第4話 告白
小野寺 瞳。
彼女のことを好きになったのは、いつごろからだろう。
正直言って、入学式で彼女を見ていてから、好きになっていたのかもしれない。
でも、ただ思っているだけで、何も出来なかった。
ただ、1年2年とクラスは同じで、共通の友人もあることから、何かと話すことは多かった。
特に2年になると、席も近くなり、話す機会は格段に増えた。でも、それ以上進展することはなく、深く知り合う機会がなかった。
ただ、遠くで見ているだけで時間が過ぎて行った。
「...そんなこと、突然、言われても困るよ」
近藤が告白すると、小野寺さんは、そう言って、突然泣き出した。
その言葉を言われた瞬間、文字通り目の前が真っ暗になり、世界は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
迷惑か・・・確かにそうかもしれない。僕は自分のことばかり考えていたことを反省したが・・・もう、どうにもならない。
近藤信也、16歳、高校二年生の恋の告白は終わった。
そして、泣きだすと言う予想外の展開に、近藤は困惑した。
「私、近藤君のこと。良い友達だと思っていたのに・・・・・・そんなこと言われたら。もう、友達じゃいられないじゃない」
「ごめん」
「何で謝るの。誤るくらいなら、好きだなんて言わないでよ」
その時、その言葉を彼女が、どんな顔で言ったのか、判らなかった。
怖くて、彼女の方を見れなかったためだ。
つくづく、だらしなくて、惨めな男だと思った。
彼女に振られて、当然だ。
惨めだ。
こうなることは、判っていたはずだ。
その時、ポケットの中に入れていた呪いの魔法陣を書いてあった紙が、突然熱くなっているのを感じた。
慌てて、ポケットから取り出すと、屋上の床に放り投げた。
まるで、意志があるかのごとく、折りたたんであった紙が開き始めた。
紙が完全に開くと、突然激しく燃え始め、火柱が上がった。
そして、火柱の中に赤い扉が現われた。
扉がゆっくりと開き、ピエロが中から現われた。
白い顔に、十字目。唇は不恰好な程赤く大きく、大きなまん丸の赤い鼻が付けられていた。二つ角の帽子に右半身が赤、左半身が青の左右で色が異なる服装。もう一人入りそうな程の大きなダボダボズボン。絵に描いたようなピエロの格好をしていた。
「なによこれ?」
小野寺さんは脅えていた。
「契約に元づいて、おまえを助けに来た」
そういうと、ピエロは、彼女に対して鎖付きの首輪を投げた。
まるで吸いつくように、首輪は彼女の首にはまった。
「なによこれ? 私をどうするつもりよ」
「お前に説明する必要はない」
「さぁ、これで女は永遠にお前の物だ。そして、同時に、お前も永遠に女の物だ。そして、対価として彼女の心をもらっていく」
「ちょっと待ってくれ。違うんだ。僕は・・・彼女を自分の物にしたいんじゃない」
「では、何をしたいんだ」
「彼女に好かれたいんだ。彼女と一緒に生きていたいだけなんだ」
「綺麗事を言うな。おまえの望みは、あの女を所有し、独占し、SEXをして、子供を作って、幸せな家庭を築くことだ。違うか」
近藤は、その通りかもしれないと考え、返答に詰まってしまった。
「拒否したところで、契約は履行させてもらう。それに今は拒否しても、じきに私に感謝するようになるさ。お互いにな」
そう言うと、ピエロは鎖を引き、彼女を扉の向こうに連れて行こうとする。
小野寺は抵抗するが、ピエロの引きは強く、小野寺はコンクリートの床を引きずられる。
「止めろ」
近藤は鎖を持ち、ピエロの行為の邪魔をする。
「無駄な抵抗だ」
ピエロは、大鎌を振り下ろすと、近藤の左手を手首から切り落とした。
激しい苦痛の呻きを上げると、近藤は床にしゃがみ込んでしまう。
「現実世界に戻れば、痛みは忘れる。そして、今のこともな」
ピエロは、そう言い残すと、小野寺を連れて扉の向こうへと消えて行った。
「運が良いな」
そう言って、清水は近藤の手首を拾った。
「手を出せ、くっけてやる」
近藤が彼女に左手を出すと、彼女は拾った近藤の手と切断目を合わせ、彼女の手をその上に添えた。
彼女が手を離すと不思議なことに腕はついていた。
痛みは消え、指もちゃんと動く。
「とりあえず、抱合はした。無理はさせるなよ」
「見てないで、助けれくれれば良いのに」
「今のは、過去の記憶だ。どうしようもない」
「一体何が起きたんですか」
「もう判っているだろ。お前の呪いが怪物を召喚したんだよ。そして、彼女の心は連れ去られた。彼女を取り戻しに行くよ」
「でも、どうやって?」
「そのために私は来たのよ。まだ扉が残っているでしょ。扉を通って、ピエロの世界に行くのよ」