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扉が静かに開いた瞬間にゾッとする気配が流れ込んで明かりが全て消えた。

「凶ッ」


冬密は勢いよくもがいて、上に乗っかっていた数え音をどかした。

(ゆる)めていた縄を振り払う。

脱獄王に大枚払って昔取材した甲斐があった。


捕まえようとした数え音の手が突然バチっと弾き飛ばされる。

「なッ、」

退魔の符!? なんでこいつがこんなもんを!?

さすがに会話から、人間じゃ無さそうだと思った冬密は目論見が当たって喜ぶ。

尾を追い払うための符が役に立った。


一瞬の驚きを逃さず数え音を振り切った冬密が凶の顔をしていたものに駆け寄る。

「大丈夫か、何もされてないか──」

「馬鹿、寄るな! それは、」

冬密は言葉を飲み込む。


青い火が空に浮かぶ。

照らし出す顔の半面は凶のもの。しかし。


カクリ、カクリ、ガクン、ガクン。

均衡(きんこう)を崩しながら歩み寄ってくるその半分の顔はぶくぶくと泡立って、様々な顔が次々と浮かび上がり流れていく。


近寄ってくるそれの全貌が青い炎に浮かび上がると、それは人ですらない。

背中側が、芋虫のように膨らんで手と足が何本も生えている。人の顔も。


「なっ、なん、凶、凶に何をした!?」

「それは白鴉(はく)だ。離れろ。お前の嫁じゃない。罪障を回収しただけだ。さっきから言ってるだろ。しかし、ちと重いな。大分膨らんだし。その状態で門を開けるか、白鴉」


部分的にだけ凶の顔をした何かが、包帯の切れ端を引きずってずるずると歩きながら答える。

「なんとか」

答えた声は複数、何人もの合唱のようだった。

自分の声すら混じっていたような気もする。


おぞましい姿を目にしているだけで気が遠くなるのに、そこに自分を感じ取って総毛立つ。

なのに目の前では、なんでもないことのように会話が繰り広げられている。


「ただ、中に生き人のものも混じっております」

「それは、一旦地獄で選別するよりねえだろ。チクショウ、手間がかかるな。それもうちの局にまわされる仕事か」


(これが、凶の中のものを吸い取った姿、だと)


放心している冬密に、僧の男が近づいてきて促してくれる。

「奥方は奥に。安心なされ。白鴉は奥方が持っていては害毒になるばかりの他人の罪障を吸いとっただけ。奥方に大切なものもきちんと御戻ししておきました。体を冷やさぬように気を付けて上げて下され」

冬密はすぐに奥へと駆け込んでいく。


倒れている凶を抱き起こす。

本物の凶だ。

気を失っているようだった。


「大事はござらぬ。しかし他人の罪障を摂取(せっしゅ)するのは二度となさらぬように。それは地獄の領分ゆえに。くれぐれも奥方にお含めおきをお頼み申す」


「さて、事件はとりあえず一件落着か、おーい、一旦先に帰るぞ、地蔵坊」

「これでお父上も安心させてあげられますな」


「まだ戻ってきて後始末と予後調査が必要だけどな。恐らくあの女にも聴聞が必要になるが、生者の喚問にはこっち側の筋を通さなきゃだからな。面倒な手続きで時間がかかるだろうから、すぐってわけにゃいかねえだろ」


「門が関わっておるようですからな。一筋縄ではいかないかと」

「本当に厄介な。一体、あの門現世に通したの何処のどいつだよ。まぁいい、始末は頼んだ」

「お任せあれ」


僧の男に見送られ、動いて喋る不気味な造形物と刃物を振り回す少女が青い炎に(くる)まれて消える。


かくして、都から天誅屋小町の事件は途絶えた。


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