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第2話 カエルの決意。

【井の中の蛙】


国元に帰るとすぐに、アンジェリーヌは書庫にこもって、あの日、クリストフ殿下が口にした言葉を調べた。


要は…自分の狭い世界がすべてだと思って、他に広い世界があることに気が付かないこと。そういう意味の華国の格言だった。ご丁寧にも、大海を知らず、という語句まで付いている。


「なるほど」


バカにされた怒りよりも、言葉の持つ意味の深さに、思わず感嘆の声を上げてしまった。というか…深く納得した。


私は確かに、この国で生まれ育って、ただ一人の後継者として大事に育てられてきた。将来は婿を取ることになるので、今回のブリア国の第3王子のお誕生会に顔を出しに行った次第だ。あわよくば、大国とのつながりもできるしね、と、父上がおっしゃっていたし。

確かに国も小さい。それは否定しない。ブリア国やフール国に比べたら、小さい井戸みたいなものだ。


「ねえねえ、ドミニク?」

本のページをめくっていたぷくぷくの手を止めて、控えてくれていた何時もの侍女に話しかける。


「私、確かにカエルだったわ。これから、大海を知ろうと思うの」


「アンジェリーヌ様?」

「でもね、せっかくみんなが良かれと仕立ててくれたドレスをけなされる筋合いはないのよね。はるばるお誕生日のお祝いに行ったんだしね。うん。だから私、ここから巻き返してあの王子を跪かせて見せるわ!!」

「まあ!その意気ですわ!」

思わずガッツポーズを取るドミニクを見て、勇気をもらえた気がした。

「カエルの底力、見てろよー!!」

「応援いたします!アンジェリーヌ様!」


ほぼ同じことを父上にも相談し、厳しい家庭教師を見つけてもらうことにした。

今までも、もちろん勉強も礼儀作法も先生が付いていたが、みんなやたらと褒めすぎて、本当に自分が十分できているかどうか怪しいところだ。今までは当然だと思ってきたことが…確信を持てないものになった。


「できれば、この国の人ではない方がいいのですが?」


そう言うと父上が顎を抑えて考え込んでいたが…

「ああ。心当たりがあるから、聞いてみよう。私のアカデミア時代の同級生なんだけどね。でも、厳しいよ?」

「望むところですわ!お父様!」

アンジェリーヌは胸に手を当てて、大きくうなずいた。


*****


北欧に遊学中だったディーデリヒは、転送されてきたブリアのアカデミア時代の同級生からの手紙を開いた。暦の上ではとっくに春だが、ここではまだ暖炉に火が入れられている。


【元気でやっているのか?ディーデリヒ。

うちのもうすぐ13歳になる娘が、ブリアのクリストフ王子に、井の中の蛙、と言われたらしくてな。忖度なしで厳しく教育をしてくれる先生を探しているんだが、お前はどうかな?

以前、うちの国に滞在したいって言っていたし、ちょうどいいだろう?

ちょっと面倒見てくれや。】


まあ…ざっと、こういった文言が丁寧に書き込まれていた。

ベル国の国王のサインと印がある。


くくくっ、と、学生時代と何ら変わらない友人の手紙に、ディーデリヒは声を出して笑った。

「ベル国か。北欧も随分回ったから、そろそろ暖かいところに戻るのもいいかな…。フールに行く前に寄るか。」



ディーデリヒは便せんを出して、友人に返事の手紙を書き始めた。











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