28 取リ立テ人ノ説明
地蔵坊が帰ってくると、内装の張り直しまでされていた。
掃除と修理のため、明かりがつけられていたが、窓はしっかりと目張りされている。
「地蔵坊、そっちは」
「話し合いで、お帰り頂きました。間男などと疑惑をかけている夫君がいるなかで貴君が登場したら、凶殿の立場が悪くなる、と」
「そ、そうか」
複雑そうに数え音が報告を受けとる。
「白殿は?」
「長引いてるな、あの女が普通に動き回っていたから考えなかったが、あいつの構造は、複数人数分を吸収する用には作られてねえし、やはり無理があるやもだな。容量だけ見れば可能でも、容れ物に負荷をかける代物だし、膨大だ」
数え音が難しい顔をした。
「念のため、あいつが動けなかった時のためにこっちですぐ冥府に渡れる算段はつけている。吐き出させて、別に移す用の処置も」
「その時は、お嬢が付き添いを。後の始末はお任せ下され。白殿の結界があるとはいえ、あの部屋の浄化も必要ですな。それに、成り行きで道の真ん中に落としてきた地縛霊も回収しないと」
「ああ。──って、なんだそりゃ?」
ふうっと、二人が言葉を交わす間に冬密が床の上で意識を取り戻す。
「うっ、ここは──。暴漢どもっ、妻をどこにやった!?」
ぐるぐる巻きにされながらもドタドタ暴れて冬密は果敢に数え音たちを睨み付けた。
「ちっ、めんどくせぇな。もう一回、」
鉈を振り上げた数え音を地蔵坊が制止する。
「いやいや、穏便に。申し訳ない、凶殿には我らの探しているものをお渡し願っている最中です。あちらの部屋で受け渡し作業を。時間がかかるのでもう少しお待ち下されよ」
地蔵坊が説明するが、むしろそれにより最悪を想像して、冬密が余計にどったんばったん暴れる。
「強盗も美辞麗句を使うようになったのか!? 妻はどこだ──それにもう一人の男がいないぞ! 何をされている!?」
「ですから──」
「縄をほどけッ、この悪党ども。妻を男と密室で二人きりにするとは、極悪の所業だ、畜生道にでも堕ちるがいい!」
芋虫縛りにされて吠える冬密の上にどかっと座り込んだ数え音が、ぼかんと鉈の柄で頭をはたく。
「うっさい!! 誰にほざきやがる。こっちは罪を回収させてもらってるだけだ!」
びしり、と鉈を突きつけて言い放つ。
「いいか、盗んでいるのはお前の女房の方だ。こっちは罪の計量が狂って多大な迷惑を被ってるんだよ! 取り戻してるだけだ」
「金品を罪の印だとでも言いたいのか! それを取り戻すだと。図々しい犯罪者根性め、地獄に落ちろ!」
「だからっ!! 」
かなり癇に触ったらしく眉に筋たてて倍の勢いで言い返される。
「こっちはわざわざその地獄から来てんだよ!! 盗まれた罪を取り返しにな! お前の女房は、地獄から罪を盗んでるんだからな!! 前代未聞の所業だぞ」
「は、罪を盗む? それを取り返すだと? 何をわけのわからんことを──」
そこで、今の都を騒がせている地獄巡りの件がよぎった。
僧。それに、地獄から来たなどと宣う少女。
一つの単語が浮かび上がる。
「天誅屋小町……?」
僧形の男を見ると、ばれてしまったがしょうがない、という風に頷きを返してくる。
狂暴な少女の方は怪訝そうにしている。
「なんだ、そりゃ。歌舞伎の演目か何かか? それとも打ち所が悪かったか?」
「嬢や、我らはそういう風に呼ばれて都で噂されているのです」
「そうなのか……?」
「お前が本当に罪を数えあげる呪いの歌を歌う天誅屋小町なのか!?」
「呪っ!? 失敬なヤツだな!? あれは、十段階認証の本人確認だ! 目当てを間違えると、確認のための正確な数字が出ねえから。基礎手順を踏んでる真っ当な仕事を呪い呼ばわりたぁ、お前どんなお坊ちゃん気質だよ!?」
「まぁまぁ、お嬢。こちらには、我らの仕事の内実や手順など知られておりませんし」
数え音が憤慨して言う。
「とにかく今やってるのは、むしろ親切の施しだ! 他人の罪障身に溜めたところで、死んだらそいつの地獄が長くなるだけなんだからな!! それをわざわざ安全に取り除こうとしてるだけだってのに、ぎゃあぎゃあ喚きやがって」
「凶が罪を盗んでいる? それはつまり──」
「奥方が食べているのは、人の罪です。不幸だと思っていたようですが」
冬密は黙り込んだ。
凶が食べたのは、彼の不幸ではなく、罪?
彼の罪とは──父を見捨てたことか? 望むような息子になれなかったことか?
あの、この世の重さからの解放感は罪の意識からの解放感?
彼に構わず、苛立たしそうに数え音が言い捨てる。
「全くこっちは疑惑を持たれて信頼に傷がつくし、業務は停止してるし、仲間同士で反目は起きるわで大迷惑なこった。地獄攪乱の罪はちゃんと本人のものとして残すからな!」
地蔵坊が黙り込んだまま、こぶが膨らんできた冬密を気の毒そうに見やる。
「白殿は人形ゆえに、妙な懸念は不要。ご安心召されよ」
湿布でも持っていなかったかと、懐を探り始める。
数え音は文句を言いたいだけ言って、彼の上に腰掛けながらもはや冬密そっちのけで深く吐息をついている。
閣下に会いに来る人妻がいたということがショックなのだ。
お年頃なのである。
地蔵坊が塗り薬を発見して、取り出しながら冬密を慰めるように言う。
「凶殿は悪意で為されたわけではないし、異常を感じて御自分でなんとかしようと為されていた。ですから、そのために情報を得られそうな相手を探して、相談のために会おうとしていただけです。密会は誤解ですぞ」
「「そうなのか!?」」
二人がその言葉に同時に勢いよく食いついてくる。
その時、奥の扉が開く音がした。




