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第11話 カエル ドレスをつくる。

私たちはマリーに招待されてフールの王城にお邪魔したり、国内を案内してもらった。もちろん美術館や王立図書館や博物館にも出かけた。


フールは少し郊外に出ると、広大な耕地と広大な牧場が広がっている。

「なるほど…愛と自由というのは、お腹いっぱい食べることができるってことが前提なのか。」

アンはフールの果てしなく広がる小麦畑に立って、フールが農業基盤の豊かな国であることを再認識した。やはり、教科書や穀物収穫量の一覧表だけではこの小麦畑の広さはわからないものだ。


一年生の夏休みにはうちのベル国に遊びに来てもらった。三人そろってベル国の民族衣装を着て、お祭りに繰り出した。

イレーネは家に帰りたがらなかったから、ブリアに行く機会はなかったが。


あの後も、先生は何か月かに一度ぐらいは顔を出してくださった。

たまに会うからかしら?私が大きくなっていたから、びっくりなさっていたわ。

身長もだけど、胸だってそれなりに大きくなった。もう、ちびっ子扱いはしないはず、と思ったけど、先生からしたらまだまだ私はお子様らしい。


二年生の夏休みには先生とイング国まで船で出かけた。船は大きな宮殿のような旅客船だった。イングで初めて運行された蒸気機関車にも乗った。夏だけど涼しい国だった。こういうことも体感してみないとわからないもんだと、アンは思った。


笑ったり怒ったり泣いたりしながら…(もちろん、勉強もした。)

2年もあると思っていた学院生活も残り少なくなってしまった。


久しぶりに訪ねてくれた先生はスペーナ国に行ってきたらしく、お土産にペリドットのブローチをくれた。

8月生まれの私の誕生石だ。

スペーナで宝石の裸石を買って、それをフールで加工したものだそうだ。


「先生の瞳の色に似ているなあ」

アンは貰った石を陽に当てて眺めていた。なんだか、落ち着く、優しい若草色だ。

先生はまたイング国に用事があって行ってくるらしい。


…それにしても…


先生は…何を生業になさっていらっしゃるのかしら?どこかのボンボン?どこの国の?それでも、私書箱宛に手紙を出すと、ちゃんと返事が来る。

父の同級生、という情報しか知らないが、不思議と言えば不思議だ。父の通っていた貴族用の学院にいたんだから貴族なんだろうけど。


【マリーアンジュ様に3月の舞踏会のお誘いを頂きました。先生にエスコートをお願いしたいです】と年が明けるとすぐに手紙を出しておいた。

ほどなく、了承の手紙が届いた。フールの舞踏会で流行のドレスを見るのも勉強になるでしょう。と書かれていた。


…なるほど。そうですね。



マリーアンジュは卒業後に一年準備して、スペーナ国の王太子フラビオ様に嫁ぐ。

イレーネは髪を伸ばさなかった。そのまま奨学金を取って、フールのアカデミアに進むつもりらしい。

私は…卒業したら国に帰って、いよいよブリア国の第3王子のお誕生会に再挑戦する予定だ。


ドレスを作りに行くマリーにくっついて行って、フールの流行のドレスを眺める。

流行の最先端、といわれるマリーお抱えのドレス工房には何度か付いてきたが、毎回、驚くほどデザインや布地の流行が変わっていて驚いてしまう。

ほんの少し前は、胸元に切り替えのあるハイウエストのドレスが流行っていたが、今は腰の下で緩く切り替えがあるローウエストのドレスが最先端らしい。

生地も花柄から、無地のシンプルな色合いのものに。


…うちの国はもう何百年も同じようなエプロンドレスよね。まあ、民族衣装ならそんなものよね?


「アンとイレーネもここで作りなさいよ。お揃いにしない?」


新しいドレスを試着していたマリーが振り返って言う。


…って…今、マリーが着ているドレスは、胸を交差して支えたシフォンのような素材の薄い布が首の後ろでリボン結び…しかも赤。しかも、背中がほとんど見える。セクシー過ぎない????


「じゃあ、私、これにする」

イレーネがサンプルから選んで試着したのは…これまた襟ぐりが広く開いて、ベルベッドのリボンが付いている。形はすとんとしていて、ローウエストのデザイン。スレンダーなイレーネに良く似合う…と思ったら…こ、腰の近くまでスリットが入っている!!!

「いいわね」

「ええ??」

「アンは?」

「え?私は…」


ずらりと並んだ中で、私が気に入った色のドレスは、若草色のハイウエストのドレス。なかなかかわいい。

みんなに勧められて、試着してみると…

なんと!肩が、肩が何もない。胸の下で深緑のリボンが結ばれて、若草色の柔らかなスカートが流れるように広がる。それは良い。すごくいい。問題は…胸部分がふわっとしたお花の模様が編みこんである白のレース、のみ。


「こ…これ…落ちてこない?」

うろたえる私をデザイナーさんとお針子さんが微笑んで見つめている。

「落ちません」

「いや、しかし…肩ひもが…ないし。肩がまるきり出るし…」

「落ちません。そのレースはベル国の最上品を使用しておりますのよ?お勧めです」


…まあ!うちのレース?この国でも評価されているのね!

肩ひもが無い心配が吹っ飛んでしまうほど、自国の手仕事が認められていて誇らしい。王室御用達のドレス工房が言うんですもの、凄い物なんだわ。やっぱり!


「あら。いいわね。これにあなたがいつも眺めているブローチを合わせたら?そうねえ…深緑のチョーカーに付けると映えそうね。」

マリーがのぞき込んでそう言う。


鏡に映る私は、もう随分と背が伸びた。16歳になったし。夏には17歳よ。

若草色のドレスも、自分で言うのもなんだがよく似合う色だと思う。先生に貰ったペリドットを付けて…?似合うかしら?


くるりと回ってみると、三つ編みにしたアンの髪が弾んだ。


肩ひものないそのドレスは、私史上一番大人っぽい。


…先生は驚くかな?

先生と一緒にダンスを踊っても、もう、先生の腰を痛めたりしないはず。








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