第8話 カエルは友人と語る。
「アン、可愛い~」
そう言って自分の部屋のドアを開けた私を抱きしめてくるのは、寮の右隣の部屋のマリーアンジュ。
総レースのネグリジェからふくよかな胸がこぼれそうな女の子だ。
結構背が伸びたと思っていたが…私は抱きしめられてちょうどマリーの胸に突撃される。
…本当にこの子、同じ年なのかしら?
同じ15歳にしては、大人っぽい。陶磁器のような白い肌、妖精のようなフワフワした金髪に濃いブルーの瞳。身長もあるし、すらりとした綺麗な足がネグリジェから伸びている。
「はははっ。相変わらずねえあなたたち」
そう言いながら私のベッドに寝転がっているのは、黒髪を肩口でバッサリと切り揃えている琥珀のような瞳を持ったイレーネ。私の部屋の左隣の住人だ。わりとシンプルな寝間着を着ているが、シルクだと思う。
「ねえねえ、前々から聞こうと思ってたんだけど、たまにアンを迎えに来る茶髪の男は、あんたの恋人?」
「…ん?」
やはりベッドにダイブしたマリーが聞いてくる。
「そうそう。私も聞こうと思っていた。」
寝ころんだまま頬杖をついて、イレーネが真顔で言う。この子は表情筋があまり動かない子らしく、いつも真顔に見えるが、目がキラキラしているところを見ると、興味津々、といったところか。
二人にお茶を準備していた私は、カップを運びながら、
「違いますよ。私の家庭教師です」
そう言いながら、サイドテーブルに3人分のカップを並べる。
「え?家庭教師と恋愛かあ…中々いいわね。国元にいるより自由だしね。身分違いの恋ね?燃えるわね?」
…何を言い出すのよ?マリー…。
「そうだなあ…婚約者にばれないようにね」
「あら。国元に置いてきた婚約者なんか、それなりに遊んでいるに決まってますわ」
…マリー?決定事項ではないと思うけど?
「…残念ながら、先生と恋愛はしていませんし…恋人じゃないし。国元に婚約者もいません!」
椅子に座ったアンが半ば呆れてそう言いながら、カップに口をつける。
今日もアンは髪を三つ編みにして、裾にレースの入った寝間着を着ている。
「あら?」
ベッドに座りなおして、マリーが驚いた声を上げる。
「もったいない!ものすごくいい男じゃない?」
…まあ、それは否定しないけど。
この二人…どこで見ていたのかしら?先生とはいつも正門で待ち合わせしてるのに。
「でも、私の父のアカデミア時代の同級生ですよ?」
「え?あんたの国じゃ、年が離れていたら、結婚も恋愛もしちゃいけないの???」
身を乗り出すほどのことでしょうか?マリー…。
「ん…どうでしょう?マリーの国ほどおおらかではないかもしれませんね。フールは自由過ぎです」
「うちの国では家同士で決めた婚約が多いから、20歳違い、なんてのはザラだけどね。お相手が10歳年下、なんて言われると、絶望しかないよな。乙女の一番きれいな時期を、子守で終わらせることになるからな。」
「……」
これまた…イレーネがすごく冷静に答える。ブリアの貴族も大変そうですね。
フールの第三王女のマリーアンジュとブリアからの留学生の公爵令嬢イレーネとは、クラスも一緒で、寮の部屋もお隣同士だったので、こうして食後に集まることが多くなった。
私の部屋が真ん中なので、必然的に私の部屋がたまり場になる確率が多い。
私はカップを置いて、二人に目を向ける。
「それで?お二人の婚約者殿は?」




