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悪魔と契約しちゃいました  作者: ガラクタ・エントツ
第1章 「呪われた少女」
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第11話 永遠の世界へ

 十一時二十五分。近藤との約束の時間御少し前、水上麗華は、高井まどかに突然、呼び出され、吉祥寺駅側の喫茶店で会うことになった。

 水上は白いワンピースにスカートと女性らしいのに対して、ボーイッシュな高井は灰色のスエットにジーンズと対照的だ。


「今日デートなんだろ。突然会いたいなんて、電話して悪かったな」

「そんなの良いの。それより、どうしたの。まどか。急に会って、話したいことがあるなんて」

「水上と近藤君の仲を見ていたら、私も恋をしたくなったのかな。実は、私も好きな人が出来てね。でも、あたしって、そういうの水上以上に疎いから。水上に相談したくて・・・」

「本当。誰? 私が知っている人? 同じ学校の人?」

「うん。良く知っている人。」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 十九デパートの屋上は、昔ながらのデパート屋上という感じだ。

 コインで動く乗り物や遊具、植物が植えてあり、天気の良い休日の午後になると子供連れの家族が結構利用している。

 しかし、午前中ということもあり、屋上にいるのは近藤ただ一人だった。


 近藤は、言われた通り、オープンカフェでラジオを聞きながら水上さんを待つことにした。

 やることも特にないので、屋上の出入り口や雲を見て過ごす。


 突如、「ザー」と突如ラジオにノイズが入り始めた。

 また、調子が悪くなったのかと思っていると、水上さんが、屋上の出入り口に現われた。

 白いワンピースにスカートと可愛らしい服装だった。


 大声で呼ぶべきだろうか?

 それは少し恥ずかしいので、手を振って合図を送る。

 水上さんも、近藤に気が付いて、可愛らしく小さく手を振る。


 気のせいか、水上さんの姿が歪み始めた。


 そして、再びハッキリ見えるようになると、水上さんの姿は高井さんに代わっていた。


「どうやら、簡単な幻術はもう聞かないみたいね。耐性ができたのかしら」

 高井まどかは、遠くから大きな声で近藤に話しかけてきた。

「それに、私が来たことにも、驚かないところを見ると。脅迫メールを出したのも私だって、気付いていたかな」

「そりゃ、君を容疑者の一人に考えていたからね」

「何でそう思ったの?」

「行動と動機さ。犯人の行動は、彼氏の排除を狙ったものだ。

 だから、最初は彼女のことを妬む女性や振られたことを恨む男だと考えた。

 でも、手紙でもって、犯人の心理が少し判った。

 死の呪いの発動条件は、たぶん肉体的接触、キスだ。

 つまり、犯人が本当に恐れたのは、ただ単に付き合うことではなく、肉体的接触ということだ。

 そうなると、彼氏を作らせないことが目的ではなく、彼女の清純さを守ることが目的かもしれない。

 そんなことを第一に考えるのは、家族か。彼女のことを聖女のように崇める人間。

 もしくは彼女を愛しているけど、そのような行為が出来ない人間。もしかして・・・高井さんは同性愛者?」


「私は水上さんを愛しているわ。そうね。私、本人が気が付いてないだけで、同性愛者かもしれない。でも、あなたの推理は半分外れ。ところで、あなた、何者? 霊能力者。それとも、もしかして、私と同じ悪魔契約者」

「ただの探偵さ」

「どっちでも、良いか。どのみち、死ぬんだから。ビフロン」


 高井が悪魔の名前を叫ぶと、彼女の体から巨大な異形が現われた。

 全身、白い炎で燃え上がる亡霊。

 大きさは高井より二回り大きい2メートルほど。上半身こそ人型だが、下半身は蛇のように化け物だ。

 炎に熱さは感じない。むしろ、命を吸い取られるような寒気すら感じる。

 

 ネットの情報では、ビフロンは、死霊術や幻術にも長けているとあった。

 警戒すべきは、幻術。そして、死霊術に優れていると言うことは、悪霊を召喚する可能性も否定できない。


「マルコシアス」


 近藤は、高井と同じように、悪魔の名前を叫んだ。

 が何も起きない。

 力を貸してくれるんじゃなかったのか?


 近藤は、女の言葉を思い出した。

「力を貸してくれるわ。多分」

 確かに断定はしてなかったよな。


 それに、やっぱり、一週間お試し無料契約がまずかったか。


 どうする? 

 逃げるか?


「どうしたんだ。何も起きないじゃないか。手加減はしないぞ」

 そう言うと高井が召喚したビフロンが、近藤に向かって来た。

 ビフロンは予想より遥かに素早く移動し、近藤は逃げるのは無理だと思った。


 ビフロンは、一瞬で、近藤との間合いを詰めてきた。

 近藤は、無理を覚悟でビフロンに殴り掛かるが、ビフロンの体に触れることはできず突き抜けてしまう。

 振り向きざまに、回し蹴りをくりだすが、空振りしてしまう。

 ビフロンは両手で近藤の首を掴み、吊りあげた。

 近藤は激しく抵抗をするが、空振りするだけで当たった感触はない。


 不思議と掴み上げられているのに、息苦しさも痛みはない。

 ビフロンの両手は氷のように冷たく、掴まれているところから体が徐々に麻痺して行く感じだ。

 そして、全身から力が抜けていき、徐々に力が入らなくなっていく。

 このままじゃ、殺されるのも時間の問題だ。

 悪魔に殺されそうになっている以上、いまさら悪魔に関しての疑問は意味がない。

 ビフロンが存在する以上、マルコシアスが存在しているのは間違いない。

 力を貸してくれないのは、自分の問題だ。


「どうしようかな。このままでも、生命力がなくなって死ぬし。取り憑いて自殺させても良いし。どっちが良い」

「どっちも嫌だね。死ぬんなら、お前も道連れだ」

 近藤は、覚悟を決めた。

「本契約だ。命をくれてやるぞ。マルコシアス!!」


 近藤は、再び、悪魔の名前を叫んだ。

 すると不思議なことに、体の中に力が溢れ、何かが体の中を通り抜けた。


 そして、近藤の背後にも、天使のように翼を生やした人型の異形が現われた。

 両手には剣を持ち、その姿はまさに戦う天使だ。


 マルコシアスが剣を振り降ろすと、近藤の首を絞めているビフロンの両腕は容易に切断された。

 直後、高井が悲鳴を上げ、両腕を抱えしゃがみ込む。

 そして、苦痛の表情を浮かべながら、近藤を睨みこんだ。


 どうやら、悪魔へのダメージは本体へ連動しているようだ。

 そして、悪魔同士なら、ダメージを与えられるようだ。


 行ける。勝てる。

 でも、剣でビフロンを倒してしまっては、高井も一緒に殺しかねない。

 殺さない程度のダメージを与えるためには、剣じゃ駄目だ。素手じゃないと。

 そう近藤が考えると、マルコシアスの両手から剣が消えた。


「さっきまで殺されそうだったのに。私を殺さないように、手加減してくれるのかい。優しいね、近藤は。私はね。お前のそんなところが・・・大嫌いなんだよ」

 ビフロンは、再び近藤に襲い掛かってきた。

 マルコシアスも、近藤の思考に素早く反応し、ビフロンに右拳を繰り出す。

 

 右拳は、見事にビフロンの顔面を捉えた。

 近藤の拳にも、まるで、ドライアイスに触れたときような痺れや痛みを感じるが気にしている暇はない。

 続いて 左拳を繰り出す。そして、最後は右蹴りをビフロンの腹部に蹴り込んだ。


 ビフロンは弾け飛び、反対側のフェンスに激突する。

 一方、高井は床に嘔吐した。


 高井が動揺しているのは、近藤の目から見ても明らかだった。

 近藤が悪魔契約者と戦うのが初めてあるように、高井も悪魔契約者と戦うのは初めてのようだ。


 そして、その結果、明確な力違いあった。

 昨日の魔法使いが言っていた「マルコシアスは戦闘系だから、大丈夫ね」というのは、意外と正確な分析だったようだ。


「なに勝ち誇ってんだよ。近藤」

 高井は腹を抱えながら、立ち上がった。

「勝ったと思ってるんだろ。確かにお前の悪魔は強いよ。でも、水上は渡さないよ」

 フラフラしており、限界なのは明白だ。

 ビフロンには何か秘密の能力、隠し玉があるのだろう?

 いやない。

 あったならば、動揺しないだろう。


「絶対に!!」

 高井は、そう叫ぶとフェンスに向かって走り出した。

 そして、ビフロンにフェンスを破らせると、屋上から飛び降りた。


 急いで駆け寄ろうとするが、近藤の体は思いのほか自由に動かない。

 興奮して気が付かなかったが、体へのダメージは思いのほか大きかったようだ。

 ふらつきながら、フェンスに近づき、屋上から下を覗く。

 しかし、高井の死体も姿もどこにもなく、いつもと何ら変わらない大勢の人通りがあるだけだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 十一時三十五分。

 水上麗華が、井の頭公園のベンチで近藤を待っていると、突然、高井まどかが現われた。

 さっき会ったときは、いつも通りの元気な高井だったのに、今の高井は、顔色も悪く酷く疲れている感じだった。


 急いで、水上は、高井のもとに駆け寄った。

「どうしたのまどか。すごく調子が悪そうだよ。病院に行った方が良いよ。救急車呼ぼうか」


 高井は何も返事をせず、突然水上を抱きしめた。


 そして、水上の耳元で呟いた。

「やさしいな麗華は・・・」

 そして、突然、高井は泣き出した。

「どうしたのまどか。何かあったの」

「私は大丈夫だよ。大丈夫、何も問題ない」

 その言葉は、水上に語りけると言うよりも、高井自身に言い聞かせているように感じられた。

「それより、麗華・・・永遠の世界へ連れて行ってあげる」



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