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ダンジョン探索が始まらない

作者: 中崎実
掲載日:2026/02/09

ダンジョンだって日本にある建築物なんだから、法律で取り締まるんです。

 ダンジョンがいきなり発生したといっても、人はそう簡単に潜ったりしない。

 それはなぜか。


 ……一つには、資金と技術の問題である。

 未知の環境、湧き出す危険生物、そんなものを相手にしなきゃいけない場所に金と命を懸けてわざわざ行く理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だからダンジョンマスターが気合を入れて作ったダンジョンほど、敬遠される傾向にある。


 動画配信者だって、とにかく突っ込んでいくのは過激さが売りの無謀配信者くらいである。

 探検系や生物系のベテラン配信者になると、リスクを考慮しての動画撮影が常だ。罠と危険生物がてんこ盛りの殺意が高いダンジョンはどうしても、避けるか慎重に挑む傾向になる。そもそも、そこまで危険なダンジョンはそれなりに()()されることも増えるが。


 そしてたとえ殺意が低いダンジョンでも、発生させた後の、ダンジョン主にとっての問題もある。


 ……税務署と国土交通省である。

 問題があるダンジョンは、国が責任もって通行止めにするのである。


「なぜ我がこのような扱いを受けるのだ!」


 そっけない小さな会議室で、何やら時代がかった叫びをあげたダンジョン主に、担当Aは眼鏡をくいっと押し上げてから、ふか~いため息をついた。


「よろしいですか、あなたの『ダンジョン』は新宿区に開口しており、新宿区の地下40mを超えて存在していると確認されております。あなたの『ダンジョン』は()()()()()()()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、現時点で違法とみなされます」


 担当Aはいつもの通り、この国の決まりを丁寧に説明してやった。


「貴様らごときの許可が要るわけが」

「日本国内においては、日本の法律に従っていただきます」


 ダンジョン出現からしばらくは揉めたものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 ダンジョンはその入り口が開口した国の法律に従って取り扱う。国境を超えた場合は、開口部それぞれについてその所在する各国の法で扱うものとする、というルールが定められているのだから、新宿区に開口したダンジョンは当然、日本の法律でコントロールする対象になっていた。


「我は魔族ぞ!」

「種族による分け隔てはされません。平等に従っていただきます」


 日本の法律に、魔族は人間ではないなどという規定はない。

 実はこの辺も国会でだいぶん揉めはしたものの、現在では『魔族も獣人も人間』として定義されている。二足歩行する自然発生した知的生命体で人間と混血可能なら、すなわち人間で良かろう、という、わりとざっくりした考え方の下で定義が更新されていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。


「我は高貴なる魔族!貴族である!!」

「我々は貴族制を否定しておりましてね。我々のやり方が気に入らないとおっしゃるなら、相応の対応となりますよ」


 イラっとしたダンジョン主の手に魔法の火がともったが、警備にあたっていた係員がスプレーをプシュッとやると消滅した。


「なっ!?」

「いかなる手段であれ、加害行為があれば警察に引き渡しますよ」


 担当A氏、すっかり慣れ切っていた。

 世界各地に『ダンジョン』なるものがわき始めてから、はや10年。そこに住んでいる『ダンジョン主』なる無戸籍者(国籍不明)対応のマニュアルだってできた。

 そこの連中が振りかざす武器に対しても、対策が進んでいる。

 日本のお役所だって、慣れるんである。


 そして、ダンジョン主はそんな日本のお役所に腹を立てていた。

 まあ、貴族なんてそんな連中である。世間のルールは自分のためにあるのが当たり前で、ルールが自分に歯向かうようならそんなものは変えてしまえ、がお貴族様の思考である。ルールに従うなんて下々のやる事であって、従えと言われるのは何より不遜で許されざる要求である、というのがダンジョン主の考える『世界の在り方』だった。


「たかが平民が!」

「我が国は貴族の特権を認めておりませんでね」


 憲法改正が議論されたときも、そこの部分は全く取り沙汰されてもいない。つまり、お貴族様だけが得する構造なんて、日本人は作ってやる気が無いんである。


「貴様らの勝手な決め事に我が従う道理はないのだぞ!」

「警察呼びますね」


 叫びながらまた魔法の火を浮かべたダンジョン主に、警備員がシュッシュとスプレーをかけ、担当Aは事務的に警察に通報する旨を宣言した。

 そして宣言と同時に警官が入ってくるのだから、準備の良い話である。

 ただし、警官も入ってきただけで、まだ何もしていないが。


「それでは話を戻します。現時点であなたの『ダンジョン』は違法ですから、しかるべき手続きが必要になります。また、開口してから現在までに一年三か月が経過しておりますので、手続き後に納税してください。延滞金及び納税額については、算出後にお伝えします」

「平民如きが我に命令するか!」


 またシュッシュされるダンジョン主。

 そして警官がダンジョン主にずずいっと迫り、


「同行してもらいましょうか」


 と、無表情に告げた。

 対魔法装備と魔法消火器、それに逮捕術の達人である警察官の前に、ヒョロっちいダンジョン主は無力であった。






 違法ダンジョンはその後、お役所の手でダンジョンコアが排除され、潰れたそうである。

なお、殺意マシマシ危険ダンジョンについては、「刑法」「武器等製造法」「爆発物取締罰則」「生物兵器禁止条約実施法」などなどが適用され、摘発の対象になる模様。


また、建築基準法他の適用あり。

ついでに、固定資産税が課されます(なおかなりの高額になる事例が多いとのこと)


役人A「ダンジョンに分類される建築物の場合、建築法規にかかる許認可に関しては、建築開始後の申請は認められておらず、建築前に得る必要があります」

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