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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第2章 「恋のまじない」
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第1話 失恋したのか? 

「信也。お前振られたんだってな」

 朝食を食べるために席に付いた近藤が、姉の真桜まおから言われたのは、朝の挨拶ではく、この台詞だった。


「振られたと言うより、彼女が引越しをしまして・・・」

「遠距離恋愛しているわけじゃないんだろ」

「そう言う訳ではないですが・・・・・・」

「それを振られたって言うんだ。信也。お前にあげたアイフォン没収だ」

「没収って、それはないだろ。第一、姉さんは、既に5(ファイブ)持っているから、必要ないじゃないか」

里桜りおにあげる」

 突然、自分に振られて、戸惑う里桜。

「里桜は、今の携帯で満足しているよ」

「決定事項だ」

 姉の暴君モード発動。

 小学校中学校と近藤の人生は、どれだけ姉に振り回されただろうか。

 

 いっぽう、近藤は、別のことも考えていた。

 やっぱり、一週間限定にしたのが、いけなかったのだろうか?

 考えても答えが出そうもなかったので、近藤は悩むのを辞めた。


 近藤が朝食の後かたづけをするために台所に立つと、すまなそうな顔で、妹の里桜が話しかけてきた。

「お兄ちゃんごめんね。里桜のせいで携帯取られちゃって」

「里桜は悪くないよ。悪いは、あの暴君です」

「お詫びに、お兄ちゃんに良いこと教えてあげるね」

「何?」

 小学校六年生に成長した可愛い妹が何を教えてくれるのか、近藤には見当もつかなかった。

「今、小学校で流行ってる。絶対かなうって噂の『恋のおまじない』」


     ◇     ◇     ◇     ◇


 よく晴れた雲ひとつない青空の日になると、近藤は、ときより教室を抜けて、学校の屋上で、一人で昼飯を食べるようになった。

 その時に、思い出されるのは、水上麗華と高井まどか。

 彼女たちの会話、笑顔、食べたご飯。

 全てが懐かしく、愛おしく思われた。

 彼女たちの時間は、実際のところ、ほんの数時間だったけど、近藤にとって、一生の思い出になっていた。


 彼女たちのことを思い出した時、うっすらと涙を流すので・・・・・・傍から見ると、振られて悲しんでいるように見えるらしい。

 

「近藤君」

 近藤が、空を見ていると、背後から声をかけられた。

 振り向くと、そこには、ショートヘアの利発そうな少女が居た。近藤の憧れたの女性、小野寺瞳だ。

「近頃、居眠りしていることも増えたけど。一人で屋上でご飯食べていること、多いよね」

 なぜ、小野寺さんが、ここに居るのだろうか。

 近藤は不思議に思ったがあえて訊ねなかった。


「ねぇ、近藤君の隣で食べて良い?」

 小野寺さんは、近藤の隣に座ると、お弁当を広げた。


「良い天気だね」

「そうだね」

 近藤は再び、空を見上げた。

「ねぇ。近藤君」

 近藤は視線を降ろし、小野寺さんを見た。

 彼女は、その愛らしい目で近藤のことを見つめていた。


「近藤君。ここに居る時ってさ・・・・・・やっぱり、水上さんのことを思い出しているの」

「・・・・・・うん」


「水上さんと近藤君って・・・・・・意外と、似合ってたね」

「そうなの?」

 その話は、近藤にとって意外だった。自分自身は不釣り合いだと、ずっと思っていたからだ。

「何と言うか・・・でこぼこ感というか、ほのぼの感がね」


 でこぼこ感とほのぼの感では、だいぶ違った感覚だと思うが、近藤はあえて突っ込まなかった。


「星野君から聞いたわよ。水上さんが呪われてないことを証明するために、水上さんと付き合ってたんですってね」

「うん」

「本当に、それだけだったの」

 彼女は悪戯っぽい口調で、近藤をからかうように言った。

「本当は、彼女のこと。好きだったんじゃないの。水上さんは、美人だし、頭が良いし、性格も良かったし・・・」


「どうなんだろう。僕には他に好きな人がいたし。でも、どこか惹かれるのものがあったのは、間違いなかったけど・・・」

「えっ、誰? 近藤君の好きな人って。私の知っている人?」

 君なんだけど・・・近藤は、そう言いたかったけど、当然そんな勇気はなかった。


「内緒。いつか教えてあげるよ」

「けち」

「僕は、けちじゃないよ」

「じゃあ、近藤君のだし巻き卵ちょうだい。美味しいんだってね。水上さんと高井さんが誉めてたよ。私も食べてたい」

「良いよ」

 小野寺は、近藤の弁当から、だし巻き卵を取り、パクリと一口で食べた。


「美味しい!! 近藤クン料理上手なのね。良い旦那さんになれるよ」

「小野寺さんは料理しないの?」

「基本しないかな。お弁当もお母さんが作ってくれるし」

「そうなんだ」

「がっかりした」

「多少」

 小野寺は、大きな溜息をついた。

「やっぱり、男の子って、料理が得意なことが好きなのよね。私も頑張らなくちゃ」

「そうだね」

「ハッキリ言うな。近藤君は。何でもできる優等生の水上さんと比べないでよ」

「比べてないよ」

「本当?」


 とりとめない話をしながら、お昼休みは過ぎて行った。


「そろそろ、教室に戻ろうか」

 小野寺さんが近藤に呼びかけた。

 時計を見ると、十三時五分になっていた。

 周囲を見ていると、既に大半の生徒が教室に戻っていた。

 

 近藤は、迷っていた。

 妹が教えてくれた「恋のまじない」は告白の時にするものらしい。

 そして、まじないを行う際の条件に、「野外で行うこと」「誰も居ないこと」があった

 今が、その絶好の条件ではないだろうか。

 「これを逃したら次があるのだろうか?」と思う心と「もう少し仲良くなってからしたら」と思う心があった。


「小野寺さん。もう少し。ここに居てくれるかな」

「なんで」

 小野寺さんが、無邪気な笑顔で尋ねる。

「大事な話があるので...」


     ◇     ◇     ◇     ◇


「やっぱり、お前のしわざか」

 近藤は、演劇部の部室にいる星野を見つけると、昼休みのことについて問いただした。

「そうだよ。でも、楽しかっただろ」

「確かに楽しかったけど・・・小野寺さんになんて言ったんだ」

「そこは・・・企業秘密。俺は俺なりに、信也のことを心配していたんだぞ。そもそも、水上さんのことは俺がお前に頼んだことだし。

 それにしても、現実は上手く行かない。偽りの恋人同士から本物の恋人同志へなんて・・・小説みたいには行かないか。

 それとも、役者がまずかなったのかな」


 演劇部の脚本家兼役者の星野守が失望感をあらわにした。


「すいませんね。大根役者で。第一、僕は役者じゃないし」


 近藤が演劇部に入ったのは、星野の影響だ。

 星野に憧れて入ったとか、友達だから影響されたとかではなく、巻き込まれたと言うべきだろう。


 星野は、父親が大泉の映画会社で働いている影響もあり、小学生の頃から脚本に関心があり、小説を書いていた。

 中学校三年くらいのときには、大手の無料小説サイトに登校して、数千人単位の固定ファンまで得ていた。


 その星野に昔から目をつけていたのが、演劇部の前部長の大森香織かおりだ。

 大森香織は、星野や近藤と同じ中学、小学校出身のため、星野のことを知っていたのだ。大森香織は、熱心に星野を勧誘した。

 そんな大森香織に対して、星野が出した条件が、近藤信也が一緒に入ることだった。


 中学校時代の近藤は、陸上部に所属しており、近藤は陸上部か帰宅部になるつもりだった。

 演劇に入ることを渋る近藤に対して、大森香織が使ったカードは、近藤の姉だ。

 大森香織と近藤の姉の美桜は、学年こそ違うが顔見知りだった。

 近藤は、姉からの圧力により、演劇部に入ることになり、星野も入ることになったのだ。


 それにしても、タイミングが良すぎる。

「もしかして、妹に頼まれたのか?」

「頼まれはしなかった。相談はしたけど。結果は聞かないよ。知り合いに知られると「おまじない」が解けるんだろ」

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