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「本題に戻りますぞ。事はのんびり悠長に構えていられるものではないことをお分かりでしょう」

「あ、ああ、そうだな」


なんとか自分の心を立て直したのか、数え音が立ち上がる。


シャッ。


振り向きざまに、凶に向けて斬りかかった。

「凶ッッ」

目を見開いた凶がゆらりと後ろに身を引く。


駆け寄ろうとした冬密を包帯男が後ろから押さえつけた。

前に回り込んだ僧が落ち着かせようとする。

「傷ついてはおりません、近づいてはダメです。まだ形が安定していないものもおりますから、あなたが勢いよく突っ込んでは散らしてしまいます」

わけのわからない言葉で宥めようとするが、叶うはずもない。


「離せ、この暴漢どもめ。切りつけておいて、傷ついてないだと、凶ッ」

喚いて拘束から逃れようとする冬密の脳天をガツン、と衝撃が襲った。

「お嬢、暴力は」

「おとなしくなったろ。あれくらいのまだ不安定な肉体にしっかり着床してない魂魄だと、デカい声だけでも悪影響だ。話してわからないやつには手っ取り早い」


数え音が凶に静かに近づく。

凶は不思議そうに立っていた。

自分の前の小さな白い光を見つめて。

数え音は人差し指を口に当て、黙っているように示すと、エプロンのポケットから刺繍入りのハンカチを取り出して光を包んだ。


そして、さらに針と糸を取り出して、柔らかに光るふんわり膨らんだハンカチのまわりの空気を赤の糸で縫い始める。


仮止めをすると

「よし、ゆりかごの結界だ。強度高めの糸だから心配するな、防音だし喋って問題ない」

と息をついて、凶に言う。

「この子が……」

「ああ、見たところまだ影響を受けてる様子はねぇな。ただ、これからの保証はない、あんたが持ってるモンを返してもらう。異存はないな?」

凶はうなずいた。




「じゃあ、白鴉、頼めるか」

「では、別室にお連れします。あなたの体内に溶け込んでいるので吸引の際痛むかもしれませんし、飛び散ると困るので窓のない密室の方が良いかと。あちらの奥の部屋へ」


「どれくらいかかる?」

白鴉が首を傾げる。

「量が量ですので、一刻以上かかるかと。飛散防止に扉を閉じた瞬間に空間も閉じますね」

「わかった」


白鴉が彼女を連れて奥の部屋に入って扉が閉まるのを見守る。


「地蔵坊、一応そっちの縛っておけ。途中で目覚めて暴れられても面倒だ」

「そうですな、あ、そう言えば」

「ん?」

「こちらでの約束の時刻を聞くのを忘れましたな、お相手が来るまでに終わるでしょうか」


「! 密会の、時、刻」

思わず壁に手をついた数え音の、握りしめた手が壁を砕いてしまう。

「お嬢!? 数え音様、しっかり! 破壊は厳禁ですぞ!」

「そ、そうだな。直さないと。そ、掃除も、しないと」


ギクシャクと動き出す数え音を心配そうに眺めて、地蔵坊が顎を撫でる。

そう言えば、昔々数え音はそれはそれは可憐で淑やかな娘だったと閻魔王が愚痴っていたのを思い出す。


亡者のシンポジウムで外つ国の冥界を訪れた際、ケルベロスの一族と結婚話が出たが破談になって数年引きこもり、家を出ていって今のようになったとか。


なにかと心の傷を刺激するなら、遭遇しない方がいいかもしれない。

罪障を回収したら、冥府に帰るだけなのだし。


「…………、お嬢」

「あ?」

「白鴉の邪魔になることがあってはなりませんし、その約束の相手がどこまで来ているか見てきます。一刻ほどかかるなら、場合によっては足止めも」


「ば、馬鹿言うなっ、閣下を足止め!?」

「ご心配召されるな、仏に仕える身。荒事など考えておりませぬ。しかし、この事態を知る現世の者が増えるのは冥府側からしても好ましくありませぬ」

「閣下の顔も知らんだろ」

「御仏の導きがございますので」

「あ、おい!」


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