30 長閑ナル後日譚
後日、冬密は天誅屋小町の真相なるも のを記事にして提出したが、荒唐無稽だと却下された。
しかし珍しく仕事をしたのを無下にすることもないと思ったのか、或いは冬密を拾って新聞社に入れた社長の口添えでもあったのか。
真相は謎だが、記事としてはともかく読み物としては面白いのではないかと、別口で暴露本となることになった。
あの得体のしれない三人組に多少は意趣返しが叶ったようでスッとする。
切れ切れの会話から正体と関係性を憶測した。
凶から事情を聞き出せればもっとはっきりするのだろうが、彼女は今身を隠している。
どうしても、と説得された。
身に障りがあるから断食して体質を変えねばならない。
だが、凶が人の不幸を食べていることで教祖と崇めている教団は納得しないし、冬密にも危害が及ぶから、一人きりになる必要があると。
自分も一緒に、と食い下がったが人から離れていることがどうしても必要だと説得できなかった。
納得はしていないが、この世で唯一と言っていい心を占める妻の懇願である。
折れざるを得ない。
指輪を撫でる。
浮気封じの呪具だと言って、梔子屋が中々洒落たものを寄越したのだ。
凶の指にも嵌まっている。
手堅い商売をしているから、効果は信用しても良かろう。
退魔の符は、あの世からやってきた少女にも使えたこともだし。
どうしても我慢できなくなれば、この指輪で居所を突き止めることもできるし、ばれないように遠目にできる場所に潜伏もできるだろう。
ただ、教団はまく必要がある。
家に帰ることを思うと頭痛がした。
札を使ってしまったので、尾が戻ってきてつきまとう上に、おかしな死霊まで連れ込んでいるのである。
おまけに始終いがみあっている。
一体なんなのだ。
なぜか会社には入ってこないので、このところ真面目に出勤してしまっている。
教団には、死霊のせいで凶が体を壊して静養していると今のところ言い繕っている。
尾が連れ帰ってきた幽霊は人の目にもはっきり見える上に、険がある表情でポルターガイストを起こしまっている。
そんな悪質な死霊に、納得してくれているようだ。
あんなあからさまに性格の悪そうな死霊の不幸をうっかり食べてしまったなら、教祖様と言えど体調を崩すのも無理からじ、と。
妻を探させないために、もう少し我慢した方が良いのだろうと思う。
愛とは、難儀だ。
カララン、と休日の札が下がったドアが開いてカウベルが鳴る。
「たっだいま、戻りましたー!!」
店内に元気いっぱいの挨拶が響く。
「おや、お帰り。里帰りは楽しかったかね」
テーブル席で朝食の皿を下げて、珈琲を嗜んでいた犬双閣下が顔をあげる。
「閣下、おはようございます! 休暇をありがとうございます! ええ、お陰様で実家の問題も目処がついたので元通りです。まだ、経過観察が必要なので、こちらに滞在してもいいとの許可も親からもぎ取って来ました!!」
数え音が目を輝かせて、拳を握って勝ち取ってやったぜなポーズをする。
若い女の子には都は目移りするものばかりで滞在が嬉しいのだろうと閣下が微笑ましく思いながら頷く。
「そういうわけでまだこちらでお世話になります! 精一杯頑張らせて頂くので、浮草姐さんもまたよろしくお願いします!!」
「あらあら、問題が片付いたのね。明るい顔になって良かったわ。こっちも助かるわ。うちは朝が弱い子が多いから朝方シフト入れる子がいないのよ~。あ、ご飯まだならうちで食べる? それとも珈琲いれましょうか」
閣下は和やかに会話を始める二人を目を細めて暫く見守る。
若い子どもたちの楽しげな様子は良いものだ。平和を感じる。
ばさりと、新聞を広げると今回の新月に天誅屋小町が現れなかったことを考察する記事が載っている。
少し残念な気持ちでその記事を読む。
閣下は案外野次馬で、ゴシップ好きなのである。
一味と思しき僧に遭遇したものの、話はかなりぼかして語られていたので全容を知るには至っていない。
ただ、彼にも背負う組織があるのは察せられたので、あまり詰問もしなかった。
義理堅さは、誉れであるし尊重すべきと思ったからだ。
暴露本と称する天誅屋小町の本が発売と広告があったので、今日は午後の散策がてら本屋を覗きに行こうと思案する。
外はうららかな小春日和でのんびりした一日になりそうだった。
《終わり》




