第9話 カエルの友人の婚約事情。
「私は学院を卒業したら、スペーナの王太子に嫁入りよ。」
枕を抱えて、マリーが言う。
「うちはほら、兄妹が多いからね…義姉、義妹をいれたら12人もいるのよ。で、家臣に降嫁したりね…権力強化目的?それに使われたりするから。私はまだいい方ね」
「……」
「そのスペーナの王太子ってのが6つ上なんだけど、もう愛妾を3人も抱えてて…子供も4人もいる。そこに正妃に入るわけよ」
「……大国の姫も、大変そうね?」
「まあ、うちの父上も似たようなものだしね…側妃が4人もいるし。そんなものかな、って思うようにしてる。でも、あこがれるなあ!恋愛小説みたいな、たった一人の人に恋をするって!アン、あなたのところも、側妃とかいるんでしょ?」
いわゆる王家なんかそんなもんだと言わんばかりに、マリーが聞いてくる。
「…ごめん…うちは母が一人だけ。」
「え?でも…アンは一人っ子なわけでしょう?子供がいなければ国が乱れない?」
「…その時は親戚とかから養子をとるのだと思うけど…」
側妃が沢山いても大変だけど…確かに正妃一人、というのもある意味重圧なのかな?
うちの父母は二人とものんびり屋さんだから、私もそんなこと考えたこともなかったけど。
子供がいなければ、国が乱れる…か。先生が自分の身は自分で守れるようになれって言っていたのは、このあたりかしら?
アンジェリーヌは今まで自分がのほほんと生きてきたことを…反省する。
みんなに守られてきたんだなあ…と改めて感謝もする。当たり前すぎて気が付けなかった。婿をとっても、王は私だ。婿は王配でしかない。私が産んだ子が、次のベル国の王になる。自覚のなさを…痛感した。
「私は幼馴染の侯爵家の嫡男の婚約者がいたんだけど」
黙って聞いていたイレーネがぽつりと話し出す。
イレーネ?過去形になっているわよ?フール語の文法を間違えて?
「うちの国の第3王子がなかなか婚約者を決めないから…父上が何を思ったのか、勝手に私たちの婚約を解消してね…王子の婚約者競争に駆り出されたわけよ」
「え?だってイレーネは…弟さんがいるって言ってなかった?」
「そう。跡取り娘でもないのにね。父は王室とのつながりが欲しいらしいわ。うまくいったら、弟を廃嫡させて、私に跡を継がせてくださるそうよ。権力と富と、両方手に入るから。ふん。」
そう言って、カップの紅茶を飲みほしたイレーネ。
「父の目の前で、自分の髪を切って差し上げたわ」
カップを握りしめて…口の端だけで…笑っている?
ああ…それで髪が短いのね?
「……で…お父様はあきらめてくれたの?」
「…髪が伸びるまで、ここの学院に入れられたわけ。ブリアの学院だと、人聞きが悪いと思ったんじゃない?一方的に婚約破棄とかしちゃってるし。ブリアの貴族で髪の短い女なんて、未亡人か修道女しかいないしね。」
「……」
…なんか…みんな大変なんだなあ…アンはほんのちょっとだけ…自分の国が小国でよかったと…ほんの少し思った。
アンは二人にお茶を入れ直しして、ごそごそと国元から届いた箱を引っ張り出して、チョコレートを添える。なんだか…こういう時は美味しい物よね??
マリーが上品にチョコレートをつまんで、ぱくりと食べる。つやつやの唇に飲み込まれていくチョコレートを眺める。
「で?アン?あの家庭教師が恋人じゃないなら、婿には誰を狙っているわけ?」
「あー」
もぐもぐと無表情でチョコレートを食べているイレーネをちらりと見る。
「…ブリア国の、クリストフ殿下…」




