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第14話 カエル 井戸に帰る。

あの後、結局、泣き過ぎて化粧も落ちてしまったので、先生と控室で踊った。


ホールから漏れ聞こえてくる音楽に合わせて、ワルツを2曲。

ヒールを履いていた私は、先生の肩ぐらいまである。手を取って…ダンスの先生に習った通り、微笑みあって踊ったの。先生の瞳が、頂いたペリドットそのままで…素敵な時間だった。


あんまり私が泣いたので、おろおろしている先生も初めて見た。いつも自信満々なように見えていたから。余裕のある大人?

先生が言葉を選んで私を慰めてくれた。


「…僕も言い過ぎたよ。今のアンを見たら…クリストフ殿下も君にダンスを申し込むよ?」


ここのところずっと、先生を驚かすことだけ考えていたので、先生にそう言われて…なるほどそう言えば最終目的はそこだったと思いだした。実はすっかり忘れていたとは言わなかった。


3月いっぱいで学院を卒業。

寮を引き払い、マリーとイレーネと抱き合って再会を誓って、私は自分の国に帰ってきた。先生はブリアに用事があるらしく、私を送り届けるとすぐに出発していった。


「先生、また会えますよね?」


先生の乗る馬車を見送りに出て、アンはふと、不安になって聞いてみた。

「アンジェリーヌはもう立派な淑女だよ?もう僕が教えることは無いなぁ。」

そう言って先生は笑った。

「……」

「まあ、またレイモンのところに遊びに来るかもだけどね?」


そうよね?父の友人なんですもの。私書箱宛に手紙を書いたら届くだろうし…。


馬車が見えなくなるまで手を振った。途中から涙でかすんで見えた。

私一人だけ置いて行かれてしまった気がして…心細かった。



「アン。いい2年間だったかい?」

一緒に見送りに出ていた父と母が私の肩を抱いてくれる。

「…ええ。とても素敵な時間でした」

「そうか…」


3人で並んで歩き出す。


「あいつは父親の俺より、過保護だったな」

「?」

父が思い出し笑いしながら、フールの学院に行くことになったいきさつを話し出した。

「父さんはブリアの学院に行っただろう?お前も、ブリアで良いかと思っていたんだがな?」

「……」

「あいつ…ブリアは共学だから駄目だと言い出してな。で、フールの女学院になったんだよ」

「まあ…。そうだったんですか。でもねお父様、私、フールでお友達もできて…」

「あらあら、フールでの出来事を話し出したら…何日もかかりそうだわね」

と、お母様が笑う。


深く息を吸い込むと…うまくは言えないが…うちの国の匂いがした。


懐かしく、愛おしい。


私はここで、生きていくのだ。そう思った。



*****


国元に帰ってからアンジェリーヌは荷物の整理をしたり、皆にお土産を配ったりして、慌ただしく過した。

うちの国もチョコレートが名物だが、フールのチョコレートはお花の形をしていたり、ミルク味だったり、お酒が入っていたり…チョコレート職人にはチョコレートをお土産にした。職人は興味津々だったが、「でも、うちはうちですから」そう言った。そう言うと思ったわ。

お針子さんたちに、フールのドレスを見せたり、ファッション雑誌をあげた。

レース工房に行って、フールの王室御用達のお店で、最高級品、と言われた話をした。


窓を開けると、もう春の風だった。

見慣れた景色が広がっている。


馬を引き出して、遠乗りする。

自分の国が一望できる高台まで登る。先生と乗馬の練習でよくここまで来た。

はるかに海。つながる運河。キラキラと春の日差しに反射して見える。

「綺麗だなあ…」

アンジェリーヌは、もう、誰とこの景色が見たいのかを自分で知っている気がした。


その人にもう一度会えたら、そう伝えようと思った。








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