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24 浮気現場急行



冬密はレンガ造りのビルを見上げた。

ここに妻の浮気相手が。

頭に血が昇ってとっさにこちらに来てしまった。

向かうべきは梔子屋で、相手の名前と 素性を伝えるだけで事足りたはずなのだが。


ビルに明かりはない。

一体こんな暗がりで何をしているというのだ。

入り口は鍵がかかっていたが、普段使わない家の鍵で開いた。

凶と暮らす家の鍵は、他の錠前を壊す。


ちなみに家に鍵はかけない。

どうせいつも信者が見張っているし、誰が入り込んだとて、彼女を愛する自分以外はいずれ何らかの障りを受ける。


暗がりで何も見えない。それでもなにやら人の声らしきものを聞き付けて冬密はそろりそろりと階上に向かった。


「そんじゃ、盗んだものを返してもらうことにゃ同意だな」

「ええ、安全ではないのでしょう? 悪い影響を与える危険があるなら、それがこの子のためになるなら。でも、吸い出すと言うけれど、その方法に危険はないの?」


「我らは、どこで計量の数値がおかしくなったのか、現世でも何人か生き人を測定するのに、それを試しました。その後の経過も見守っているが、精神上はともかく健康上の問題は見当たらない」

「それと、わかってるだろうが──」


凶だ! 凶の声がする!

年輩の男と、それと、少女?

どういうことだ?

まさか、凶の相手の男は変態的性質で、乱交でも強要されているのか!?


突如動揺するような声がした。

「それは!?」

「魂分けの切り離しに使う。こっちでは、魂魄と肉体を麻痺させての一時切断用として使って、測定試験をしてた。生身で地獄に連れて行けないが、あっちでの計測値も確認したかったからな。今回はそっち(・・・)に影響がないように、あんたから退避させる」

「本当に大丈夫なの!?」

凶の不安そうな声。


思っていた以上に状況がまるで分からないが、凶がなにか不安に思うようなことをされそうになっている!


冬密は階段を駆け上がり、ドアを開け放った。

「凶!」




足元から突然青い炎が噴き出し、たたらを踏む。

「なんだ!?」


ぼうっとした青い明かりで浮かび上がったのは、包帯男に、僧形の顎ひげ中年男と妻の凶。

そして、鉈を振り上げたメイドエプロンの少女。


完全によくわからないメンツが妻を囲んでいる。

そして妻に、刃物を振り上げている!

コスプレ追い剥ぎ集団か!?


鉈を持った少女がつかつかと歩み寄ってきて、冬密をぎろりと見上げた。

「なんだ、てめえ。空き巣か」

なんて育ちの悪い口調だ。

ろくでもない環境で育って、この年齢で変な格好をする主義の追い剥ぎ集団に加わっているとは嘆かわしい。

「追い剥ぎに空き巣呼ばわりされる覚えはない!」

「なんだと!?」


「お嬢、それは凶殿の夫です」

僧の男が後ろから声をかける。

少女が鉈の柄で肩を叩きながら、視線を冬密から後方の僧に移す。

「夫? こいつはこの件に無関係なのか? なんでそいつが今ここに?」

「探偵の雇い主らしいので、奥方の密会を疑って()けてきたのではないでしょうか?」

「お前たち、人間に尾行されるようなルートでここまで来たのか? それに密会? ──誰と? こっちは足跡を残さないよう急襲が基本で、予定を入れた覚えはないが──」


冬密は足下で燃える不可解な青い炎に構わず、中年の僧と包帯男両方を果敢に睨み付けた。

「お前たちどちらかが『犬双』というヤツではないのだな、ではやはりただの追い剥ぎ集団か!?」


ガツッと少女の持っていた鉈の先端が冬密の顎を打つ。

「閣下をヤツ呼ばわりたぁ、ふてェ奴だ。一体お前と何の関係が!?」

「追い剥ぎごときになにを説明することがある?」

「なンだと?」

不良少女とメンチをきりあう。


「まあまあ、嬢や。落ち着いて。短気は損気ですぞ」

「姫様、成敗が必要なら白鴉が承ります!」

「白殿は、状況をややこしくするから、黙って」

「地蔵坊どの、白鴉です」


「あなた……」

凶がひどく悲しそうにこちらを見ているので、冬密の胸がキリキリと痛む。

彼は妻の密会を知って、絶賛不幸だ。

美味しそうと思って、自分に関心を戻してもらえないだろうか。


「推測するに、凶殿の夫は、不貞を疑っての探偵依頼でしたので、ここで密会が行われると探偵から報告を受けて現れた、というのが妥当な予測かと。さすがにただの人間の身では我らの尾行は無理です」


「密会って、こいつがここにいるということはここでか? 誰と?」

「その方が探偵から受けた報告によると、『犬双』という名の者では? 我らをそうではないかと疑っておりましたし。そう言えば、お嬢が世話になってるのもそんな名前の、」

「閣下と!? 密会!?」

なぜか少女がひどく動揺する。


「ち、違うよな」

ひどく不安そうに凶を振り向く。

「こちらで会う約束をしておりました。ここに連れて来られたので、御存知の上で、あの方の関係者かと」


おずおずと凶の答えるのを聞いて、冬密と少女が同時にくずおれて、頭を抱える。

「そんな、やはりわたしでは物足りなかったか……」

「閣下が人妻と密会……」


ススス、と包帯男が少女に寄ってくる。

「姫様、ご気分が優れませんか? わたしがそれを吸い出しましょうか?」

「白殿、気持ちはわかるが、容量ギリギリと言っておられたろう。お嬢、よくわかりませんが気を建て直して下され。今は冥府の問題を解決する時ですぞ」

僧が吐息混じりに諭す。

「そ、そうだな、うん」


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