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7 小町ノ裏顔



「あれは山姥の娘ですか!?」

「さて」


近頃閣下の力を頼りに来る者はまず最近雇いいれた強力な小間使いを突破しなければならず、接見の難易度が上がっている。


「今度こそ死ぬかと思いましたよ。閣下、一体どこであんな用心棒を!?」

「市中で悪どい商人に騙されそうになっていたのだ。探し人があって郷里から出てきたらしい」


「ところで閣下、本日お伺いしたのは折り入ってご相談が──勿論こう大騒ぎされていては見当もおつきでしょうが」

「うむ」


閣下の片方の頭が机に畳まれた薄い緑色の新聞をみやる。

文字が紙から逃げ出すのを防ぐ釉薬(ゆうやく)の色である。

今でも時折文字が揺らいだり、一文字二文字逃げ出すことはあるが、インクや筆記具も改良が進んでいるし、いずれはこの不便も消滅することだろう。


二人が居ずまいを正して切り出す。

「天誅屋小町の件で──」





──ぶえっくしょん! くしゅん!

その頃、階下の店内では数え音が盛大に連続くしゃみをしていた。


「あら、大丈夫? 熱は──ないわねえ。 誰かが悪い噂でもしてるのかしら」

数え音の額に手をやった浮草が、何とはなしに刑事たちの来ている階上を見る。


「すいません……こっちに来てから、やたら鼻がむずむずしてたまにくしゃみが」

「まあ、それじゃ都病いね。地方から来ると、ほらこっちは狂い藤が年中咲いてるでしょ? そのせいでくしゃみが止まらなくなるんですって。一年くらいすると慣れるらしいわ」

「一年……」

数え音の顔がさすがにげんなりする。


「数え音ちゃんは名前もわからない人を探してこちらに来たと聞いたけど、わたしに手伝えることはある?」

ふるふるとおかっぱが振られる。

「いえ、人、というか条件に合う人間を。こちらの事情なので、手を借りるわけにはいかないんです。それに他にも手分けしていますから」

「そう。困ったことや人手が必要ならいつでも言ってね」

「ありがとうございます。閣下にもそう言って頂きました。こちらのわからないことを教えて頂くので十分ありがたいです」


丁寧に頭を下げるの所作をみると慎ましく品を感じさせ、とても大人二人を叩きのめしていたように見えない。

たまに粗野になるが、身につけているものは上等に見えるし育ちの良さも垣間見せる。不思議な子だ。


「今日は午後は菊子ちゃん一人でまわると思うから、休みでいいわ。いつもお店が終わってから、人探しの用事をしているんでしょ。見知らぬ場所で休みなくそんな風にしていたら体を壊すわよ」

「いえ、でも」

「いいの! 店主命令よ、ちゃんと休まなきゃ本当に風邪引くわ」



急に暇を与えられた数え音は、名残惜しげにカフェーのステンドグラスと閣下の事務所がある二階の窓を振り返ったが、まあ時間ができたものを無駄にするのも勿体ない。


鼻を啜って、この仮の体を都病いの影響をも受けぬよう改良せねば、と思う。

風邪や病にはかからない。

現世用の仮初めの空殻(うろ)だから。

自分の役割について思いを巡らせる。


地蔵坊は、昨晩地獄巡りをさせた男の家族の徳を確認している。

それによって、罪の計量が変わることもあるからだ。

それから後は寺を巡って、寄進などの本人の徳も確認する。

どちらも人を相手にするから、仮の体を使っての肉体移動であり時間がかかる。


白鴉(はく)は、陰謀の噂や奇妙な噂が集まりやすいということで、遊郭での情報収集を担当している。


数え音の仕事としては、次に罪を計量する罪人を探すことである。

計量違いが分かりやすく出るような、償われることもない重い重い罪を抱えた罪人を。

地獄との打ち合わせで、新月ごとに送り込むこととなっている。


〈天誅屋小町〉 とこの世の人間たちに呼ばれていることを彼女は知らない。


彼女は地獄からやってきて、罪人を探していた。

前代未聞の事態が起こっているからだ。


誰かが、裁かれるべき罪を盗んでいる。





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