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23 箒ト少女



僧衣の男と合流して、 西洋風ビルの前までやってくる。


包帯男の正体はよくわからず、僧の方も複雑な気配がした。

神気に近いものと、どす黒い怨念に近いものと、見知らぬ異界の気配。

ただ、妖たちが使う影の道もいくつか使っていたから、現世にもなじみがあるようだ。


人間は鈍感らしいが、この世界とこの地に属するということは思った以上に気配に出るものだ。

多分、どこかの門の向こうからやって来たものと推測する。


凶は特に逆らわなかった。

彼らの話に興味があったから。

自分に必要な何かがあると感じていた。


「ここは──」

まばたきする。

改めて彼らに確認しようとする前に、白鴉が嬉しそうに声をあげる。

「姫様」


ビルの前に、たすき掛けした着物にエプロンをつけたりりしい顔の幼い少女が立っている──箒を掲げて。

隣には雑巾のかかったバケツがある。


「よし、来たな。始めに言っておくが、他人様の建物だから、汚す壊すはなしだぞ。用件が済んだら、来たとき以上に完璧に綺麗にして退去する。空殻(うろ)を脱ぐのも緊急時以外、ナシだ。わかったな!」


びしっと人差し指を立てて、きっぱりそう言い放つ。

凶はきょとんとしていたが、横の二人はほぼ同時に返事する。

「はい、姫様」

「無論、承知」


少女が凶を見た。

強い目だ、と羨ましく思う。

凶自身は自分がどうなってしまったかわからず、不安で迷うばかりだから。


「あんたが、罪人から罪を盗んでいる盗人か」

無礼な言葉を投げかけられる。

「あんたのせいで、冥府も地獄も迷惑を被ってる、こっちの信用はガタ落ちだ」

「わたしが、罪を、盗んでいる、と言うのね」

道中、連れの二人もそう言っていた。

「わたしが食べていたのは、人の罪だと」


今度はきょとんとするのは少女の方だった。

「変な新興宗教をやっているのは知ってるが、まさかと思うが売り文句じゃなく本当に食ってるのか?」

「嬢や、凶様は今まで人の不幸を食べていると思っていたそうです。ご自覚はありませぬ」


「美味い、のか??」

純真な疑問の目で見つめられて、凶は目を伏せてもじもじする。

「ええ、とても酷い記憶がある人ほどスパイシーで辛みがあって、喉を通った後もしばらくジンジンして、強烈にクセになるの」

背徳的な喜びがあるので、こうも少女にまっすぐ問われて少し恥ずかしい。

だから、夫に見られるのも嫌なのだ。


「門の影響だそうです。冥府への作為はありませぬ」

「門か」

僧の申し添えに、少女が舌打ちする。


「とにかく詳しく話を聞かせてもらう。中へ。全員、ちゃんとドアマット使って、泥は拭えよ」

「姫様、中に結界を広げましょうか。凶様は陰気を溜めていらっしゃるので恐らく建物が傷みます」

「確かに」

「よく気がついた。偉いぞ、白鴉」

「偉いですか、嬉しいです」

「保全のためだけなら、我々のいる階だけで良かろうかと。広範囲だと、気づかれやすくなりますからな」


害意は感じられない。

どんな話が繰り広げられるのか、自分を解明できるのか、救いになるのか。

すがるような思いで凶は後に続いた。





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