとは別の感情が、心の中に広がった。

 正直言うと、僕は彼女が死んでくれて嬉しかった。

 なぜなら、これで、もう彼女の心は誰のものにもならないからだ。


     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「初恋の人と結婚すると最も幸せになれます」

 子供の時に、姉とやった手相占いに書かれていた結果だった。

 占いなんて信じていなかったのに、その結果だけが、いつまでも妙に頭に残っていた。

 小学校でも中学校でも、良いなと思う人は居たけど、好きな人は居なかった。小学生でも高学年になると同級生たちが異性の話に夢中になっていた。でも、僕は、なぜ、そんなに夢中になれるのか正直分からなかった。


 彼女、神谷真里亜(かみやまりあ)に出会ったの中学3年の冬。高校受験の試験会場だった。

 彼女を見た瞬間に恋に落ちた。一目惚れだった。小動物のような小柄で愛らしい容姿と仕草の彼女に夢中になってしまった。長身で細身のタイプに憧れていたので、正直自分でも意外だった。

 彼女と同じ学校に行くために、動揺を抑え必死にテスト問題を解いた。

 それ以来、春休みの間も、彼女のことで頭が一杯だった。


 入学式では彼女ことばかり探していた。

 さらに運が良いことに、クラスが同じになった。しかも、名字が近いため、席が近い。勝手に運命を感じてしまった。

 つくづく、アホだと思う。

 できれば、同じ部活に入りたいと思ったけど、彼女が選んだのは、男子バスケ部の女子マネージャー。

 嫌な予感がした。

 彼女はカワイイ。当然、多くの男たちが目を付けている。

 男子バスケ部の女子マネージャーになれば、男子バスケ部の誰かと恋仲になるのではないかと妄想した。

 一瞬入ろうかと思ったけど、自分には向いていないので諦めた。これが間違いの始まりだったのだろうか。

 それ以来、悶々とした日々が続いた。


 その一方で、席が近いこともあり、話すことも多かった。二人の距離が、少しづつだけど近づいている感じがした。このまま、上手く行けば、彼女と付き合えるのではないだろうか。そんな甘い幻想を抱くようになった。


 そんな甘い幻想は、ゴールデンウィーク開けに聞こえた最悪のニュースで砕け散った。

 バスケ部の宮田勇次(みやたゆうじ)神谷真里亜(かみやまりあ)が付き合い始めたとの噂だ。宮田勇次は身長も高く、バスケも上手で、何よりも顔が良い。自分とは対照的なに肉食系男子。

 自分では勝負にならない。諦めるしかなかった。

 何度も諦めろ、諦めろと自分に言い聞かした。

 だけど、諦められなかった。悶々とした日々は、さらに続くこととなった。


 夏休みが終わると、久々に良いニュースが来た。

 宮田勇次みやたゆうじ神谷真里亜かみやまりあが別れたのだ。原因は不明だっけど、そんなことは、どうでも良かった。


 そのニュースを聞いて、心が暴走を始めた。

 彼女に告白したい。湧き上がる彼女への思いを彼女に伝えたい。

 勝算は最初からなかった。

 でも、自分の気持ちを抑えきれなくなっていた。暴走した。必死に抑えた。でも、抑えきれなかった。


 一週間後、僕は、告白した。

 そして、玉砕した。

 僕は自分の心と世界が崩れるのを感じた。


 当然、彼女との関係は急速に悪化した。気まずいを通り越して、険悪になってしまった。クラスで話すことは大幅に減少し、視線すら背けられるようになった。

 彼女の笑顔は拷問だった。

 自分には微笑んでくれないのに、他の男には微笑む彼女。以前は、楽しかった時間と場所が、もっとも辛い時間と場所になった。


 そして、それとは別に、僕の心の中で、どす黒い感情が渦巻いていた。


 自分のものにならずに、他人のものになるくらいならいっそ壊れてしまえ。


 自分が彼女を幸せにするのではなく、別の男の手で幸せになる彼女。

 そして、その笑顔を自分ではなく、別の男に向ける彼女。

 他の男に幸せそうに抱かれる彼女。

 そんな彼女に、この世に存在してほしくない。

 僕は彼女が他の男と共に幸せな人生を歩むことを妄想し一人で苦しんでいた。心の奥底から、どす黒いものが湧き上がり、嫉妬の炎が体を熱くするのが判った。


 こう思う僕は、本当に彼女を愛していたのだろうか。たぶん、多くの人は偽りの愛だというだろう。愛は、愛する人の幸福を祈るものであって、不幸を喜ぶ愛なんてない。


 僕が彼女に抱いていた感情は、性欲と支配欲だけだ。


 しかし、愛とはそんな綺麗なものなのだろうか。

 愛から生まれる嫉妬や憎しみもあるのではないだろうか。


 どうせ、僕には真の愛なんて理解できないのだろう。せいぜい僕が持てるのは、しょせん歪んだ偽りの愛に過ぎない。


 僕は、怪物が自分の中で育っているを感じていた。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 彼女が三日間ほど家に帰っていない。

 それを知ったのは、朝の学校に来た時だった。


 宮田と別れたのは、大学生の彼氏が出来たのが原因で、現在、その家に入り浸っている。だから学校に来ない。そんな噂が流れていた。


 彼女が居なくなってから一週間後。

 宮田がマンションから飛び降りて自殺した。

 遺書には自殺の原因は書いていなかったが、家族への謝罪の言葉で一杯だったと言う。警察では、恋愛の悩みによる自殺と処理され、事件性なしと判断された。


 結局、一週間経っても、神谷さんの行方は判らなかった。

 警察は忙しいのだ。女子高校生あたりになると自主的な家出や男との同棲で家に帰らないことは珍しくない。事件性がない限り、行方不明者の捜索に本腰を入れることはないのだ。


 もっとも、通常は親に連絡はしなくても、友達には連絡するものだ。

 しかし、それすらもないため、友人たちは事件に巻き込まれたのではないかと心配している。

 そのため、神谷さんの友人たちが集まり、自主的に神谷さんが現れそうなところを探しているらしい。

 また、知人に写メを送り、協力してもらっているとのことだ。


 だが、いまだに、失踪当日の足取りする掴めていない。

 僕は、彼女の捜索に人一倍努力する一方、僕は彼女が殺されたのではないかと考えていた。


 自分のものにならずに、他人のものになるくらいならいっそ壊れてしまえ。


 おそらく、彼女を殺した人間も、自分も同じことを考えていたのではないだろうか。

 彼女に恋焦がれていた人間は多い。犯人はそんな奴らの一人だろう。

 ひょっとしたら、自分が多重人格になっていて、別の人格が彼女を殺したのではないだろうか。そんなことを考える自分を異常だと思う。

 でも、僕の感情はもっと異常だ。何よりも、自分が彼女を殺していないことに後悔を感じていたのだから。


     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 僕がその女に出会ったのは、自分の部屋の中だった。

 家に帰り、自分の部屋のドアを開けると、黒髪の女性が勉強机の椅子に座り、自分のことを待っていた。

 年齢は高校三年生か、大学生くらいだろう。ベージュのブレザーにジーンズの落ち着いた服装が良く似合っている凛とした顔つきの女性だ。

 初めて会った人だ。当然、自分の部屋で待つように言った覚えはない。

 この女は、自分の許可を得ずに、勝手に家や部屋の中に無断に入ったのだ。


 自分が何か言う前に、女の方から声をかけて来た。

「川上薫さんね」

「そうですが。あなた、何をしているんですか。勝手に人の部屋に入って。今すぐ出て行かないと、警察を呼びますよ」

「勝手に入ったのはお詫びします。でも、私は今日、重大な用事があってここに来たんです。あなたを補導しに来ました」

「補導? あなた警察官なのか。私が何か悪いことをしたのか。第一、警察だからって勝手に人の部屋に入っていいのか」

「どうやら覚えてないようですね。あと、私は警察官ではありません。私は魔女です」

「魔女。人をバカにしているの」

 どうやら、この女は精神異常者らしい。私はスマホを取り出すと、警察に電話をしようとした。だが、警察には繋がらない。画面を見てアンテナの本数を確認すると一本も立っていない。いつもは3本立っているのに、なぜか、圏外になっていた。

「バカにはしていません。覚えてないようですので、思い出してもらうのが先決なようですね。詳しい話はその後にしましょう」

 そう言うと、女の手から棘が伸びだし、私の体に絡み始めた。


     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 自分の運命は、神様か、悪魔に弄ばれているのではないだろうか。時よりそう思うことがある。

 放課後、運悪く先生に捕まり、片づけを手伝わされた。しかも、自分一人だけ。

 その結果、たまたま、6時まで居残ることになり。たまたま、用事があり、普段なら行かない焼却場の裏の倉庫に行った。

 そして、彼女の声が聞こえてしまった。普通の人なら聞き逃してしまいそうな小さな声だったけど、自分には聞こえた。

 声の方向を見上げると、4階の非常階段のところで、誰かと話しているようだった。

 相手は、宮田の様だ。復縁の話だろうか。

 だが、どうにも違う。声こそ周囲に聞こえないように抑えられているが、二人の間は険悪で殺伐とした感じだった。

 気が付かれないように、静かに近づいてみて会話を聞いてみた。


 会話の内容は、予想だにしないものだった。

 神谷真里亜が宮田勇次に対して、子供を降ろすお金を出すように、迫っていたのだ。

 対して、宮田はお金を出す気がないどころか、自分の子供だと認めようとすらしない。


 そして、最後には…神谷を階段から突き飛ばした。

 落ちたのは、たったの1メートル50センチ程度。

 だけど、神谷さんの声は聞こえなくなった。宮田が小さい声で呼びかけるが、返答はない。

 宮田は、慌てふためきながら、神谷さんをその場に放置したまま、逃げ出した。


 僕は急いで彼女の側に行った。

 彼女のスカートは捲りあがりパンツは丸見え、そして、首は考えられない方向にネジ曲がっていた。

 念のため彼女の生存を確かめた。

 彼女は息をしていなかった。心臓も動いていなかった。


 カーン、カーン、カーン


 どこかで、鐘が鳴っていた。

 僕は再び自分の世界が壊れるのを感じた。 


 彼女は才色兼備だったけど。彼女は男を見る目だけはなかったようだ。宮田は、見た目もも良いし、頭も良いし、金も持っていて、運動もできる。

 それに比べて、僕は確かにとりえのない、草食性男子にすらなれないダメ人間だ。勝負にならない。

 だけど……結局のところ、宮田は、僕ほど彼女を愛していなかった。僕は彼女のためなら、死んでも良いと思っていた。

 彼女のためになら全てを捧げることが出来た。

 でも、彼女は、彼女のことを愛している僕よりも、あいつを選んだんだ。その結果が、これだ。

 自業自得、天罰だろうか。

 いや、天が穢れた存在である僕に味方をするはずがない。ならば、悪魔の悪戯だろうか。それでも良い。


 僕だけの彼女。

 僕は彼女の心を得ることはできなかった。でも、今なら、体を得ることはできる。 


 僕の中の怪物が目を覚ました。

 山羊の頭を持った悪魔バフォメットが自分の体に乗り移ったような不思議な感覚だった。

 いったい、どこからそんな力が出たのだろうか。僕は彼女の死体を学校の倉庫に運ぶと、彼女を犯した。


     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 彼女の体は白く美しかった。

 死んでいようが、そんなことはどうでも良かった。

 ようやく、諦めかけていた長年の夢が現実になったんだ。それだけで十分だ。


 僕は彼女を抱いた。

 柔らかくまだ温かい彼女。

 僕だけの彼女。


 僕はいきり立ったものを、彼女の中に挿入した。

 かつて経験したことがない快楽に僕は夢中になった。


 僕は悪魔バフォメットとなり、神谷真里亜を何度も犯し続けた。

 処女じゃないのは、残念だけど、いまはどうだって良い。心を得ることはできなかったけど、体は僕のものだ。誰にも渡さない。


 僕は、人気がなくなる時間まで待ち、彼女を自分の家へと運んだ。

 そして、氷やドライアイスを使い彼女の体を冷やした。


 朝と夜、家で彼女を犯すのが僕の生き甲斐となった。


 最初の一週間は、上手く行った。だか、さすがに全身を冷やすのは難しかったようだ。徐々に腐敗臭が出始めた。

 しょうがないので、頭と手とあそこだけを厳重に保存して、残りは解体し食べることにした。

 彼女の肉は綺麗なピンク色だった。柔らかくて、とても美味しかった。

 彼女と今まで以上に一体感を感じた。

 もう誰も、僕と彼女を別れさせることはできない。


 子宮に豆粒大の爬虫類みたいな赤子を発見したけど、食べる気になれなかったので、宮田のところへ送ることにした。


     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「神谷さんを殺したのは、僕じゃなくて、宮田だったのだか。そして、神谷さんは今、僕の中に居る。一緒なんだ」

 そう言って、川上薫は自分のお腹をさすった。

「どうやら思い出したみたいね。あなたを死体遺棄の容疑で補導します。あなたが行ったことは悪夢であり、通常の法律では裁けません。その替り、記憶を消し、あなたの霊能能力を消去します」

 だが、既に女の声は、川上カオルには届いていなかった。


「僕もマニア様みたいに処女で子供を産んだら。僕と神谷さんが二人で生んだことになるのかな。それとも、生まれてきた子は神谷さんの生まれ変わりなのかな。ねぇ、どう思う」




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