第13話 カエルは先生に謝られる。
「…はい。先生。すみませんでした。」
控室の椅子に座らせたアンが、泣きながら謝るのを見て、ディーは激しく動揺した。
…廊下ですれ違いざまにアンを見つけてから、怒りに近い感情が湧いてしまった。
胸がこぼれそうなデザインのドレス。
肩も鎖骨も隠しもしないで…僕に気が付いてにっこりと笑う。
大人っぽい化粧…綺麗だった。
…冗談じゃない!
こ、こんなアンを舞踏会になんか連れて行けない!そう思った。
慌てて自分の上着を羽織らせて…誰にも見せたくない。そう…思った。
「先生…私、はしゃぎすぎちゃって…」
「え?…ああ…」
「着替えてきますね。すみません、せっかく来ていただいたのに」
「ん…ああ…いや。僕も言い過ぎた」
「……」
「ショールを借りよう。とりあえず、肩を隠そう。」
「……」
「…アン?」
「先生…私ね、先生にちょっと大人になった私を見てほしかったの」
泣きながらアンが話すのを、跪いて手を握りながら聞く。
ぽろぽろとこぼれる涙を、慌ててハンカチで拭く。
「…ああ…そんなに急に大人にならなくていいんだよ?」
「背も伸びたし。先生とダンスも踊れるぐらいになったのよ?楽しみにしてたの。小さい頃はお相手にもならなかったから。」
「ああ…うん…」
「このドレスね…フールの王室御用達のお店でね、ベル国のレースを褒められたの。色も綺麗でしょう?」
「ああ」
「私…嬉しくなっちゃって…先生に見せたかったの。やっぱり似合わなかったのね。なんだか、どこまで行っても私は勘違いしたカエルのまんまなんだわ」
「…アン?いや…綺麗だよ?」
「……」
「…僕も言い過ぎたよ。今のアンを見たら…クリストフ殿下も君にダンスを申し込むよ?」
「……先生?」
すっかり濃い化粧が落ちてしまったアンが、僕を見る。
僕は…参っていた。
女の子はこんなに急に大人になってしまうのか?
ほんの…半年会わないうちに?ほんの少し前にはあんなに小さな子供だったのに…。
僕は…自分のこの感情を、保護者としての責任、と思うことにした。それ以外にこの感情に合う言葉が見つからなかったから。
…それに…それでいいはずだ…。
アンジェリーヌはすっかり美しい女性になった。
*****
「はーん。先生、何やってるんだか」
「なによ、フラビオ?見えないわよ。もうちょっとそっちに寄ってよ」
「いい年して、女の子一人になに手間取ってんだかなぁ~」
「は?あんたは3人女を抱えてる自慢なわけ?」
控室のドアの隙間からこっそり二人をのぞきながら、マリーアンジュとフラビオが言い合いを始めた。もちろん、小声だ。
「はあ~?どこのゴシップ紙だ?ひと思いに潰してやるぞ?」
「は?火のないところに煙は立たないって知ってる?」
「マリー?今はそんな話じゃないだろ?あの子のドレスは、先生の色だって話だよ!クリストフはもっと濃い…エメラルドみたいな色だろう?」
「どうでもいい男の瞳の色なんて気にしたことないわよ」
「え?」
必死に隙間を覗いていたフラビオが、振り返ってマリーをまじまじと見つめる。二人でドアの隙間から覗いていたので、マリーの顔が思いのほか近いところにあった。
キスしたい。
「ん?なによ?」
訝し気に俺を見るマリーにキスをする。
「やっぱりマリーは俺のこと愛してるんだ!」
「なんでそうなるのよ?そして、なんで…脈絡もなくキスすんのよ?」
呆れて見返したマリーの今日のドレスは、俺の髪と瞳の色だもん。




