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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第2章 「恋のまじない」
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第6話 エピローグ

 ピエロが落とした大玉は、地面に当たり割れると、中から炎が噴き出した。

 観客席やテントの布に火は回り、サーカスのテント内は、炎と煙に包まれていた。


 そんな中で、近藤は、マルコシアスの翼に包まれ、守られていた。

「こんなの曲芸かよ」

 近藤は煙にむせながら呟いた。

 小野寺さんは、無事なのだろうか。それが近藤に取り一番気になるところだった。


「これからが、本番。お客様を巻き込んでの脱出スペクタクルです」

 小野寺さんは、まだ空中ブランコの足元のところで倒れていた。

 テントの火が、空中ブランコの柱が移り、柱が燃え始めていた。


 近藤は、必死に空中ブランコの柱を昇り始めた。

「簡単には昇らせませんよ」

 ピエロが近藤を邪魔をしようとするが、マルコシアスが阻止する。


「あなたが、私の相手ですか。良いでしょう」

 炎と煙に包まれた大テントの中で、ピエロとマルコシアスの間で、激しい戦いが始まった。


 ピエロが鎌を振り回すと、マルコシアスは、舞うように剣を振るった。

 マルコシアスの剣と、ピエロの鎌が、激しくぶつかりあい火花が飛び散る。


 ピエロは間合いを広げると、複数の手榴弾を投げた。

 しかし、マルコシアスは爆発する前に、それらを一刀両断する。


 戦いは徐々に、マルコシアスが押し始め、ピエロは防戦一方になり始めた


 一方、ピエロの相手を、マルコシアスに任せた近藤はようやく小野寺のところに到達した。

 小野寺は声をかけても、頬と叩いても意識は戻らない。


 近藤は困惑した。

 彼女を背負って、高い柱を降りるのも無理だった。


「マルコシアス」

 近藤は、マルコシアスを呼び寄せた。

 マルコシアスは戦いを止め、翼を広げる宙に舞い上がった。


「彼女を預けるから、逃げてくれ」

 近藤は小野寺を抱え上げると、マルコシアスに渡した。

 マルコシアスは小野寺を抱え、テントの外へと飛んで出て行った。


「君は、バカだね。マルコシアスがいない無防備の君が十秒でも私の相手が出来るとでも・・・・・・」


     ◇     ◇     ◇     ◇


「あなたが契約者ね」

 清水は、ベンチに座っている髪の長い美しい三十代前半の女性に声をかけた。

 上品な顔立ちのお淑やかな感じのする女性だった。

 

「なんで、判ったんですか」

 彼女は、透き通った声で答えた。

「この世界は、恋人たちの世界なのよ。一人でいる人間なんて、どう考えたっておかしいでしょ。妄想の恋人でも作ればよかったのに、不用心ね」

 そう言うと、清水は女性に銃を向けた。


 清水が引き金を引こうとした瞬間、邪魔が入った。

 突如、ナイフが飛んできて、女の胸に突きささったのだ。


 清水は、素早くナイフが飛んできた方向に銃を向けた。

 

 三十メートル程離れたところに、白い仮面を付けたタキシードを着た男が立っていた。

 すぐさま銃を撃つが、男は手に持っていたステッキで、銃弾を叩き落とす。

「何者?」

「君に用はない」

 そう言うと、男は溶けるように消えて行った。


 清水が女の生死を確認すると、女は既に絶命していた。


 清水は、微かだが女の残留思念を感じることが出来た。



 私は・・・男たちを幸せにするために、力を貸したのではないのよ。

 全ては、彼女たちを幸せにするために。


 私はね。駄目な女なの。

 地域や名誉にくらんで、幼馴染の・・・子供の頃から自分を大切にしてくれた人を裏切って・・・別の男に走った女。

 私は男を見る目がなかった。

 美しい顔をした私に、多くの男が声をかけてきた。

 でも・・・心の底から私のことを愛した男はいなかった。見た目だけの女、つまらない退屈な女。

 心の底から、愛してほしくて・・・私は男につくした。でも、駄目だった・・・私は、便利な女にすぎなかった。

 私は、田舎の同級生たちが、幸せな家庭を築いていくのが羨ましかった。

 私が振った男たちが、幸せな家庭を築いていくのが羨ましかった。


 私は・・・


 

 それ以上、読み取ることは出来なかったし、読み取る気にもなれなかった。


「余計なお世話ね。あなたは、いい歳して、愛の幻想に囚われた哀れでバカな女。ただそれだけよ」


     ◇     ◇     ◇     ◇


 結局。全てが幻になった。

 小野寺さんと近藤のデートは、現実の世界ではなかったことにされてしまった。

 それに伴ない、近藤が小野寺さんに告白し、振られた事実もなくなった。

 これは、近藤にとって、好都合だったが、現状、小野寺さんに告白しても望みがないということは、近藤の心の中に確りと残った。


 実質失恋した様なものだが、近藤としては、一回でもデートできただけも良しとすることにした。


     ◇     ◇     ◇     ◇


 小野寺瞳は、このところ同じような夢を見ていた。


「お兄ちゃん。置いて行かないで。私を一人にしないで」

 兄は天使になり、幼い自分を残して天国へ行ってしまう夢だった。


 兄と楽しく遊んだ後、鐘を合図にして、兄は天使になり、幼い自分を残して天国へ行ってしまう。

 草原や瓦、公園などに自分ひとりだけ残され、目が醒めるまで、泣きながら兄を捜しめ彷徨い続けていた。


 つい、この間までは、楽しい夢を見ていたような感じだったのに、近頃は、悲しい夢しか見れなくなってしまった。

 そして、起きると必ず涙で枕は濡れていた。


 兄を忘れたことはなかったが、なぜ毎晩兄の悲しい夢を見るか、小野寺には判らなかった。

「何で、こんな夢を見るんだろう・・・・・・お兄ちゃんに会いたいよぉ」

 小野寺は、現実の世界でも、寂しさのあまり涙を流すようになっていた。



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