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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第1章 「呪われた少女」
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第13話 高井まどかの世界

 白い大理石で作られたアーチ型の天井とモザイク模様の床。

 天井には、まばゆいばかりの装飾と色鮮やかな格調高いステンドグラスがあつらわれ、煌びやかな巨大なシャンデリアが吊り下げられていた。


 巨大な王宮の最深部にある荘厳な謁見の間。


 その最奥にある黄金の玉座で眠りつく少女は、白いドレスを着たお姫様姿の水上だった。

 そして、側には、剣を脇に差す王子様姿の高井が寄り添っていた。


 高井は、水上の寝顔を見ながら、3年前のことを思い出した。

 

 高井まどかの母親が亡くなったのは、今から3年前の高井まどかが中学校2年生の春だった。

 クモ膜下出血による突然死。45歳のあまりにも早い死だった。

 

 母親に任せきりで、料理も洗濯もできない高井にいろいろと教え、助けてくれたのは水上麗華だった。


 母親を失い、悲しみに沈む日々を暮らしていた高井まどかの側にいてくれたのも、水上麗華だった。


 水上は、言葉による慰めこそ少なかったが、いつも側に居てくれた。

 私を悲しみから守ってくれた。

 今の私が居るのは、すべて水上のおかげ。笑っていられるのも、泣くこともできるのも、全て水上のおかげ。


 今度は、私が水上を守る。例え、悪魔の力を借りても。神に逆らってでも。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


「なんなんだ。あれは。まるでノイシュヴァンシュタイン城だな」

「よく舌を噛まずに言えたな」


 薬を飲んだ近藤と清水は気が付くと、深い森の中に居た。

 森から見える丘の上には、まるで夢物語に出て来るような美しく優雅な白い城が立っていた。

 

「ここが高井まどかの世界だ。彼女が居るのは、あの城の中だろうな」

「魔法って、ここまで出来るんですか」

「世界を創ること自体は誰にだってできることだ。君だって頭の中で自分に都合の良い世界を夢見るだろ」

 ここは、高井まどかの世界。

 彼女の願望や夢、理想が形になった世界と言うことなのだろう。


「それにしても、まるでシンデレラの城だな。高井はボーイッシュなのに意外と少女趣味だったんだな」

「全ての女の子は、ロマンチストであり、リアリスト(現実主義者)なんだぞ。知らなかったのか」

「そうなんですか。知りませんでした」

「いい勉強になっただろ。そして、リアリストだから、準備も怠りない」

 そう言うと、清水は、いつも持っているスポーツバックの中を探り始め、大型の拳銃2丁と木刀を取りだした。

「本物じゃないぞ。改造モデルガンだ。もっとも、魔物相手には本物以上に効果があるがな。あと、これは君の分だ」

 そう言うと、清水は近藤に木刀を渡した。

「マルコシアスが居るんで要りませんよ」

「君は魔法使いじゃないんだから、これ以上、マルコシアスを召喚しない方が良い。体を乗っ取られるぞ」

「なんでそんな大事なこと教えてくれなかったんですか。もう一回召喚しちゃいましたよ」

「一回くらいなら大丈夫だ。特殊能力を使いたかったら、悪魔を召喚するんじゃなく、自分の能力を使うんだな。悪魔の魔力を借りてな」

「自分の能力?」

「そうだ。普通のは能力の暴走である程度判るのだが・・・君の場合はサッパリ判らないな。戦闘向きの能力じゃいのかもしれないな」

「じゃあ、どうすれば良いんですか」

「とりあえず、戦うことだな」

「どうせ戦うなら、剣よりも銃の方が良いんですけど」

「駄目だ。下手な奴に銃を渡すと、背後から撃たれるからな」

 つまり、この木刀は相手を倒すためではなく、護身用と言うことらしい。この木刀もモデルガンみたいに本物の銃よりも魔物相手には効果があるのかもしれない。

「それにその木刀だって、洞爺湖の霊木から作った霊剣だぞ」

「それを聞いて急に胡散臭くなったんですけど」

「つべこべ言わずに、さぁ、行くぞ」


 近藤と清水は、緑に囲まれた城門までの急な坂をゆっくりと上がって行った。

 城門の前まで来ると、巨大な城門がゆっくりと開き始めた。


「中に入れってことみたいだな」


 城門が人一人通れるぐらい開くと、城郭の中からタキシード着た一人の、いや、一匹の二足歩行の白いウサギがトコトコとやってきた。

 目はウサギらしく赤眼で少し怖いが、毛並みはふかふかで、身長は腰ぐらいの高さなので意外と愛らしい。


「人面うさぎ?」

「人面犬みたいで嫌だな。せめて、うさぎ人間にしてください」

 うさぎ人間は、小さい女の子の様な舌足らずな声を出した。

「かっ、かわいい」

 そう言うと、清水さんは、満面の笑顔でウサギ人間を抱きしめた。

「うわ~、もこもこの、ふかふかだ~」

 それは、いままでクールだった清水さんとは思えない態度と声だった。

「ど、どうしたんですか。清水さん。大丈夫ですか」

「いや。ちょっと・・・とんでもない魔力にやられた。侮れない奴だ」

 そう言うと、清水はウサギ人間を静かに解放した。


 うさぎ人間は、大きく咳払いをした。

「本題に入ってよろしいですか」

「どうぞ。どうぞ」

「我が主は、城の最上階の謁見の間にて、姫君と共に待っているとのご伝言です」

「つまり・・・その道の途中に怪物を配置したから、ぶちのめして上がって来いってことだな」

「左様でございます」


 うさぎ人間は、伝言を告げると再び城郭の中へと消えて行った。


「あぁ~、一緒に行ってくれないんだ」

 清水さんは、凄い残念そうだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 城門をくぐり城郭に入ると、手入れされた色鮮やかな花で溢れた美しい小さな庭に出た。

 そして、正面には、白い巨大な城あった。


「で、どこへ行けば良いだ」

「知るわけないでだろ。こういう時は、とりあえず、大きい扉があるところに向かうんだ。目の前にあるだろ」


 近藤たちは庭を通りに抜け、大扉をくぐり、城の中に入ると、天井の高い広い長廊下に出た。


 そこには、剣や斧、槍、弓など様々な武器を持った白と黒のトランプの兵士たちが四十人ほど隊列を組んで待ちかまえていた。

 庭などに兵士が居なかったのは、城内で待ち伏せをしていたためなのだろう。

 もっとも、トランプの兵士たちは、薄いトランプが胴体なので正直あまり強そうに見えなかった。  


「どうやら。シンデレラではなく、不思議○国○アリスみたいだね」

「君には、そう見えるの? 日陰に居る兵士の顔を良く見てみなさい」


 近藤は、兵士たちの顔を凝視した。

 日陰に居る兵士の顔は、日向の兵士と異なり骸骨だった。


「判った? それが本当の兵士の姿。魔は闇の中でこそ本性を見せるんだ」

「で、どうするですか?」

「ぶちのめすだけだ」


 清水さんの言葉はまさに有言実行だった。

 清水さんは、ロボコップやダーティハリーに出てきそうな大型の銃を二丁取り出すと、冷酷にその大砲をぶっ放した。

 先手必勝、早いが勝ち。専守防衛などいう言葉は微塵も存在しない。

 その弾丸は、次々とトランプの兵たちの額を打ち抜いていく。


 近藤は、すぐさま、側にある柱に身を隠したが、清水さんは身を隠さない。

 身を敵にさらしたまま、次々と兵士たちを倒していく。

 自分に迫ろうとする兵士たちを確実に打ち殺し、ボーガンなど飛び道具を持つ兵士は物陰から姿が出た瞬間、打ち殺す。

 背後から襲おうとする敵に対しても、まるで背中に目があるように、反応し敵を見ることなしに打ち殺す。

 すぐさま、清水の周りには、廊下に死体の山が出来上がった。

 さらに、清水はその死体の山を踏み越えて歩いて行く。


 対して、近藤は木刀で、トランプの兵と対峙した。

 振り降ろされたトランプの兵の剣を、木刀で受け止めた。

 清水さんの言うことは、嘘ではなかった。

 近藤はトランプの兵を蹴り上げ、間合いを広げると、すかさず木刀を水平に振った。

 木刀は怪物たちの持つ真剣の方が刃こぼれするほどの真剣を上回る強度や硬度を持ち、怪物たちをバターでも切るが如く、切り裂くことが出来た。

 まさに、本物の日本刀を上回る霊剣と言ってよかった。

 しかし、どんなに剣が良くても、近藤の腕があまり良くない。

 一人の兵士相手に悪戦苦闘する状態だった。


 近藤が木刀で三体ほどの兵士を倒している間に、清水が残りの兵士全てを倒していた。

「こんな雑魚に体力を使っている暇ないぞ」


 清水の指摘は正しかった。

 城内は、想像以上に広く、部屋も多かった。

 そして、何よりも敵が次々に襲ってきた。

 トランプの兵士だけではなく。チェスの兵士や鎌を持った死神風の怪物などが次々に襲ってきた。


 近藤は戦いの中で特殊能力に目覚めるかと思ったが、相変わらず変化なし。


「本当に私に、特殊能力があるのでしょうか?」

「無い人間はいない。君は武道の経験はないのだろう。ここまで大した深手もなく来ていること自体がある種の驚異的なことだ。自信を持て」


 城内を彷徨うこと1時間、敵を倒すこと何百体。

 色鮮やかな美しいステンドグラスがはめ込まれた吹き抜けの回り階段を上がると、ようやく、城の最上階にある大扉の前に着いた。

 しかし、その道程で、近藤は特殊能力に目覚めることはなかった。


 大扉がゆっくりと開き、中から再びうさぎ人間が現われた。

 そして、深いお辞儀する。

「ようこそいらっしゃいました。奥で、王様とお姫様が、お前たちのことをお待ちしておられます。ここから先は王様とお姫様がおられる神聖な場所、無作法がないよう。私めが、お前たちを案内いたします」


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